06 エイチ湖へ
ジム戦を終えたサンは話を聞こうとしてくるトレーナーを無視してジムを出た。
ジム戦がすぐに終わったので、天候次第では今日のうちにハクタイシティまで移動できると踏んだサンは、しばらくの食料だけ買いにショップに向かったところだった。
不意に後ろからサクサクと雪を踏む音がした。
「おーい、サン」
名前を呼ばれ、サンは振り向いた。
振り向くとジュンがサンの方に走ってきていた。
「さっきのバトル見てたぜ、凄かったな」
「……それを言うためにわざわざ?」
心底不思議そうな顔でサンは聞き返した。
「悪いかよ、凄かったのは本当のことだろ」
「凄いというのか……」
サンはどこか遠くを見つめるようにジュンから目を反らした。
「そうだ、さっきのジムにサンの叔父さんがいたぞ」
「……オジサン?私にそんな名前の知り合いはいません」
相変わらずの無表情で言った。
「オジサンは名前じゃないだろ、サンの父さんか母さんの兄弟のことだろ?」
「私は父親と母親、どちらについても知らない。まして兄弟なんて知るわけがない」
「でもおっさんがサンは俺の姪っ子だって言ってたぞ」
ジュンは先程までジムで一緒にいた男を思い出していた。
「知らない。名前は聞いていないの?」
「あっ……聞いてない」
そこでジュンは男に名前を尋ねていないことを思い出した。
「知らないならいい。用事はそれだけ?」
「あとよ、これからどうするんだ?」
「ハクタイシティに行く。今日は雪もあまり降っていないから」
「もうキッサキから離れるのか?」
サンからすれば、ジムバッチをもらったのでこれ以上キッサキシティにいる理由がなかった。
「これ以上ここにいる必要はない」
そう言い残し、サンはジュンをその場に残したままショップに向かった。
ショップでだいたいの食料を買って、サンはショップを出た。
雪はほとんど降っていない。ハクタイシティに向かうにはちょうどよい天気だった。
「サン」
ショップを出た矢先、サンは何者かに声をかけられた。
「……ハンサムさん」
ショップの前に設置されたベンチに腰掛けていたのは国際警察のハンサムだった。
「何の用ですか?」
「キッサキに来ていたら君がショップに入っていくのが見えてね、出てくるまで待っていた」
「なぜ?」
サンはいぶかしむようにハンサムを見た。
「いろいろ聞きたいことがあってね」
「……私に答えられる範囲なら答えます。ですが私はこれからハクタイシティに行くつもりなので、手短にお願いします」
サンは歳に似合わない言葉づかいで言った。
「ハクタイシティに?ちょうどよかった、私も行くつもりでね、道中に話ができそうだ」
もちろん、ハンサムにもとからそのような予定はない。サンを一人で行かせるのが不安なのと、常に監視しておきたかったからそんなことを言ったのだ。
「……かまいませんが、私は一度エイチ湖に寄ります。急いでいるなら先に行った方がいいです」
「エイチ湖か、うん、あそこはいいところだ。私も行こう」
サンは黙ってうなずくと、ウインディを出してその背に飛び乗った。
「ハンサムさんも乗ってください」
「あっ、ああ」
言われてハンサムもウインディに乗った。
ハンサムが乗ったのを確認するやいなや、ウインディはエイチ湖に向かって走り始めた。