05 216番道路3
二人が歩いていった先に高台が見えた。
この上にシンオウ三湖のうちのひとつであるエイチ湖がある。
知識の神、ユクシーが眠るとされるエイチ湖は、受験を控えた人々が合格祈願に訪れることが多いので他の二つの湖と比べるとやや整備されている。
しかし、この時期に風邪を引いてはまずいということと、整備されているとはいえ、雪で移動が難しいことがあり、滅多に人は来ない。
あえてつらい時期にここに来て祈願する者もいるが、ごくごく少数だ。
「ジュピターはエイチ湖に用があるんでしょう。ここまで来たら私一人でキッサキまで行ける」
「まあこの先はほとんど一本道みたいなものだし、普通に行けるけど……」
エイチ湖に用のあるジュピターは近くに来たので先に見ておこうかと迷った。
いくらここからキッサキシティの建物が見えているとはいえ、サンを一人で行かせるのは不安だった。
「一人で行ける」
そう言ってサンは乗っていくという意思表示か、ウインディを出しその背に乗った。
「ならいいか。まっ、気を付けなよ」
サンはうなずいて、そのままウインディを走らせて、じきにジュピターの位置からは見えなくなった。
少し行くと、ぼやけていたキッサキシティの街の輪郭がしだいにはっきりと見えるようになった。
その途中、サンは人を見つけた。
雪に足をとられて動けなくなっている十代くらいの少年だった。
少年はサンを見ると、手を振ってなにかを叫んだが、その声は雪に吸い込まれサンの元までは届かなかった。
少年の口の動きに気付いたサンは、ウインディの進行方向を変えて、少年のもとに向かった。
少年はサンが向かってくるのに気付いて安堵の表情を浮かべた。
「雪にはまっちまって……引っ張ってくれないか?」
サンは少年がはまっている雪を見た。偶然深いところに足をいれてしまったようで、下半身がほぼ埋まってしまっていた。
サンはサーナイトを出して、ねんりきで少年を雪の中から引き上げてウインディの背に乗せた。
「助かった、あのまま誰も来なかったらどうしようかと思った……」
「どうしてあそこに?」
「ちょっと願掛けにと思ってエイチ湖に行こうとしたら深いところにはまっちまって……おかげで助かった、ありがとな!」
先程まで雪に沈んでいたのにもかかわらず、少年はいたって元気だった。
「俺はジュン、君は?」
「サン。願掛けって何をしに?」
「いや、次行くキッサキジムが最後のジムなんだ。だから願掛けに行こうとしたんだけどこんな有り様」
ジュンはケラケラ笑っていた。
「サンだっけ?キッサキシティに行く途中だったのか?」
「そうですが、なにか?」
「いや、こんな状態だからさ、このままキッサキシティに連れてってくれないかなー、なんて」
「……構いませんよ」
サンはジュンにウインディにしっかり掴まるように言って、再びウインディをキッサキシティに向けて走らせた。