07 霧と出発
「……少しくらい抵抗しなさいよ。こんなんじゃあっさり誘拐されるんじゃないか私は心配だよ」
あきれた声が聞こえた。
「ジュピター、なぜ?」
ジュピターはサンを地面に下ろし、サンと目の高さが同じになるようにかがんだ。
「あんたねぇ、自分の利用価値わかってないでしょ。位置の特定くらいされてるって思いなさい」
「……発信器?」
「せっかく作ったんだから使いたいじゃない。私の独断」
ジュピターはプログラミング以外にもこういう物を作るのも得意だった。だいたいの幹部、部隊長の位置の把握のために作ったのだ。
「だいぶ前に作って忘れかけてたの、思い出したのもつい最近」
「私に利用価値なんてあるの?」
ジュピターはサンの自覚のなさにあきれて物が言えなかった。
(無自覚すぎ……ポケモンバトルが強いってことはそれだけで影響力があって、脅威になり得るのに)
「で、なぜジュピターがここにいるの?」
「これからキッサキに行くのよ。あんたも行くんでしょ?」
「行くけど……なぜそんなことを?」
「こんなクソ寒い時期にあんたを一人でキッサキまで行かせれるわけないでしょ!」
要するに、ジュピターはどうせ同時期にキッサキシティに行くならサンと一緒の方が何かと安心できると思っているのだ。時期がかぶらなくとも、発信器のことを思い出していれば心配でどうせ一緒に行こうとしていただろう。
「……私にギンガ団に戻れと言いに来たわけではないの?」
「まだ連れ戻せって言われてないし。で、行くの?」
「黙って出ていくのは嫌だ」
「はいはい、お礼でも何でもしてきなさい。私は先にカンナギの西ゲートに行ってるから」
その時、長老の声がした。
「朝早くに誰だい?知り合いかい?」
「あっ……」
サンはゆっくりと振り返った。
「年寄りは朝が早いんだよ。物音がしたから起きてみたらあんただったんだね」
「起こしてしまいましたか?」
「いいんだよ。これくらいに起きてるから。で?あんたは誰だい?」
「この子の保護者みたいなものです。キッサキシティに行くのでどうせなら一緒に行こうかと。この時期はいろいろ不安ですし」
「こんな朝早くに待ってたのかい?」
「この子が早起きなのは知っていたので」
ジュピターは朗らかに笑いながら言った。シンオウ最大の組織の幹部だなどと微塵にも感じさせない笑いだった。
「朝食くらい一緒に食べていかないかい?一人増えたところで変わらんよ」
「私はもう済ませたので、少し先で待たせてもらいます」
そうとだけ言うと、ジュピターはすたすたと足早に歩き去っていった。
サンは長老に促されて、家の中に戻った。