03 古代の像3
ハンサムはサターンに付いて林を歩いた。
少しして古代の像が見えるところに出た。そこからはポケモンに囲まれながら空を眺めているサンの姿も見えた。
「ここに連れてきてどうするつもりだ?」
「もう少ししたらわかる」
そう言ってサターンは近くの切り株に腰掛け、ハンサムにも座るよう促した。
「サンを連れ戻しにきたのか?」
「……まあな」
「やはりそうか」
ハンサムはそれを聞き、走って彼女のところに行こうとすると、ドクロッグがハンサムの首筋に爪をあててきた。
「待て」
冷たい声でサターンはハンサムに命じた。したっぱが聞けば背筋が凍るような冷たい声だった。
「ドクロッグのどくで死にはしないが、かなり痛いぞ。そこに座れ」
そう言ってサターンは有無を言わさぬ口調でハンサムを切り株に座らせた。
「さて、ここでサンを捕まえない代わりに情報を得るか、サンを捕まえようとして結局何も得られずに帰るか、どっちがいい?」
「お前の目的はなんだ?」
そう言いながらハンサムは示された切り株に座った。
「まあ待て、お前はサンのことをどれくらい知っている?」
「あの子がサンで、とても強いトレーナーであるということだけだ」
「ギンガ団に洗脳されたとか兵器だとか、考えはしたか?」
「誰だってそう思ってしまうだろう!あんな子供がギンガ団にいれば」
「俺だって始めはそう思ってたよ」
サターンはそこで一度言葉を切った。
「それでボスに1回聞いた。そしたらサンはトバリで『拾った』らしい」
「拾った?捨て子だったのか?」
「少なくともボスの実の娘ではない。何より全然似てねーから、あの二人」
「アカギが親代わりということなのか?」
ハンサムは少し迷って言った。
「サンからすれば親みたいなものじゃないか?血の繋がりはないが」
「だが何のために?わざわざ拾ってまでアカギはあの子を育てたんだ?」
「そこまでは知らねーよ」
サターンはそこでふと思い出した。
「……そう言えば目がどうとかって言ってたな」
「目?」
ハンサムはわけがわからず聞き返した。
「ああ、目が……なんだったけな。悪い、忘れた」
「……」
「そういうわけで、俺が知ってるのはこれぐらいか」
「ちょっと待て!少なすぎるだろう!」
「少なくとも国際警察のデータベースにあるよりは多いだろ。俺だってあいつのことはよくわかんねーし」
そう言ってサターンはちらりとサンの方を見た。
「おっ、やってるな」
ハンサムがサンの方を向くと、そこにはギンガ団の女幹部、ジュピターとマーズがいた。
「あれは……」
「わかってただろ。こうなることは」
「わかっている。それでお前は私の足止めのためにいるんだろ」
ハンサムは悔しそうに舌打ちをした。
「こちらとしてもあいつには戻ってきてもらわないと困るんでね」
「1つ聞かせてくれ、サンの実力はどれくらいなんだ?」
「幹部3人で同時にかかってあいつのポケモンを1体倒せるか倒せないくらいだな」
「……は?1体?」
ハンサムは驚きすぎて言葉が出なかった。
「あいつは1対1より多対1が得意なんだよ。あいつは6体同時に指示を出せるからな。俺は3体でできるかできないかなのにさ。1対1なら1体くらい倒せるんだがルールなしだったらあいつは最強だよ。日頃本気なのかどうなのかもわかんねーし」
「もしサンが反乱を起こしたらギンガ団は……」
「確実に潰されるな。全ギンガ団勢力より強いだろ。他の組織なんて一晩で潰される」
ハンサムはぱっとサンの方を見た。まだ彼らはなにかを話している。
「大声上げようとしたらとんでもないことになると思え」
「とんでもないことだと?」
「さあな。まあパソコンあたりに気を付けろ。こっちにはいろいろ優秀な人材がいるんでね」
その時、サン、ジュピター、マーズは一斉にポケモンを出し、その背に乗って飛んでいった。
ただ見ることしか出来なかったハンサムは強く唇を噛んだ。
「俺の役目も終わりだ。じゃあな」
サターンはボールに手をかけたが、一度その手を止めた。
「そういえばあんたら、あいつをギンガ団幹部だと思ってるようだが違うぞ」
「……どういう意味だ?」
「あいつは幹部じゃねーよ。したっぱが勝手にそう思ってるだけだ。少なくともボスはあいつをギンガ団員としても見ていない」
「では何なんだ?アカギにとってサンは何なんだ?」
「俺が知るかよ、あいつはギンガ団にいるにはいるが正式にも何でも団員としては存在していない。ボスが育てた、それだけのことだ」
そう言ってサターンはクロバットを出して夜の闇に消えた。
ハンサムは呆然とその様子を眺めることしか出来なかった。