01 エイチ湖
エイチ湖に到着したサンとハンサムはウインディから降りてエイチ湖の方へ向かった。
ウインディに乗るということが初めてだったハンサムの足取りはおぼつかない。サンは特に何事もなかったかのように進んでいく。
サンはキッサキシティを離れる前にジュピターに一言言っておこうとここに立ち寄った。
湖の調査をしているらしいが、まだ湖にいるかはわからない。いなかったらそのままハクタイシティに行くつもりだった。
「聞きたいことってなんですか?」
唐突にサンが尋ねた。
ようやく歩く感覚に慣れたハンサムははっと顔を上げた。
「最近何か変わったことはあったかい?」
「いえ、別になにも」
サンの返事は素っ気ない。
そこからしばらく沈黙が続き、やがてハンサムが意を決したように口を開いた。
「君は……」
「ハンサムさん、あれ……」
サンがハンサムの質問を遮って言った。
ハンサムは口を閉ざし、サンの指差した方を見た。
湖のほとりにジュンが立っている。
彼の前の雪原はバトルの後のように乱れている。
サンとハンサムも湖のほとりの空間に出た。
そこではジュンとジュピターが対峙していた。
勝ち誇ったような笑みを浮かべてジュピターがムクホークと並んで立っている。
ジュピターはジュンに何かを言っていたようで、一瞬サンとハンサムの姿を見て目を見開いたが、すぐもとの表情に戻って言葉を続けた。
「あんたのポケモンはまあまあだけど、あんたが弱いのよね。まっ、いい暇潰しになったわ」
そう言うとジュピターはサンとハンサムの方に向き直った。
「何の用?これから帰るつもりなんだけど」
ジュピターはサンのことを全く気にしないそぶりで言った。
「用がないなら私は行くわよ」
そう言ってジュピターがムクホークとともに飛んでいこうとしたとき、ジュンが口を開いた。
「待てよ、湖の神をどうする気だ?」
「それが知りたかったらトバリのアジトですいらっしゃい。まっ、あんたのレベルじゃ到底たどり着けないでしょうけど」
ジュピターは意地の悪い笑みを浮かべた。
「湖の神だと?どういうことだっ!?」
ハンサムは語気を荒めた。
「どういうつもりもないわよ。これからの私達の計画に必要なだけ」
そう言うとジュピターはムクホークだけを飛ばした。
「何のつもりだ?」
ハンサムがそう言った瞬間、不意に一片の雪がハンサムの額に当たった。
それを皮切りに大量の雪が彼らめがけて飛んできた。
ムクホークが木に積もった雪を風で飛ばしたのだ。
彼らの視界は一瞬で白一色に染まり、なにも見えなくなった。
彼らが目を開けると、ジュピターの姿はなくなっていた。
そして、ハンサムの横にいたはずのサンの姿もない。
「サン……?」
返事はなかった。
「サンはどこ行ったんだよ?」
ジュンはキョロキョロと周りを見回した。
飛んできた雪は彼らの膝上辺りまで積もっている。
もしかするとサンは埋ってしまったのかもしれない。
そう思いハンサムとジュンは辺りの雪を手当たり次第に掘った。
しばらく掘ってもサンの姿は見当たらず、ハンサムとジュンは捜索の手をほぼ同時に止めて立ち上がった。
「なあ、おっさんは誰なんだ?」
ジュンはハンサムに疑いの目を向けて問い詰めた。
「叔父なんていないって言ってたぞ」
そう言われ、ハンサムは表情を歪めた。
「確かに、私はサンの叔父ではない」
「まさか、おっさんもギンガ団なのか?あの女幹部みてーに」
「違う!」
ハンサムはすかさずそれを否定した。
「なら何なんだよ。それにサンはどこ行ったんだ?」
「私は……国際警察だ」
無理矢理絞り出したような声でハンサム言った。
「国際警察?おっさんが?」
「ああ、ギンガ団を追っていたところだった」
「ならなんでエイチ湖にいなかったんだよ。ギンガ団の幹部がいたのに」
「私が追っていたのはあの女幹部ではない」
「でもよ、他にギンガ団なんて……」
ジュンはそこで一度言葉を切った。
そしてある結論に至り、それを口にする。
「まさか、サンか……?」
ハンサムは黙ってうなずいた。
「私が追っていたのはサンだ。だから叔父だと嘘をついた」
「じゃあなんだよ、サンはあの幹部といなくなったってことかよ」
「いや……恐らくそれは違う。サンは連れていかれた」
ハンサムは重々しい口調で言った。
「連れていかれた?」
「あの子はジムバッチを全て集めてチャンピオンに挑むと言っていた。まだ集めて終わっていないから、本人の意思ではないだろう」
「サンはギンガ団の……何なんだよ?」
「私はそれを調査しているところだ」
その時、ふっと黒い影が彼らの頭上を横切った。