03 山小屋カフェ
サンは育て屋の老夫婦からもらったタマゴを腕に抱えながら、彼女は210番道路を北へと進んでいた。
『それは何のタマゴ?』
彼女の横を歩くリーフィアが聞いた。
『……わからない。ポケモンのタマゴの実物自体見たことがない』
『見せて』
せがんでくるリーフィアに目を向け、ふと横を見ると小さな山小屋があり、カップの形をした看板には大きく『山小屋カフェ』と書かれている。
だいぶ歩いていた彼女は、リーフィアに少し休む、と言ってその『山小屋カフェ』に向かって歩いた。
「いらっしゃいませ!」
彼女は店員に案内されて席についた。
手渡されたメニューを見て、どれにするか決めていると、不意に後ろからぽんぽんと肩を叩かれ振り向いた。
「こんなところで会うなんて奇遇ね」
そう笑いながら言ったのは、彼女が212番道路で出会った女性、シロナだった。
「前に座ってもいいかしら?」
彼女がうなずくと、シロナは彼女の前の椅子に腰掛けた。
「メニュー決まった?私ここにはけっこう来るんだけどここのミルクシチュー美味しいわよ」
「そうなんですか?ならそれにします」
そう言って彼女はメニューを机に置いた。
「すみませーん」
シロナはウェイトレスを呼び、注文を伝えた。
「ところで、そのタマゴは何のタマゴ?」
シロナは彼女のカバンの横にあるタマゴを指して言った。
「わかりません」
「え?あなたのポケモンのタマゴではないの?」
「貰ったタマゴなので」
「見せてくれない?」
彼女はタマゴを手に取り、それをシロナに手渡した。
「どうぞ」
シロナはそれをじっくり見た。
「へぇ、明日ってところかしら」
「わかるんですか?」
シロナはタマゴのてっぺんを指差して言った。
「この丸い模様が消えるころに孵るはずよ。もうこんなに薄くなってるから明日か、早ければ今日中には産まれるわ」
そう言いながらシロナはタマゴをサンに返して、彼女がタマゴを再びカバンの横に置くのを眺めた。
「……そういえば、次はどこに行くの?カンナギタウン?」
「そうですが、何か?」
「私も一緒に行っちゃダメかな?私もカンナギタウンに用があるの」
シロナがそう言ったところで、注文したミルクシチューが届いた。
「あー、これよこれ」
彼女は運ばれてきた料理を見た。
搾りたて新鮮なモーモーミルクをふんだんに使い、野菜がごろごろ入ったシチューが美味しそうに湯気を立てている。濃厚なミルクの香りが鼻をかすめた。
シロナは嬉しそうにそれをスプーンですくって口に運んだ。
彼女も湯気の立つシチューをスプーンですくい、口に入れた。
香りどおりの濃厚なミルクに溶けた野菜の欠片が混ざり、なんとも言えない旨味が口一杯に広がった。
「どお?美味しいでしょう?」
楽しそうに感想を求めてきたシロナに、彼女はうなずいただけで何も言わなかった。
「暖まるね」
そう言ってシロナも黙ってシチューをすすった。
二人の前のシチューの皿が空になったところで、シロナは再び彼女に尋ねた。
「カンナギまで一緒に行っちゃダメかな?」
彼女は一瞬動きを止めたが、断る理由が見付からなかったのでうなずいた。
「お願いします」
「よろしくね!」
そして二人は一緒に会計を終え、『山小屋カフェ』を出ると、並んで北に向かって歩き出した。