02
サンは部屋に戻り、自分のベッドに寝転んだ。
『ポケモンとは何か』
それがここ最近彼女の頭の中を占めていた。
それを調べるために先程までシンオウ神話を読んでいたが、ジュピターに言われた通り始まりの神が産み落とした神々のうち一匹が産み出した『命の塊』が分かれて生まれたと書いてあるだけで、それ以外は何もめぼしい文はなさそうだった。
(始まりの神アルセウス、ポケモンを産み落とした神がミュウ……)
原文にはこう記されていた。
〜始マリノ神ノ章〜
無ニ一ツノ卵アリ。ソレ孵リ中ノモノ自我ヲ得ル。ソノ者始マリノ神アルセウスト定義ス。
アルセウス自我ヲ得シ時、『時』ト『空』定義サレル。同ジクシテ『歪』産マレタリ。『歪』ハ常ニ『時』ト『空』ノ隣ニ有リテ見エズ、無シ。
アルセウス、己ノ欠片ヲ落トシ、神ヲ産ム。ソノ神ミュウト定義ス。
ミュウ産マレシ時、命産マレル。ソノ『命ノ塊』無数ニ分カレ『生物』トナル。
アルセウス『知』『意』『感』ノ三神ヲ定義シ、『生物』ト共ニ『時』ト『空』ニ住マワス。
三神、ユクシー、アグノム、エムリット、『生物』ニ『知』『意』『感』ヲ与エ、眠ル。
ココデ『生物』ハ『人』ト『ポケモン』ニ分カレリ。
(『人』と『ポケモン』は三神に知識、意識、感情を与えられてから分かれた……?そこで何が分かれた?)
考えれば考えるほど難しい。どちらかには何かが欠けているのか、配分された量等が違うのか。それを確かめる方法は無い。この原文の作者は何を思いここで『人』と『ポケモン』を別れさせたのだろう。
シンオウ地方は別名『始まりの地方』と呼ばれている。シンオウ地方から今の世界は出来たという昔の神話や文献が数多く存在しているのだ。実際、他の地方の神話は『時』や『空』は始めから存在した状態で始まる。
彼女はふっと窓を見た。明るければここからテンガン山が見えるだろう。世界で一番高い山だ。頂上付近には遺跡があり、様々なものが残されているらしいが、簡単には辿り着けないために、調査は進まない。
彼女はつけたままにしていたベルトからモンスターボールを一つ取り、ボタンを押した。
パカリとボールが開き、一匹のポケモンが飛び出した。
モンスターボールが作られたのは最近のことで、前はポケモンは外に出したままだったらしい。
ある科学者がポケモンは弱ると体を小さく縮めて休むことがあるということを発見し、その性質を利用してモンスターボールを作った。
人とポケモンの関係はそこで変わったのではないかと彼女は思っていた。ボールによってポケモンは支配されるようになってしまった。ボールはポケモンを洗脳するわけではないが、ポケモンを束縛する。しかし彼女はンスターボールを作った科学者を批判はしない。ボールのおかげで人とポケモンはより近づくことができる。
「フィ?」
首を傾げて彼女を見ているのはリーフィアだ。彼女はもう一匹のポケモンを出した。
「シアッ」
グレイシアだ。どちらもイーブイの進化系。この二匹は親が違うが仲はいい。
ベッドの上なのであまり大きなポケモンを出すわけにもいかない。ので彼女の持っている最も小さいサイズのポケモンを出した。
不思議なことに、彼女はポケモンの声を聞くことが出来た。
お互いがお互いを意識した時に、心の中で聞くことが出来た。ポケモンと心の中で会話が出来るのだ。
『サンどうした?』
『気分でも悪い?』
『いや……何でもないよ』
そう言うと二匹は首を傾げた。
『考え事してるの』
『考え事?何を?』
『ポケモンって何だろうって』
『ポケモン?僕らのこと?』
『私達のことなら何でも聞いてよ』
なぜか聞こえる言葉はオスメスで異なっている。変換されて聞こえるのか、彼女には分からない。リーフィアがオスでグレイシアがメスだ。
(私はなぜこの子達の言葉がわかるんだろう。ジュピターのポケモン達は出来ないって言ってたけど。アカギも出来ないみたいだし)
『ポケモンって何だと思う?』
『ん?僕らのことじゃないの?』
彼女はポケモンと話は出来るが、会話がずれることがよくある。人とポケモンでは感覚が違うのかもしれない。
『いや、やっぱりいい。起こした?』
『寝てなかったよ、のんびりしてた』
『サンは今から寝るの?』
『寝るよ』
『じゃあ僕らも寝るー』
そう言って二匹は彼女の布団に潜り込んだ。
『ここで寝るの?』
『私達が入れるくらいの場所はあるでしょ?』
「わかったよ……寝ようか」
最後は口に出してしまった。
彼女は一度起き上がって着替えた。
ベッドを見ると二匹は枕に頭を乗せて寝転がっていた。
(私が寝る場所ないけど……)
『やっぱり布団いいね』
『サンが寝るとき私達もここで寝るー』
『……それだと他の子達が不公平でしょ』
『そうかなぁ?』
『………』
彼女は寝るために二匹に少し退いてもらった。
『じゃあ私寝るから』
『はーい』
彼女は布団に入り、横になって気付いた。
『グレイシア、リーフィアと入れ替わって』
『何で?』
『寒い』
このまま寝るとグレイシアの横で寝ることになる。氷タイプなので冷たいのだ。
『嫌、サンの横がいい』
『替わる。僕もサンの横がいい』
『あ、サンの両側で寝ればいいんだ』
『そうだ』
そう言うとグレイシアは反対側に移動した。
(……もういいや)
『じゃあ寝るねー』
「うん……」
彼女は冷たいので少しグレイシアから離れて横になり、眠りに落ちた。
翌朝、マーズが彼女を起こしにやって来た。
「サン、入るよ」
マーズは徹夜明けなのですごく眠い。寝に来たついでにジュピターに頼まれ彼女を起こしにきたのだ。
「何これ、かわいっ」
見るとサンがリーフィアを抱きながら寝ている。そしてグレイシアが彼女の頭付近で丸くなって寝ている。
(……写真撮ってもいいよね)
マーズはいつも持っている小型のカメラを手に取って写真を撮った。
(かわいいの撮れた……今度ジュピターに見せよ。あ、私この子を起こしにきたんだった)
「サン、起きな」
「うん?あ、マーズ」
彼女が起きたのと同時に二匹も起きた。寝ぼけているのか目を擦っている。サン目を擦っている。
(こうしてれば年相応でかわいいんだけどな……)
「朝ごはん出来てるよ」
「わかった、起きる」
そう言って彼女は起き上がり、着替えて部屋から出ていった。二匹も彼女の後について行ってしまった。
(私は寝るか……)
そう思いマーズも部屋から出ていった。