06 その頃のズイタウン
大雨に見舞われながらなんとかズイタウンに到着したハンサムは、今晩はどこか適当な所で休もうと、ズイタウンの地図を見て宿を探した
何件かの民宿が見つかったので、いくつか目星をつけて訪ねてみることにした。
一軒目と二件目の民宿は一杯で、三件目の民宿は同じタイミングで駆け込んだ青年とのじゃんけんで負けたので泊まれなかった。
次はどこに行こうかと傘をさしズイタウンをぶらぶらしていると、『育て屋』の看板が目に飛び込んできた。小さく民宿やってます、と書かれている。
ハンサムは『育て屋』に入っていった。
「いらっしゃい」
『育て屋』には客がほとんどおらず、雨降りなので雨宿りしているといった感じの人ばかりだ。
「あー、民宿をやっていると聞いて来たんだが」
「泊まりに?部屋は空いてますよ」
ハンサムはうなずいた。
「一晩泊めていただけますか?」
「ははっ、お客さんを追い出すなんてしないよ。ここに名前と生年月日と連絡先を書いてもらえますか?」
ハンサムは自分の名前とポケギアの番号を手早く記入した。
「はいはい、確かに。じいさん、この人を部屋まで案内してやっておくれ」
おばあさんが呼ぶと、奥からおじいさんが出てきた。
「なんだい?」
「この人、民宿のお客さん」
「そうですか、どうぞどうぞ、こちらです」
おじいさんはにこにこと笑みを浮かべてハンサムを奥に案内した
廊下を歩きながらおじいさんはハンサムに話しかけた。
「ところで、普段は何をなさっているんですか?お仕事は?」
「えー、警察です」
ハンサムがそう言うと、おじいさんは驚いた顔をした。
「警察の方ですか……ここらで何かあったんですか?今朝の事は全て話したような……」
「今朝の事?」
「おや、違うんですか?あっ、部屋はここです」
そう言っておじいさんは扉を開けた。机と椅子と部屋の隅に寝台があるだけの簡素な部屋だった。
「すみませんね、テレビはないんです。リビングにはあるので観たいものがあればリビングに来てください。風呂はここの廊下を右に曲がったところにありますのでおっしゃっていただければ沸かしますよ。食事は……少し出たところに食堂やレストランがあるのでそこを利用して頂けますか?居酒屋や屋台もありますから」
「わかりました。ありがとうございます」
ハンサムは出ていこうとしたおじいさんを引き止めて尋ねた。
「ところで……今朝の事とは?」
おじいさんは振り返って答えた。
「ああ、今朝ギンガ団に襲われてね」
「ギンガ団に!?何があったんですか?」
「うちで育ててるポケモンを寄越せと言われてね。おや、ご存知ありませんでした?」
「初耳です。ですが何もなかったように見えますね」
「いやー、8歳か9歳くらいの子に助けられてね。凄かったなあ」
ハンサムははっと顔をあげた。
「その子の名前とかはわかりますか?」
「あー、そう言えば聞いていなかった。ですが……リーフィアとグレイシアとルカリオとサーナイトを連れてたね。強かったなあ。凄く上手く育てられたポケモンだった」
(サンだ。ここに来ていたのか)
「その子がどこに向かったかご存知ですか?」
「知っている子なんですか?」
「ええ、まあ知り合いかもしれないと思ったので」
「北の方に行ったよ。カンナギタウンだと思うが……この雨で足止めされてるかもしれないなぁ」
(追い付ければいいのだが……カンナギで止まってくれるか)
ハンサムはおじいさんにお礼を言って部屋に入り、寝台に寝転がった。
(カンナギタウンか……遺跡が多いし追い付いたとしても見付けられるか?先に行っているかもしれない)
カンナギタウンには観光客や研究者が多くいて、人の出入りも多い。遺跡の位置の関係で道も入り組んでいる。同じ時間にカンナギタウンにいたとしても見付けるのは困難だろう。
(この雨で足止めされていればいいんだが……)
ハンサムはそう願いながら立ち上がって、食事を取りに部屋を出た。