01 テンガン山
近くの店でひととおりの服装を揃え、サンは服を着替えた。
厚手のブーツにウエア、ズボンに着替え、マフラーと手袋も新調した。
「……ジュピターは私より薄手」
「ああ、あんたはこれ持ってなかったね」
そう言ってジュピターはサンにつけていた手袋を外して見せた。
薄い伸縮性のある素材の裏側が起毛していて、これ一枚で十分温かいだろう。
「まだ製品化されてないからどの店にも売ってないけど、売れるわよ、これ。あのじいさんいろんな分野に手出してるわね」
「あのじいさん?ああ、プルート……」
サンは最近幹部になったばかりの研究員を思い出した。何度か顔を合わせたことがあるが、サンはあまりいい印象を持っていない。
「あんたとは違う意味でなに考えてるのか解らないわ。使えるからって何であんなじいさんが幹部になったんだか」
ジュピターはさっぱりわけが解らないという顔をしながら手袋をつけ直した。
その後、二人は黙ったまま黙々と歩き、テンガン山内を通る洞窟の入り口に到着した。
ここの洞窟には特にこれといった歴史的なものもなく、通行のために利用される。
とはいえ長い洞窟なので、中に入るにはそれなりの準備が必要だ。
「通行料300円だよ」
洞窟の中は人が通れるように整備されていて、電気や中間地点には水道も引かれている。
二人は入り口の手前で通行料を払ってテンガン山の洞窟に入っていった。
洞窟はほとんど誰もいないようで、洞窟内には二人の歩く靴音だけが聞こえた。
この時期のキッサキシティに行こうとする者は少なく、行くとしても大人数でツアーのようにして216番道路を抜けることが多い。
今日はその団体もいないようだった。
「ジュピターは何のためにキッサキシティに行くの?」
サンの涼やかな声が洞窟内に響いた。
「エイチ湖の調査よ」
「知識の神の?」
「そうだけど、あんたも来るの?」
「行かない」
先を読むのが得意なジュピターでのも、やはりサンの行動はわからない。
「で、強いトレーナーには会えたの?」
「会えていない。ジュピターやマーズの方が強い」
「もういいんじゃない?そんなことならチャンピオンの実力もしれてるでしょ」
ジュピターは半分呆れ混じりに言った。サンの強さは普通ではない。天才と呼ばれるようなトレーナーでさえ、彼女に勝つことはできないだろう。彼女はトレーナーとして異質なのだ。
そのあと、二人は会話らしい会話もないまま洞窟を抜けた。