01 やぶれた世界
やりのはしらの中心にぽっかりと穴が空いていた。
ガラスが割れたようになって、その先は暗い闇が広がっている。おそらくこの先が歪の神、ギラティナの住みかなのだろう。そこにアカギは引き込まれていった。
その穴を見て、やりのはしらに取り残された者たちは何もできないでいた。
その中、一番に動いたのはサンだった。
穴に静かに近寄っていったのだ。
「なにやってんの!」
大声を上げてマーズがサンを引き留めた。
「……追いかける」
サンは振り返ることなく答えた。
「待って。私も行く」
シロナがサンに走り寄ってきた。
「何があるのか解らないのよ、何か計画くらい立てた方がいいんじゃない?」
「この中……文献には『やぶれた世界』と載っている場所に関する情報は全くないから計画の立てようがないわ。行くしかないの」
シロナは首を振って言った。
「私達も行くわよ、ボスが中にいるんでしょ。行くに決まってるじゃない」
マーズとジュピターは目を合わせてうなずいた。
「……二人はここに残って。団員に指示を出してここを押さえて」
サンは静かな声で言った。
「何言ってるの?私達も行くわよ。団員よりあんたとボスの方が大切よ」
「私達が行くからサン、あんたは残って無事でいなさい」
サンは首をぶんぶん振って反論した。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「私が、あなたたちに無事でいてほしい。だから残って、残って無事でいて」
そうとだけ言うとサンは穴に手を入れて、穴に吸い込まれるようにして消えた。
「待ちなさい!」
そう言って追いかけようとしたマーズとジュピターをシロナが手で制した。
「どいて」
「あの子はあなたたちに無事でいてほしいと言っていた。それにあなたたちのポケモンのダメージはまだ残ってるでしょう」
「それはあんただって同じじゃない、サンにぼろぼろにされてたくせに。あんたのポケモンの方がダメージ大きいでしょう」
シロナは目を伏せた。
「サンは真っ先にあなたたちに無事でいてほしいと思った。でも……そこに私の名前はなかった。過ごしてきた時間とか、いろいろ違うからだと思うけど、あの子が真っ先に心配したのはあなたたちのこと。それにポケモン達にはさっきげんきのかたまりをあげたわ。だからいい」
シロナがサンと過ごしたのはとても短いものだったが、気付かないうちにサンはシロナにとって大切な妹のような存在になっていた。
「だからって、サンは私らにとっては妹みたいなもんなのよ、私らだって心配なのよ、心配して当然じゃない!」
「この場を押さえられるのはあなたたちだけよ、サンはこの場をあなたたちに託したの」
「それならあたし達のどっちかが残ればいい」
「……これは私の勝手な考えだけど、あの子は戻ってきてあなたたちに会いたいんじゃないかな。みんな揃って」
サンには似合わない子供っぽい思いだった。だが、サンの年齢を考えると相応な思いだ。圧し殺してきた彼女の本心かもしれない。
「……でも」
「かわりに私が行く、あなたたちに信頼なんてされてないかもしれないけどあの子を守りたいのは本当だから」
マーズが不服そうに反論しようとしたが、ジュピターが止めた。
「あんたに任せるわ、かわりにあの子とボスに何かあったら私らは一生あんたを許さないから」
「……ありがとう」
そう言ってシロナは穴に吸い込まれるようにして消えた。