05 ポケモン図鑑
サンは奥の部屋で文献を読みふけっていたが、ふと窓を見てもうだいぶ暗くなっていることに気付いた。
サンが本に夢中で相手をしてくれなかったので暇だったのだろう。彼女の横ではリーフィアがぐっすり寝ている。
サンはリーフィアを起こして立ち上がった。
居間に戻ると、台所でおばあさんが何かを作っているのが見えた。
「シロナさんはどこに行ったんですか?」
おばあさんは振り返ってサンを見た。
「ああ、シロナなら出掛けたよ。ご飯が出来たら呼びにいこうと思ってたからちょうどよかった。たくさん読めたかい?」
「はい」
おばあさんはうんうんとうなずいてまた料理に戻った。
「ただいま」
そう言ってシロナが帰ってきた。
「おばあちゃん、珍しい人を連れてきたよ」
サンはシロナの方を見た。初老の男がシロナの後ろにいる。彼女はその男に見覚えがあったが、よく思い出せなかった。
彼女が思い出そうとしていると初老の男が口を開いた。
「君は確か……ミオ図書館で会った」
そう言われサンは思い出した。
「あのときの博士ですか?」
それを聞いてシロナは驚いて男の方を見た。
「ナナカマド博士とサンを知り合いなの?」
「ああ、以前ミオ図書館で会ったんだ。驚いたよ、まさか4階にこんな女の子がいるなんて思わなかったからね」
「ミオ図書館の4階?ずいぶんとまた難しい本のあるところにいたのね」
「しかも私の書いた『シンオウ神話と進化』を読んでいたから声をかけずにはいられなかった」
その時、おばあさんが料理を持ってそれを机に置いた。
「で?ナナカマド博士は何でここにいるんだい?」
「遺跡を歩いてたら偶然会って、家に来ないかって勧めたの」
「二人はどういう関係なんですか?」
サンはシロナに尋ね、ナナカマド博士がそれに答えた。
「シロナ君は私の教え子だよ。今でも時々データを送ってもらったりしていてね」
「……そういえば、あれって完成したんですか?」
「あれ?」
「ああ、これのことだ」
そう言ってナナカマドは手に持っていたカバンから何かを取り出した。
赤いプラスチックのケースのような物だ。
「ポケモン図鑑だ」
ナナカマドがそれの横のボタンを押すと、カチリという音と共にそれが開いた。
画面にはモンスターボールの模様と、小さな入力欄が映された。
「ここに調べたいポケモンの名前を入力すると、そのポケモンの情報を見ることができる」
ナナカマドちらりとサンの横にいたリーフィアを見て入力欄に『リーフィア』と入力した。
すぐに検索結果が画面に表示された。
様々な角度から見たリーフィアの写真に、説明文、生態、進化の過程、大きさなどが表示された。
「素晴らしい出来ですね」
「いや、まだ一部ポケモンのデータが足りない。それにまだ見つかっていないポケモンもいるからな」
「どのポケモンのデータが足りないんですか?」
「育てるのが難しいポケモンが多いかな。強いポケモンほど育てにくく、プライドが高いだけに協力も得にくいしな……君も何か調べてみるかい?」
ナナカマドはサンにポケモン図鑑を手渡した。
サンは受け取ったそれを持って、どうしようか悩んでいた。
画面にはリーフィアの情報が表示されたままだ。
「これを押すと元の画面に戻る」
ナナカマドが教えたボタンを押すと、パッと画面が切り替わりモンスターボールの画面に戻った。
ナナカマドはさっき画面の下のキーボードでポケモンの名前を入力していたので、サンも適当なポケモンの名前を入力した。が、その先の動作が解らない。
その様子に気付いたナナカマドは検索のボタンを押した。
『ルカリオ』
数枚の写真が表示され、様々なデータが表示された。
そして、サンは元の画面に戻ろうとしたが、先程ナナカマドが教えたボタンがどれか解らない。様々な記号が彫られたボタンはどれも同じに見える。
その後、彼女は何度かポケモンを検索したが、彼女の動作が速くなることはなかった。
(……機械オンチね)
シロナは心の中でそう呟いた。
『カイリュー』
彼女はそう打ち込んで検索した。
すると、写真が2枚で、説明文も短かった。
「ああ、そのポケモンはまだあまり調べられなくてね。カイリューまで育てるのが難しいから持っているトレーナーも少ないし、気難しいのが多いから研究に非協力的なんだ」
「……私、持ってますよ」
彼女がそう言うとナナカマドの目が輝いた。
「大きさとかを測らせてももらえなくてね、大きさだけでもいいから測らせてもらえないか?」
「私は構いませんが」
「その前にご飯食べておくれ。冷めてしまうよ」
机を見ると、既に配膳が終わっていた。
「博士の分もありますから、ゆっくりしていってくださいな」
言われた通り、彼らは腰を降ろして並べられた料理を見た。
湯気を立てていて美味しそうだ。
彼らは冷めないうちに食べようと、手を動かし始めた。