01 キッサキシティ
キッサキシティの手前まで来て、サンとジュンはウインディから降りた。
人が通るのか雪は脇によけ、ねっとうやほのおで溶かし用水路に流されている。
「そういえば、キッサキシティになにしに行くんだ?こんな時期にわざわざ来るなんて」
ジュンは自分のポケモン、ゴウカザルに衣服を乾かしてもらっている。
「ジム挑戦」
「まあ今行かないと予選トーナメントに間に合わねーからな。サンはいくつバッジ持ってるんだ?」
「六個、あとキッサキとハクタイのバッジ」
「俺はこいつと最後のジムバッジを手に入れるぜ」
ゴウカザルもうなずいて、小さく火を吐いた。
キッサキシティに到着した二人は、真っ先にキッサキジムに向かった。
雪で覆われた道は歩きづらく、所々雪かきの間に合っていない場所もある。
キッサキジムに到着すると、ジムの中は人がたくさんいた。
人を掻き分けて受付までたどり着くと、ジムの受付は混雑していない。
「あの、ジム挑戦はできますか?」
受付の女性にジュンが尋ねた。
「夕方の枠が一人分空いていますよ。こっちのお兄ちゃんが挑戦?」
女性はにっこりと笑いながらサンとジュンを見比べて言った。
「あっ、俺達兄弟じゃないですよ」
「あら、そうなの。ごめんなさいね。じゃあ二人とも挑戦者?」
「はい。で、一人分しか今日は空いてないんですよね?」
「私は明日でもいい」
サンはジュンに言った。
「えっ、いいのか?俺はどっちでもいいぜ」
「どのみち明日までキッサキシティにはいます。明日の予約はできますか?」
サンは受付の女性に尋ねた。
「ええ、朝一の枠に空きはあるわよ」
「ならそこで挑戦します」
そう言ってサンは決めてしまった。
「まあ……いいけどさ」
二人はそれぞれのトレーナーカードを見せ、ジムの挑戦料を払って一度外に出た。
ジュンのジム挑戦までの時間がたくさんあったので、二人は適当な店で昼食を取ることにした。
「そういや、一人でキッサキに来たのか?家族とか一緒に来た人はいないの?」
「家族……?知らない。ここには知り合いと来た。途中で別れたけど」
「家の人とか心配してないのか?こんな時期にキッサキなんて」
「家族?いない。だから心配されない」
家族がいないということをまるで事務的な報告のように淡々と言うサンに、ジュンは驚きを隠せなかった。
「家族がいないってどういうことだ?」
「家族がいないはそのままの意味ではないの?父親という存在も母親という存在も、私は知らない。知ったところでなにになるわけでもないし、血の繋がりなんてたいした意味をもたない」
サンは家族というものに全く興味がなさそうな口振りで言った。
「まあ……いろいろあったんだな」
これ以上この話をしない方がいいと思ったジュンは、それ以上はなにも言わず運ばれてきた煮物の汁をすすった。