08 霧と出発2
家の中に戻ったおばあさんは、サンのためにスープを温めなおしてパンを焼いてくれた。
「あの子……シロナは起こさなくてもいいのかい?」
「はい。気持ち良さそうに寝ていたので邪魔はしたくありませんから」
サンはふと、カバンから紙とペンを取り出してシロナに手紙を書いた。
『シロナさん
昨日は本当にありがとうございました。貴重な文献を読むことができました……』
そこでサンの手の動きが止まった。
何と書けばいいのかわからなくなったからだ。カンナギタウンまでの道中、一緒にいたけれどに特に何も思わなかった。
サンは紙をくしゃくしゃに丸めてまたカバンにしまった。
「おや、くしゃくしゃにしてしまっていいのかい?」
お盆にスープとパンを乗せておばあさんが言った。
「……いいんです」
おばあさんは不思議そうな顔をしながらも、それ以上は尋ねなかった。
サンはパンとスープを黙々と食べると、おばあさんにお礼を言って立ち上がった。
「またいつか会えるといいねぇ」
霧はまだ晴れていない。おばあさんはサンを見送りに外に出てきてくれた。
サンはもう一度お礼を言うと、振り返ることなく長老の家を後にした。
霧が深く、なかなかゲートまで進めなかったが、道案内の看板とサーナイトのおかげで、ようやくカンナギ西ゲートに到着した。
中にはいると、いくつかのベンチが並び、そのうちのひとつにジュピターが座っているのが見えた。
ジュピターはサンの姿を見付けると立ち上がり、サンの方に歩いてきた。
「道順とかわかってる?」
「だいたいは」
サンはそう言いながらタウンマップを取り出した。
「ならいいけど……って、あんたそんな格好で冬の216番道路を抜ける気?凍え死ぬわよ!」
サンはは長ズボンにコートといった出で立ちだ。カンナギタウン辺りの冬の気温には耐えれるだろうが、216番道路はここよりさらに寒い上、吹雪くこともある。
「しかも普通のスニーカーって、ブーツにしなさいブーツに!」
ジュピターは一度大きく息を吸った。
「とにかく、どっかのお店いくわよ。いくらウチの商品が優れてるからって冬の216番道路にそれで挑むのは無謀よっ!」
ウチの商品とは、ギンガ団が実質的に運営している宇宙エネルギー開発会社の製品のことだ。優れてはいるが、まさか冬の216番道路に行くとまでは想定されていない。
ジュピターはここでサンと一緒に行こうとしてよかったと、心の中で安堵の溜め息を漏らしたのだった。