05 ギンガトバリビル2
ガラスケースを照らすライトがガラスケース内の液体を緑色に光らせる。
その光の当たる研究室内ももちろん緑の光に照らされていた。
研究員があちこちを行ったり来たりしているが、俺たちには全く目を止めない。
彼らは研究のことしか頭にないのだ。
ここにいる研究員は皆、ボスに実力を買われた者達だ。必然的に研究員は研究にしか興味のないものの集まりになる。
そこを抜け、奥の部屋に入ると、外とは一転して蛍光灯の薄い光に照らされた部屋になり違和感を覚える。
この部屋には一人も研究員はいない。
特定の人間以外は入るなと言われているのもあるが、この部屋は何かがおかしい。
何度もここに入ったことはあるが、今もまだこの部屋には慣れない。出ていきたいと思わせる何かがこの部屋にはあった。
それに今は特にだ。
ガラスケース内に浮かぶ何か、湖の三神から取り出した物質。
無色透明な液体に浮かぶそれは、形が定まっておらず、常に形を変化させながら液体中を漂っている。もちろん液体中に流れなどない。勝手に動いているのだ。
人の血のような色をしていて、まるで血が意思を持って動いているようにも、感情のままに動いているようにも見える。
「これがボスの求めていた物質か……」
誰にというわけではないが、俺は呟いていた。
プルートの方を見ると、満足げにうなずきながらガラスケースの下のキーを叩いている。なぜプルートは平気な顔でこれを見ることができるんだ。俺には到底理解できないのだろう。
サンも無感動にそれを見、次にコードに繋がれた湖の三神を見た。
三神は目を閉じて眠っているように見える。
「実験が終わったら彼らをどうするの?」
サンは三神を見たまま尋ねた。
「アカギは処分するだの言っとったが、他の利用法を探すのもありじゃの」
……確実に利用するだろうな。
このじいさんのことだ。金儲けに関することになると異常なまでに執着する。
まあプルートのおかげで儲かっている面もあるのだが、やはり俺はこのじいさんは気に食わない。
おそらく全てを金儲けに関連付けて考えているのだろう。
ルル、ルルル……
不意に研究室の壁に取り付けられた電話が鳴った。
位置的に一番近い場所にいたプルートが受話器を取る。
「こちら第五研究室……なんだお前か」
電話の相手が誰なのかはわからない。が、漏れてくる声はなにやら焦っているようだ。
「誰だ?スピーカーにしろ」
「わかったわい」
プルートはスイッチを押して音声をスピーカーに切り替えた。
「ちょっと、聞いてるの?」
大音量で研究室に響き渡ったのはギンガ団幹部のマーズの声だ。
「うるさいの、そんな大声で言わんでも聞こえとるわ」
「貸せ」
俺はプルートの手から受話器をひったくった。俺が聞いた方がはやい気がする。
「なんだ?」
「あっ、あんた研究室にいたのね」
「それはどうでもいい、何があった?」
「侵入者、しかも面倒なことに変装して結構奥にいきなり、なかなか手強いみたいね。したっぱでは止められなさそう」
「お前が行けばいいだろう」
「今指令室を離れらんないのよ」
「どんなやつだ?」
「金髪のガキんちょと国際警察の男、他にもしたっぱに混じってる可能性もあるわね」
変装と国際警察ということは侵入者の一人はハンサムか。
「わかった。どこにいる?ここから一番近いパネルの接続を変更してくれ」
ギンガ団のビルのあちこちにあるワープパネルの行き先を変更すれば一気に侵入者に近付ける。指令室にいるなら侵入者の位置は把握できているはずだ。
「エリア3の北階段横のパネルに接続変更完了」
「私も行く」
いつの間に近くに来ていたのか、サンが俺の横で言った。
「お前が来る必要はないだろ」
「することもないからいい」
「あんたもいたの?ていうかそこにいていいの?」
「止められなかったんだよ、今はそれを気にしている場合じゃない」
それに侵入者はハンサムだ。どうせサンのことは知っている。
俺は受話器をもとの位置に戻して研究室を出た。
後ろからサンが付いてきていたが、特に気にしなかった。