04 神話の真実と怒りの原因2
「ではなぜギラティナは怒っているの?今回巻き込まれたのは時空の二神、歪の神ギラティナは関係無いはずじゃ……」
シロナは尋ねた。
『ギラティナが担っている役割は時空を繋ぎ止めること』
『今回のことで時空が一度、一部だけだが無茶苦茶になった』
『時空の二神が安定しなくなったがために、繋ぎ目であったギラティナはその身を裂かれるような苦しみを味わった』
『これがギラティナが怒る理由』
「ならばなぜこの空間にギラティナはアカギを引きずり込んだの?」
怒っていたならその場でアカギを八つ裂きにするくらいギラティナには容易なはずだ。
やぶれた世界にわざわざ引き込んだ意味がわからなかった。
『ここは時空の繋ぎ目そのもの』
『ここはギラティナの中、ギラティナはここから動けない』
『動けば時空の繋ぎ目が無くなり、この世界は消滅する』
「ギラティナは暴れ者だったからこの世界に追放されたのではないの?」
シロナはどこかで読んだ話を思い出した。
『人間にとって時空が繋がっているのは当たり前、ギラティナがこの世界にいる意味を人間が考えた結果。真実は異なる』
「ならなぜ、あなたたちはギンガ団に捕まって、赤い鎖をアカギに与えたの?」
『興味』
『人間がどこまで抗うのか興味があったから』
「ならばなぜディアルガとパルキアの暴走を止めたの?」
『興味が別のものに移ったことと、苦しむギラティナのためだ』
『世界が新たに創られる様は何度も見た。今更そんなものを見るより今の世界がどう動くか、壊れかけた世界の行く末の方が興味深い』
今回のことはどうやら神の気まぐれだったようで、彼らが邪魔をしなければ世界の消滅という形でアカギの野望は成立していたようだ。
「世界は過去に壊れたことがあるの?」
『何度もあるよ』
『世界が一度消滅する周期があるんだ』
『この空間に歪みが満杯に蓄積されたときに世界のバランスは崩れて、世界は消滅する』
『今回のことで歪みがさらに蓄積されたから、この世界の寿命は縮まった』
『まあ君たちの代では消滅しないけど、ざっと二万年くらい縮まったかな』
「歪みが蓄積される?どういうこと?」
『時空とはいえ時々バランスが傾くんだ、でもギラティナに余裕があれば歪みを吸収して世界に何の影響も及ぼさない』
『こうして世界は成り立ってるんだ』
『だから過去にいろんな世界があったんだ』
『ポケモンのいない世界』
『ポケモンしかいない世界』
『ポケモンも人間もいない世界』
『君たちには想像もつかないような生き物の住む世界』
『限りなく無に近い世界』
『何度も世界は変わった』
『私達と無の神、時空の神とその繋ぎ目の神以外のモノは全て世界の消滅と同時に消滅する』
『何度かあの男のように世界の中心に手を出して世界を消滅させたモノだっている』
「なぜ私達にそれを教えてくれたの?」
なぜ彼らは神話の真実をサン達に教えるのか、教える必要はないような気がした。
『神がただの人間に関わるのもまた一興』
『言うなれば暇だから』
『今まで教えたことのない真実を教えたんだ』
『過去の世界でも教えたことがないんだよ』
『ボクらを楽しませてくれるかな?』
神々は純粋だった。
サンとシロナを見る目はどこまでも純粋だ。新しい玩具を与えられた子供のように純粋な目だった。
「……楽しませる?」
『新たな動きができないかなって』
『だってもう何回も見たことの繰り返し』
『まあ多少は違うんだけどね』
不意に、サンはこの三体の神の伝承を思い出した。
「あなたは感情を消すことができるの?」
サンはエムリットに尋ねた。
『できないよ』
「えっ?」
『消すんじゃなくて感情を上書きしたりして消すっぽいことは出来るけどね』
『いくら概念そのもののボク達でも、ボク達がいる以上その概念は消えない』
『あなたが知ってる話で真実に近いのは私の話くらい』
『まあ話はこれくらいにしようかな』
そう言って三体の神は高いところに浮かび上がった。
「待って、アカギはどこに行ったの?」
サンは神に尋ねた。
『あっち、あの大きな岩と滝の辺り』
三体の神が指差した方には大きな岩と滝があった。見えているがそれはだいぶ遠いところにある。
『じゃあしばらく楽しませてね』
そう無邪気に二人に告げた神々はやって来たときと同じように光をまとって飛び去った。
岩の影に残された二人はしばらく呆然と神々の飛んでいった方を見ていた。