02 216番道路
いくら明かりが灯っていたとはいえ、外の明るさにはかなわない。
洞窟を出た二人は外の眩しさに顔をしかめた。
彼らの前には一面の銀世界が広がり、遠くの方にユキワラシやイノムーなど、氷タイプのポケモンの姿が見える。
サンはグレイシアを出した。氷タイプなので雪が嬉しいのだろう、少し遠くまで走っていったり転げ回ったりして雪の感触を楽しんでいた。
もうすぐ昼になる頃、サンは不意に横を歩くジュピターに声をかけた。
「ジュピターって寒いところが苦手だって言ってなかった?」
「寒いのは嫌いよ、寒いのが好きなのはそうそういないでしょ。ていうかあんたは平気なの?今まで外に出たことなんてないでしょ」
「あまり意識していなかった」
だからサンはあのように適当な格好で216番道路を抜けようとしていたのだ。今までそれで平気だったからだろう。
「なぜアカギは私を外に出さなかったの?」
今まで何ら疑問にも思っていなかったことが急に疑問に思えてきた。
旅をしてきて思えば、アカギは彼女をどう育てるつもりで今まで育ててきたのだろう。
彼女が旅をしてきて見た中で見てきた人々は、彼女が当たり前としてこなかったことを当たり前として過ごしていた。
そのときは不思議に思ったりもしたが、すぐに忘れいたのだ。
「知らないわよ、ボスの考えてることは」
「なら、なぜアカギに従うの?旅をしてきて見た。人は同じように考えてる人同士で集まっていて、考えの理解できない人同士は対立していた」
ジュピターはその問いに答えず、小さく白い息を吐いた。答えていいものか迷った。もちろんアカギが何のためにサンをそのように育てたのかはわからないし、サンだってアカギに従っている。それと同じかもしれないし、違うかもしれない。ただ、アカギに逆らうつもりは毛頭ないのは確かだ。
「あんたにもいつかわかるわよ、今はわからなくてもいいじゃない」
その時、二人は横の崖に洞窟のように割れた穴を発見した。
「そろそろ昼にしない?休憩しましょ」
少し足が痛くなっていたサンはうなずいて穴の方に進路を変えた。
穴はそう深くはなく、ポケモンや人のいる気配も無かった。
ジュピターはキュウコンに火を起こさせ、手早く小さな焚き火を作って調理を始めた。
温めるだけのレトルト食品だが、冷えた身体を温めることが先決なのでサンも皿を用意したりとジュピターを手伝った。
温め終わったレトルト食品を皿に移すと、匂いにつられたのかここが住みかなのかわからないが、マニューラとニューラが穴の前にやって来ていた。
二人は倒そうかと考えたが、作った食べ物をこぼしてしまうかもしれなかったのですぐには動けなかった。
『それ何だ?』
ニューラが皿を見ながら尋ねてきた。
『私達の食べ物』
『そこは私達の住みかだよ』
マニューラは二人を睨み付けた。
「住みかを取られて怒ってる」
サンは攻撃体制に入ろうとしていたジュピターに言った。
その時、マニューラが何かの攻撃を受けて飛ばされた。
『何だ?』
『サン、吹雪になりそう!』
外を駆け回っていたはずのグレイシアだった。
言われて外を見ると、はらはらと降っていた雪が、今は粒が大きくなり勢いも増してきている。
「吹雪になるって」
ジュピターは外の様子を見た。
「今動くのが無理そうね……」
『何するんだよ!痛いじゃないか!』
『ご飯をあげるから、吹雪が止むまでここにいさせて』
サンはマニューラ達に頼み込んだ。
『何で攻撃してきた奴を……』
『でも兄ちゃん、ご飯くれるって言ってるよ』
『吹雪が止むまででいい、ここにいさせて』
サンは自分のカバンからポケモンのご飯を取り出して彼らに差し出した。
彼らはそれを見て、さっとサンの手から掠め取った。
『もらっていく、別に俺達は吹雪の中でも平気だから、吹雪が止んだら出ていけよ』
そう言い残してマニューラ達は再び雪の中に消えていった。