04 古代の像4
サンはエイチ湖でジュピターのムクホークに渡された紙を手に、古代の像に着いた。
時刻は6時40分。古代の像のある広場には人の気配はない。
彼女は手持ちのポケモンを全員出して、古代の像にもたれ掛かった。
『サンはギンガ団に戻るの?』
ポケモン達は彼女の周りに集まり、リーフィアとグレイシアは彼女に擦り寄った。
『戻れと言われたら戻る。あなたたちはどうしたいの?』
『僕はサンの決めたことに従うよ』
『なぜ?』
彼女は不意に疑問に思った。なぜポケモン達は人間の言うことを聞くのだろう。トレーナーの命令を聞かないポケモンもいるが、トレーナーとポケモンは命令する、聞くの関係であり、それが当然だと思われてきていた。
(なぜこんなことを今まで疑問に思わなかった?当然のように人間はポケモンを使役する。これがポケモンと人間の正しい姿なのか?)
彼女はその疑問をポケモンにぶつけた。
『何でって……サンは僕らがサンに従ってるのが嫌なの?』
思いがけない返答にサンは戸惑った。
『嫌ではないけど、なぜ従ってくれるの?私から離れて自由にしたいと思ったことはないの?』
『サンこそ何でそんなこと聞くの?私達はサンの役に立ちたいだけ』
きょとんとした顔でサーナイトはサンを見た。
彼女はその姿に、自分とアカギを重ねた。
アカギに従うのが彼女にとっては当たり前、従わないこともできるのに彼女はアカギの命令に従ってきた。育てられた恩返しのつもりなのか、ただ逆らえないのか、どちらにせよアカギの役には立ちたいと思っていた部分はある。ギンガ団に戻ることも、別に構わないと思っている。
『なぜ私の役に立ちたいの?』
『え?サンのことが好きだからじゃないの?』
彼女のポケモン達は当たり前のように言った。皆首をかしげている。
『好きだから』という言葉に、サンは一瞬言葉を詰まらせた。
『好き』とはなんなのか、彼女は今まで考えたことがない。
離れたくないという思いなら、ポケモン達のことは好きだが、アカギのことは好きではないということになる。だがそれでは、彼女は好きでもないアカギの命令を聞く。
『そう……なんだね』
そう言ったきり、彼女は黙って空を見た。
冬の澄んだ空気のおかげで、星がくっきりと見える。
決まった法則で動いていく星を理解するのは簡単だ。だが、法則性なんてない人間の感情は複雑で、完全に理解なんてできない。
アカギははっきりとしたことを好んでいるのだろう。だから感情を嫌い、数字や機械を信用しているのだ。
『感情……か』
彼女は小さく呟いた。