06 ミオ図書館
こうてつ島を後にしたサンは、一度ミオシティに降りた。もう暗くなっていたからだ。
近くにあったミオシティのマップを見ると、少し行ったところに図書館があるのを見つけた。
『本?読むの?』
横にいたリーフィアが訊ねた。
『どうせもう暗くなるから次の町に移動するのは大変だし、今日のことでみんな疲れたでしょう』
『久しぶりにサターンのレントラーに会った気がする』
『確かに久々に会った気はした。じゃあ図書館行くよ』
彼女はそこで言葉を切ると、図書館に向かって歩きだした。
図書館内はこざっぱりとしていて、本棚にはぴっちりと本が並んでいた。
彼女は受付の女性に神話関係の本がどこにあるかを訊ねていた。
「4階にシンオウ神話関係の本はあるけど……お嬢ちゃんには2階の児童向けの本の方がいいかもよ」
「そうですか……ありがとうございます」
彼女は受付の女性に勧められた通り、2階に向かった。
2階の本棚は1階とは異なり、カラフルな背表紙の本ばかりだった。絵本のコーナーでは、小さな子供たちが転げ回って遊んでいる。
彼女は神話の本を見つけてそれを1冊手に取りその場でパラパラとページをめくった。
「ん?」
彼女は思わず声を漏らした。
その本は今まで彼女が読んできたどの本よりも字が大きく、絵もカラフルにかわいらしく書かれていた。そして何より、内容がとても薄っぺらい。
彼女はその本を本棚に戻し、その横にあった神話の本をまたその場でパラパラとページをめくった。
これも先ほどの1冊と同じように、内容の薄い彼女にとっては物足りない1冊だった。
何気なく見たタイトルには『徹底図解!シンオウ神話』というものだ。
その横には『シンオウ神話の扉』『図でよくわかるシンオウ神話』『イラストでわかる神話』など、大きい割には内容の薄い本ばかりだ。
彼女はそこから離れ、エレベーターに乗って4階に向かった。
4階は2階とはうってかわって静まり返っていた。何人かの大人が本を読みふけっている。
神話の本棚は2階のものとは比べ物にならない大きく、古いものが多く。中には彼女が読んだことのある本も何冊かあった。
彼女はまだ読んだことのない1冊を手に取ると、それを持って机に座った。
同じ机では知らない男性が2人、熱心に本を読んでいた。
彼女は本を広げ、読み始めた。
『シンオウ神話と進化』というタイトルだ。
『世界は1匹の神によって創られた、創造物である。ならば我々人間もそのポケモンによって創られた創造物である。
この世界にはもうひとつの生命、ポケモンが存在するが彼らはなぜ存在するのか、あるいはなぜ人間は存在するのか。ポケモンには進化が与えられ、人間には与えられなかった。神はなぜ己の創造物にこのような変化を付けたのか………』
それはポケモンの進化に関する論文をまとめたものだった。
彼女はそれをしばらく読み進め、あるところで1回息をつき、窓の外を見た。彼女が図書館に入った頃はまだ明るかったが今は真っ暗だ。
「きみ、少しいいかな?」
後ろから不意に声をかけられ彼女は振り向くと、そこにはいかつい顔の男が立っていた
「何ですか?」
男はひとつ咳払いをして言った。
「君はこの本の内容を理解しているのか?」
「理解できなかったら読み進められません。なぜそんなことでした聞くんです?」
「私はその本の作者だ」
彼女はその本の表紙を見た。そこにはナナカマドと書かれている。
「君みたいな子供がこの本を読んでいるとは思いもよらなくてね、聞いてみただけだ
「あなたはポケモンの進化について研究しているんですね。ポケモンの進化にはなんらかのエネルギーが働いている、と」
「ああ、そうだ。進化するポケモンしないポケモン、その違いはどこにあるのかと思ってね。ところで君の親御さんはどこにいるんだ?もう遅いから帰った方が良い」
「親御?父親と母親のことですか?」
ナナカマドは彼女の表情に何かを感じ取ったのか、話題を変えた。
「いいや、気にしないでくれ。それで……君は研究者になりたいのかい?」
「いいえ、別に。特に何になろうと思ったことはありません」
「うちの研究所に来ないかい?君にはこの分野の才能がある」
「ジム巡りをしている途中なのでお断りします」
ナナカマドは残念そうに肩を落とした。
「ならなぜ神話を?よっぽど興味がなければこんなに専門的な本を読まないだろう」
「研究者になるつもりはありませんが、神話に興味があるだけです」
「君、名前は?」
「サンです。他になにかありますか?続きを読むつもりなんですが」
サンの様子に、慌てたようにナナカマドは言った。
「ああ、邪魔をして悪かった。だがあと一時間ほどで閉館だからそれまでに出るんだよ」
「わかりました」
「ところで今晩はどこに泊まるんだい?」
「どこかにテントを張ります」
そう言ってサンは再び読書に戻った。
ナナカマドはそれ以上なにも言わず、図書館を出ていった。
サンはしばらくその本を読んでいると、閉館10分前の放送がかかった。
それを聞いた彼女は立ち上がって本をもとの本棚に返した。
図書館を出た彼女はキャンプ場を探し、そこにテントを張りご飯を食べるとすぐ寝てしまった。