03 ちょっと前の話2
二人はしばらく歩き、やがて小さな公園にたどり着いた。
少し遊具があるだけのごく普通の公園だ。幼い子供が走り回って遊んでいる。
ハンサムは近くにあった自動販売機で缶コーヒーを2つ買ってひとつをサターンに手渡した。
「悪いな」
二人はその公園のベンチに腰を下ろした。
「ミオシティで何をしている?」
「あんたはこうてつ島で今起こってること知ってるか?」
「ギンガ団がこうてつ島で何かしていることは知っている」
サターンは小さく笑った。
「その通りだ。もっとも、俺はボスが何を考えてこうてつ島に手を出してるのかは知らないがな。ボスの目的を知ってるのは誰もいない」
「ならなぜ、アカギに従う?」
「ボスには人を引き寄せる何かがある。それに俺はボスに借りがあるんでね。普通に金とかじゃ返せないくらいでっかい借りが」
「借り?」
「あんたには関係のない借りだ。聞いたところでどうこうなるもんでもない」
そう言ってサターンはコーヒーを一口すすった。
「ボスの目的は知らないが、どちらにせよこうてつ島からはもうすぐ離れる予定だ。襲撃してもしなくても変わらない」
「では……サンという幹部はアカギの目的を知っているのか?」
「あいつのこと知ってるのか」
「名前くらいしか情報は入っていないがな」
「あいつに関するデータはギンガ団の名簿はおろか、どのデータにも名前すら入れていないんだがな」
ハンサムは一息でコーヒーを飲み干し、それを近くのゴミ箱に投げた。
「サンという幹部は実在しているのか?いない人間をでっち上げてこちら側が思うように動きにくくするためのデマか?」
「はっ、面白いことを言う。あいつは実在している。これは本当のことだ。賭けれるものがあれば賭けてもいい」
そうとだけ言うと、サターンは立ち上がりクロバットを出した。
「ああ、そうだ。ひとつ頼みがある」
ハンサムは怪訝そうな顔をした。
「頼み?ギンガ団の頼みをきくと思っているのか?」
「もしあいつ……サンの正体を知ったとしても公にしないでほしい」
「公になるとなにか不都合でもあるのか?」
「あいつのためだ。別に俺のデータが公になるのは構わないが、あいつのものだけは公にしてほしくない」
真剣な顔でサターンは頼み込んだ。ハンサムの長年の勘が正しければ、サターンの目は本気だった。
「場合による。それはこちらで判断することだ」
「そうか。ついでに言っておくが、公にするというのは国際警察のデータに載せるなということだ」
「どういう意味だ?」
「国際警察のデータベースのプロテクト、脆すぎる。あんなところに載せたら即全国ネットで広がる」
「なっ……あのプログラムがか?」
「あんなの俺でも侵入できる」
そう言うと、振り返ることなくサターンはクロバットに捕まりこうてつ島の方へ飛んでいった。
(サンは何者なんだ?サターンがあれほど隠したがるのはなぜだ)
ハンサムは日が暮れるまで公園のベンチに座り込み考えたが、結局何も出てこなかった。
そして電話で国際警察のサイバー課にデータベースのプロテクトを見直すようにと伝えて、再びどこへともなく歩いていった。