03 出会い
明日の襲撃の調査を兼ねて、ハンサムはトバリシティに来ていた。
得意の変装で、ギンガ団の建物周りの様子を確かめて、今夜の宿に帰ろうとしたとき、公園に一人の少女がいた。
(こんな遅くに、危ないだろう)
一応少女の横に一匹ポケモンがいるものの、危なっかしい。
ハンサムはその少女に近付いていった。
「お嬢ちゃん、こんな時間にこんなところにいると危ないよ、ここら辺はギンガ団もたくさんいる」
少女はハンサムの方を見た。
(かわいい子だな、うちの息子と同じくらいか?)
「……あなたはだれ?」
歳にあわないいやに落ち着いた声だ。
「私はハンサム、君は?」
「私はサン、サン・スリク」
<サン>その言葉を聞いて一瞬ハンサムはびくりと震えた。
(……いや、こんなに幼い子供が我々の探す幹部ではないだろう。珍しい名前ではないのだから。それに<サン>が本名を名乗るはずがないか)
「お父さんやお母さんは?どこにいるんだい?」
「……いない」
そう答えたサンの声は先程と変わらず落ち着いている。
(不味いことを聞いてしまったか、ではどこかの施設の子供なのか?)
「どこから来たんだい?」
「よくわかりません。突然ですが、ポケモントレーナーにはどうやったらなれるのでしょうか?」
ポケモントレーナー、ポケモンバトルをする人のことだ。だが、ポケモントレーナーになって生計を建てるのは難しい。勝てなければならない上に、安定しない生活になるだろう。ポケモンバトルを趣味として楽しむのはいいが、ポケモンバトルで生活するのはきつい。ハンサムはあまり小さい子どもに勧めるものではないと考えていた。
(もといたところに戻ってもらうのが一番いい)
そう考えたハンサムはある提案をした。
「じゃあ私に勝てたら教えよう、でも負けたらもといたところに帰るんだよ」
サンは小さく頷いた。
「何匹ですか?」
「ああ、二匹だ」
サンはハンサムをもう一度見た。
「じゃあ始めましょう」
「行け、チリーン」
「リーフィア」
ハンサムはチリーンを、サンは出していたリーフィアを使った。
「リーフィア、シザークロス」
その一撃のみでチリーンは倒れた。
「なっ……ご苦労だったチリーン、行け、グレッグル」
一撃で倒されてしまったことに動揺はしたが、今回はすぐ指示を出した。
「どくづき!」
「リーフィア、あなをほる」
グレッグルの攻撃は外れ、どくづきは宙を切った。
サンはそこの隙を見逃さなかった。
「攻撃!」
グレッグルは倒された。
ハンサムは半ば呆然としていた。彼は弱いわけではない。
「君は強いな」
「どうやったらポケモントレーナーになれるんですか?」
ポケモントレーナーになる、というかトレーナーとして登録することはとても簡単だ。各地にあるポケモンセンターで登録してカードを発行してもらえばいい。だが、登録には登録金が必要だ、でもサンはお金を持っているように見えない。
(ポケモントレーナーはお互いに戦って勝つと賞金がもらえる。強ければそれで生活していけるが……やらせてみればわかるか賞金だと思って登録金は払おうか)
「じゃあ案内しよう。こっちだ」
「ありがとうございます」
ハンサムとサンは並んで歩いた。
彼らはトバリ南ポケモンセンターに到着した。
「さっきの戦いでポケモンが疲れてしまったから回復させなければ、そこの椅子のところで待っていてくれ」
とサンはハンサムに言われたが、ハンサムに付いていった。
「……ここではポケモンの回復をしてもらえるの?」
「ああ、トレーナーカードを持っていればタダで回復してもらえる。カードがない場合は百円で回復してもらえるぞ」
「へぇ……」
サンは物珍しそうにキョロキョロしている。
サンがあちこちを見ている間に、ハンサムはポケモンを預け終えた。
回復受付の横に、もうひとつ違う受付がある、そこで登録してもらえる。
「あっちで登録してもらえるから、行こうか」
サンは頷いて、そちらの受付に向かった。
「トレーナーカードの発行でよろしいですか?」
「ああ、頼む」
「ではこの紙に名前と生年月日を記入してください」
(この子は両親がいないと言っていた、生年月日がわかるのか?)
ハンサムは少し不安になったが、その心配はないようだったってサンは渡された紙にさらさらと名前と生年月日を記入している。ハンサムは自分が書いた方がいいかと思ったが、サンは子供らしくないきれいな字で記入していた。どこかで見たことがある筆跡だと感じたが、すぐに忘れていた。
「あ、登録金頂けますか」
「ああ」
「……お金のかかるものなんですか?」
サンは不安そうにハンサムの方を見た。
「お金のことなら心配しなくていい、ポケモントレーナーは相手に勝って賞金で過ごすものなんだ、これは私からの賞金を登録金に使っただけさ」
「そうなんですか?」
サンは受付の女の人の顔を見た。彼女も頷いたので安心したようだ。
「そうだ、今夜ここでトレーナー育成講座っていうのがあるんです」
「トレーナー育成講座?」
「トレーナーの基礎を学ぶ講座です。カードでできることとか、賞金のルールとか初めてのトレーナーさん向けの講座があるんです」
「へぇ……」
その時、受付の女の人がハンサムに小声で耳打ちした。
「ですが、その講座賞金のルールの説明の時に、実際に賞金を出すんです」
「ああ、かまいません。あの子は強いですから」
ハンサムはサンと戦った時の驚愕を忘れなかった。サンは強い、これは確かだ。
(強い上サンという名前だから疑いたくなるが……偶然だろうな)
「では今夜8時からです。では」
「ありがとう」
ハンサムはサンと講座まで別れるわけにいかないので、おそらく夕飯を食べていないだろうサンをポケモンセンターの食堂に連れていった。