02 思い
今日の仕事が一段落しマーズは夕食の用意をし始めた。
宿舎の食堂もあるが、あちらはしたっぱばかりいて、行くと落ち着いて食事ができないので、作ることにしている。火曜日と日曜日をマーズ、月曜日と木曜日をジュピター、水曜日と金曜日をサン、土曜日をサターンがそれぞれ担当している。アカギは別のところで食べているのか、食事をしているところを見たことがない。
だいたい火を通し終えて、後はフライパンの余熱で温めればいいので、彼女はとりあえずサンを呼びに行った。
彼女はサンの部屋をノックした。
返事はないようだ。
「入るよ」
彼女は部屋に入っていった。
(あら?屋上かしら)
そこにサンはいなかった。サンは大抵部屋か屋上かアカギのところにいる。が、今はアカギは出掛けているので、そこにはいないだろう。
屋上に行く前にふっと彼女は違和感を感じた。サンの机の上に紙が置いてある。普段は片付けてあるので珍しい事だった。
(書きかけっぽいし、どーせ神話かなんかでしょ)
彼女は部屋を出て、屋上に行った。
(ここにもいない、どこ行ってるのかしら)
彼女は屋上をくまなく見たけれど、サンらしい姿は見えなかった。
アカギの部屋はアカギ本人が中にいなければ入れないからそこにはいないはずだった。
その時、彼女はサンの机の上に置かれていた紙を思い出した。あそこに書いてあることが関係しているのかもしれない。
彼女はサンの部屋に戻って、紙を見た。紙か変わらずそこにあった。
そこに書かれた文章を読んで、彼女は驚愕した。
「これ……」
彼女は部屋を飛び出して、他の幹部を探しに行った。
「ちょっと!サターン!」
声をかけられたサターンはまだ仕事中で、声をかけられてむっとした顔をして作業を中断した。
「なんだよ、あと少しで終わるから終わったらすぐ行くつもりだったんだが?」
サターンは癖の強い青い髪をかきながら言った。
「そんなもんは後でいいから、ジュピター探して!」
「はぁ?理由くらい言えよ」
「後で話すから!」
彼女の雰囲気にただならぬことを感じたサターンは、何も言わずに頷いた。
サンの部屋に三人は集まった。
「話ってなに?」
サターンとおなじく仕事中に引っ張り出されたジュピターは不機嫌そうだ。
「これ読んで」
マーズはさっき読んだ紙を二人に渡した。
始めは怪訝そうな顔で読んでいたけれど、二人とも読み終える頃には驚愕していた。
『私がなぜここにいるのかを探したい。私がいなくてもギンガ団はやっていける。私はいつも何もしていない。何もしていないと感じるのは嫌だ。それに私は外に出たことがない。いつも上から見ているだけで、ここにいるのと同じく何もしていない。明日私がいなくてもいいでしょう。外に関しての制限がないので、私は外に行きます。当面の衣服は持ち出しました。落ち着き次第返しに行くつもりです。私が使えるのはポケモンだけです。なのでポケモントレーナーになり、自分自身の力で生きていきたいと思いました。今までありがとう、言えば止められる気がしたので言わず、紙に書きました。これを読んでいる頃には私はそこにいません。勝手な行動ではあると思うけれど、私は外に行きます。ギンガ団の情報を流すことはしないので、迷惑にはならないと思う。 サン』
サンに字を教えたのはアカギだ。なのでサンの字はアカギと似ている。これは間違いなくサンの手紙だった。
「どういうことよこれ!」
「知らないわよ!さっき見つけたばっかなんだから!」
「とりあえずあいつはここを出ていったわけだ」
三人は顔を見合わせて言った。
「外ってどこだ?どうやって出ていったんだ?」
マーズは鍵のかかっていない窓を指した。
「たぶんあそこ、あの子ならくぐれるわ」
「ボスが帰ってくるのは夜中だ、それまでに探すか?」
「……止めた方がいい、したっぱが騒いでいるだろうからこれ以上に騒ぎを大きくするべきではない」
ジュピターは次々に話した。
「それにそのうち衣服を返しに来るつもりのようだし。ボスに話してからだ」
「やけに冷静ねジュピター」
「こうなる気がしてた、あの子最近よく外見てるから。……まさかこんなに早く何も言わずに出てくとは思わなかった。行ったところであの子を止めることはできない。私らが全員でかかっても倒せない」
サターンは小型電話を取り出しながら言った。
「とりあえずボスには伝えておく。聞かれてる可能性もあるからできるだけ早く帰ってきてもらえるようにしよう」
「そうね」
三人はひとまずサンの部屋から出た。