04 ギンガトバリビル
安静にしていたおかげか、次の日の朝にはサンはもうすっかり回復し、起き上がって朝食をとりに向かっているところだった。
彼女のポケモンは夜のうちに彼女の机の上に置かれていて、ボールから出すと勢いよくサンに飛び付いた。
『ねえねえ』
『昨日は何で僕ら一日中マーズと一緒だったの?』
『何かあったのか?』
口々に質問攻めにあったサンは、寝ていたと簡潔に答えながら彼らと廊下を歩いた。
「起きても大丈夫そうなの?」
いつも食事をする部屋に入ると、中にいたジュピターが声をかけてきた。
テーブルではすでに食事を終えたらしいマーズが頬杖をつきながら座っている。
「異常はない。熱も引いた」
サンは椅子に腰掛けて返事をした。
「大丈夫そうね、まあ今日はまだあんまり動かない方がいいわよ。ぶり返すから」
「寝ていた方がいいということ?」
「激しい運動とかはやめといて、本でも読んでなさい」
マーズはそう言って立ち上がると、大きく伸びをした。
「じゃあ仕事してくる。後はよろしく」
マーズの声に、近くで丸まっていたブニャットが起き上がり、しっぽを振りながらマーズの後について一緒にいなくなってしまった。
「また皿置きっぱなし……まあいいわ、これ飲んでなさい」
ジュピターはサンにホットミルクの入ったコップを手渡しながら手早くマーズが残していった皿を片付ける。
サンがゆっくりとホットミルクを飲んでいる間に朝食が用意され、サンは黙ってそれを食べた。
やることもなく、サンはアカギの書斎に足を踏み入れていた。
マーズは仕事でおらず、ジュピターは先程ハクタイビルにいってしまった。
本棚いっぱいに並んでいるのは神話や宇宙に関するものばかり。隅に数冊の機械工学や数学の本もある。
サンはここにある神話関連の本はほぼ全て読み終えていた。かといって宇宙や機械工学には特に興味もない。もう一度読み返そうかとも思ったが、あまり読もうという気にはなれなかった。
その時ふとサンは湖の三神のことを思い出した。
(アカギは彼らを捕まえて何をするつもりなんだろう。三神はここにいるのか?)
その疑問はサンの頭から離れず、サンはなにも持たずアカギの書斎を出た。
「湖の三神?」
昨晩は徹夜だったため部屋で寝ていたサターンのところにサンは向かった。
寝ていたらしいサターンは目を擦りながら起き上がってベッドに座った。
「彼らはどこにいるの?」
「俺は眠いんだが……」
サターンはあくびを噛み殺している。
「で、どこ?」
寝かせろというサターンの視線に全く気付くことなくサンはサターンに詰め寄る。
「三神のいるとこはお前のカードキーだったら行けねーよ。俺じゃなくボスに聞いてくれ」
「アカギなら出掛けた」
「ああ、テンガン山に行くって予定だったか……」
サターンはぶつぶつ言いながら再びベッドに寝転がった。
「ボスの許可がないなら無理。ボスが戻ってくるまで待ってろ」
「許可が必要なの?」
「お前なあ、後でボスになんて言われるかわかって……」
「湖の三神なら第五研究室にいるが」
「プルート……」
声のした方を見ると、いつの間に入ってきていたのかギンガ団幹部のプルートが立っていた。
丸メガネに白衣といった研究者らしい服装をしたプルートはなにやらカードのようなものを持っている。
「おい、プルートのじいさん、なにしに来たんだ?俺は今から寝ようとしてるところなんだが」
不機嫌を隠すことなくサターンは聞いた。
「じいさんとは、まだわしはそんな歳ではないわ。わしより多少若いからといって図にのりおって」
じいさんという単語が気に入らないのかプルートはムッとしながら言い返す。
「で、何の用だよ。じいさんがわざわざ来るなんて珍しい」
「いや、例のやつに関して第一段階は上手くいったということをアカギに伝えに来たんだが、おらんかったからわざわざお前のところまで来たんじゃよ」
「例のやつ?」
「おお、サンか。昨日戻ってきたらしいの」
「それより例のやつとは何?」
プルートのどうでもいい言葉を無視してサンは聞いた。
「あの湖の三神からある物質を取り出すのに成功したのよ。いや、さすが私だの」
今にも笑い出しそうな勢いでプルートは言った。
「出来たのか」
「もちろん。後は錬成して造形するだけじゃの」
サターンは眠気などどこかに飛んでいったかのように起き上がった。
「今行く。じいさんは先に戻っててくれ」
「私も行く」
「だからボスの許可をだな……」
「わしは構わんよ」
サターンが止めようとすると、それを遮るようにしてプルートが言った。
「待てよじいさん。あんたに何の権利があって言ってんだ?」
「権利?わしは研究部の主任じゃ。アカギのおらん間にわしが研究室の指示を録るのは当然じゃろ」
プルートはさも当然というように言った。
「なぜ許可が必要なの?」
(こいつはこうと決めたら動かないからな……どうせ何て言っても聞かないか)
サターンは考える。どうせ着いてくるんだろうから、今何かを言い合っても無駄だろう。
(そもそもこいつは人の考えとかわかってないからな。なに言っても聞かねーだろ)
若干のもやもやを抱えながらもサターンは黙ってうなずいた。