01 思い
アカギとバトルした次の日、国際警察の襲撃が明日になった。
サンはマーズと明日の予定を確認して、正面の守りをするジュピターとサターンとも話合いを終えた。
前回襲撃があったのはだいたい七ヶ月前、それ以降にも何度か小さい襲撃があったけれど、ここまで大がかりなものは久しぶりに起こる。
「じゃっ、明日六時に起きて、軽く食べて行くよ」
「今回の襲撃は確か?」
「確実ね、ボスが言ってるなら」
「そう…」
サンのさらりとした答えにマーズはため息をついて言った。
「何よ?」
「なぜ襲撃されるの?何もやっていないのに」
マーズは少し顔を曇らせた。
「ボスの考えを理解しないのよ。誰だって違うことを考えるわよ」
「……わからない。理解するもなにも、なぜ理解できないのがわからない」
「あんたはどう思ってるの?」
サンはしばらく考え、言った。
「アカギと同じ、それ以外ない」
(この子の考え方はほとんどボスと同じ、赤ん坊の頃からボスに育てられたなら仕方ないとは思うけど、自分の考えを持った方がいいんじゃないのかな……でもボスの方針でもあるっぽいし)
マーズは目の前の少女になんと言えばよいのかわからなかった。
(まっ、そのうち変わるわよね)
そう気楽に構えることにした。
マーズと別れ部屋に戻ってベッドに座っていた、サンは先程マーズに言われたことを思い返していた。
(私には私の考えがないのだろうか。何を考えるのにもたいていアカギの考え方になってる)
彼女は気付いたらアカギに育てられていた。彼女の両親はわからないと、アカギも言っていた。けれど、彼女は親が誰だったとしてもなんとも思わなかっただろう。聞いてからすぐに彼女は興味を失っていた。
(私は私自身では何もできないのか)
いつもアカギの言った通り、周りが言った通りに動いて、やることもほとんど同じ、自分で考えたことを彼女はほとんどしたことがなかった。
(明日……本当に私は必要か?マーズやジュピター達が国際警察程度に負けるわけがない。じゃあなぜ私はいる必要がある?)
過去にあった襲撃でも、彼女は本人としては大したことをしていない。あれくらいなら他の幹部で十分だと思っていた。
彼女は立ち上がり、部屋を出た。
彼女は宿舎の屋上にいた。ここは外からは見ることが出来ないが、内側からは見ることができる特殊なガラスで囲われていて、彼女の姿は外からは見られない。昼のトバリシティの町並みが見えた。
彼女は外の景色を見ながら思っていた。
(人はこれほどたくさんいるのに、なぜ私がここにいるのだろう。このまま紛れていけばいいのか?)
彼女は自分が今まで倒してきた人を思い浮かべていた。
(別に私がいなくてもギンガ団はやっていける。私がいなくても大差ない)
彼女は彼女のポケモンを全て出した。
『私はギンガ団に必要?』
『私には判らない』
『うん、どちらでも』
彼女のポケモンは皆首を振っている。
『私はどうすればいいと思う?』
『僕らはサンが行くとこに付いていくし、何にも言わないよ』
『俺はサンに付いていくだけだ』
今度は皆首を縦に振った。
『何で付いてきてくれるの?付いてこなければもっと自由……』
彼女は驚いて自由の口を押さえた。まさか自由の口から「自由」なんて言葉が出るとは思わなかった。
『どうした?』
『……私にも自由ってあるんだよね』
『もちろん、あるんじゃない?僕らだってあるもの』
『私達は私達の自由でサンのとこにいるんだよ。気にしないで』
彼女はその言葉を聞いて、何かを決心したようだった。
「ありがと、みんな」
彼女は初めて本心からお礼を言った。
その後すぐに彼女は部屋に戻って机に座り、何かを書き始めた。