05 212番道路2
いつまでたっても雨は止まず、結局彼らは岩の下で一晩泊まることになった。
「止まないわね」
「そうですね」
二人はそれぞれのテントを設置し終えて、サンのウインディにもたれ掛かって並んで座っていた。
サンの膝にはグレイシアとリーフィアがそれぞれの頭を乗せて、くつろいでいる。
すべてのポケモンを出したかったが、皆は岩の下に入れないので何体かはボールに入れたままだ。
ポケモンのタマゴはシロナが膝に乗せて持っていた。
「生まれそうですか?」
「さあ、いつ生まれてもおかしくないけど」
彼らは取り敢えずすることがないのでタマゴを眺めていた。
その時唐突にシロナは言った。
「ポケモンって不思議よね。私達人間に協力してくれて、時には人間を攻撃して……何があっても揺らがずに今もそれは続いてる。私はその事が知りたくて、神話や昔のことを調べてるけど、知れば知るほどわからないことが増えてきて……でもそれって不思議なことをいくつも見つけて、それを解明していけばわかるってことなのかな。不思議なことがあるから人はそれを調べ新たな知識を得る」
「……シロナさんの言うことが一概に正しいとは言い切れませんが、それも1つの考え方、思想なんでしょう」
シロナは小さく息を吐いた。
「あなたって不思議なトレーナーね。大人びてるとはまた違った、独自の思想を貫くわけでもない。子供っぽくないのは確かだけど」
「子供っぽい?」
「あなたと同じくらいの年の子はもうちょっと、気楽というか……思いが顔に出たりするものよ」
「……私は普通ではないんですか?」
お思いがけない問い返しに、シロナは言葉に詰まった。確かに自分が普通の基準になるのは当然のことだ。だからといってそれを言ったところで変わることは少ないだろう。
「普通の基準は人それぞれ。私からすればあなたは変わってる。あなたからすれば私は別人、変わった人でしょう?」
彼女はしばらく黙って考え、そしてうなずいた。
「個人……ですね」
「そうね……あら?」
見るとシロナが持っているタマゴの上がパキリと小さく音をたてて割れた。
「孵るの?」
二人は黙ってタマゴが割れていくのを見ていた。
だが、タマゴは上と一部だけが割れて、上からポケモンが顔を出した。
「……トゲピーですね」
トゲピーはシロナと目を合わせた。そしてそのままシロナにくっついて離れなくなった。
「ちょっと……サンのタマゴから生まれたのに……」
サンは黙ってその様子を見て言った。
「いいんです。トゲピーもシロナさんのことを気に入っているみたいですし迷惑でなかったらシロナさんが引き取ってくれませんか?」
「私は別に……」
「トゲピーはもうシロナさんのことを親だと思っていますから……」
トゲピーはサンを見て、すぐに目をそらしてシロナの方を見た。
その様子を見てシロナはうなずいた。
「ほんとにいいの?」
「はい。私にはこの子達がいますから」
「……じゃあ受け取っておくわね。ちょうど一体欠けてたから」
シロナは昔のことを振り返るように言った。
「一体欠けていた?」
シロナは一瞬言うのをためらったが、口を開いた。
「私のポケモンにトリトドンがいたんだけど、その子が病気でバトルどころじゃなくなって……どうしようかと思ってたところだったの」
「そう……なんですか」
「病気になっちゃったからってすぐ次のポケモンを探すのはトリトドンに悪いかなって。でもお陰で踏ん切りがついたわ。トリトドンに挨拶させないと」
「迷惑にならなくてよかった。元はと言えば私がシロナさんにタマゴを預けておいたからです」
シロナはとんでもないとばかりに手を振った。
「こんなかわいいトゲピーが仲間になったもの、迷惑なんてとんでもない。もう遅いし寝ましょ。朝になったら晴れてるかもしれないし」
シロナがそう言うと、サンはうなずいて、ポケモン達をボールに戻して立ち上がった。
「では私は寝ます」
「おやすみ」
シロナはトゲピーを膝にのせたまま笑顔で手を振った。
サンは何度かシロナの方を見ながら、自分のテントに入っていった。
サンがテントに入るのを見届けて、シロナもトゲピーとテントに入って、横になるとすぐに眠りに落ちていった。