02 エイチ湖のほとり
雪が舞った次の瞬間、何かに捕まれてサンの体がふわりと浮かび上がった。
頭上を見上げると、ジュピターのムクホークがサンを足で掴んでいた。
『……雪を飛ばしているんじゃないの?』
『そっちはボーマンダがやった。アタシはフェイク』
ムクホークはサンをエイチ湖から少し離れたところに降ろし、雪の上に舞い降りた。
『ジュピターから伝言、ハクタイには一人で行くように。それとこれ』
ムクホークは足をサンの方に上げた。小さな筒のようなものがついていて、蓋を開けられるようになっている。
サンは筒を開け、中に入っていた紙を取り出した。
『それ、後で読めだって。じゃあアタシは行くわ。ウインディに乗ってけば今日のうちにハクタイまで行けるって』
そう言い残し、ムクホークは飛び去っていった。
サンはムクホークに伝えられた通り、ウインディを再び出してその背に乗った。
雪は小さな粒がはらはら降っているだけで、移動するのにほとんど影響はない。
サンはウインディをテンガン山の方へ走らせた。
サクリと雪を踏む軽い音と共に、一人の女がボーマンダの背から降りた。
「あの子なら先に行ったわよ」
ジュピターは開口一番にそう言った。
「先に?連れ戻しに来たのではないのか?」
ハンサムは聞き返した。
「あのままバトルになってたりしたらまずかったからここから離しただけ。まっ、私も用事は済んだしアジトに戻るわ。ここ寒いし」
言い残したとこはないとばかりに、ジュピターはボーマンダに乗った。
「待てっ!」
「待てって言われて大人しく待つと思う?悪いけど私はそんなお人好しじゃないから。邪魔するんだったらすれば?邪魔程度のこともできないと思うけど」
挑戦的な笑みを浮かべ、ジュピターは真っ直ぐハンサムとジュンの方を見据えた。
無言のにらみ合いがしばらく続くと、ジュピターはあきれたように息を吐きボーマンダをボールに戻した。
見るとムクホークが戻ってきていた。
「とんだ時間の無駄ね」
ジュピターはムクホークの足に掴まると、そのまま飛び去っていった。
「おっさん、なんでなにもしなかったんだよっ!おっさんならなんかできただろ」
険しい顔でジュンは問い詰めたが、ハンサムは黙ったまま何も言わない。
「なあおっさん!このままでいいのかよっ!」
「……君はこれ以上この事に関わるな」
「関わるなってなんでだよ!?」
「君はまだ子供だ。私にとっては守る対象でしかない」
「自分くらい自分で守れるよ!それにサンだってまだ子供じゃねーか!」
ハンサムはジュンの反論を手で制した。
「そうだ、サンもまだ子供。だから今はサンを助けるために動いている。それに彼らの実力は知っているだろう。ジムバッチを全て揃えられないような者が首を突っ込んでも意味がない」
最後は突き放すように言い放つと、ジュンはうつむいたまま何も言わない。
「……それに、ジムバッチが全て揃ったら、リーグトーナメント。サンも出場するかもしれない」
そう言われ、ジュンはぱっと顔を上げた。
「リーグトーナメント……」
「ジムバッチを全て揃えられるようなトレーナーなら、我々も助かる」
ハンサムは真っ直ぐジュンを見つめて言った。
本当にジュンにその覚悟があるのか、確かめるような目だ。
ジュンの口は何かを言いかけ、一瞬止まった。
先程戦った相手を思い出しているかのようだった。
「やる。迷うなら進めってダ……オヤジにもよく言われてんだよ」
迷いのない目でジュンは言った。
その決意のみなぎった目を見て、ハンサムは満足げにうなずいた。