02 育て屋
不意に現れた5人組のギンガ団員はずかずかと『育て屋』のカウンターに歩み寄り、受付をしていたお婆さんにニヤニヤ笑いながらこう言った。
「ここのポケモン俺達に渡せ」
「なに言ってるんだいあんたらは、そんなことできるわけないだろう」
お婆さんは心底呆れたように言った。
『育て屋』にやってきた客は突然のことに動けなくなっている。
ギンガ団員はカウンターをドンと叩いてさらに言った。
「こんなガキどもに使われるよりいいだろ。俺達が上手に使ってやるさ」
「アホらしい、こっちだって商売だ。出てっとくれ商売上がったりだよ」
お婆さんがそう言うと、ギンガ団員はちょうど近くにいたサンを掴んで引き寄せた。
「へっ、ポケモンを寄越しな」
そう言ってギンガ団員は彼女のモンスターボールに手をかけた。
「人のものを奪うな!」
彼女は叫んだが、ギンガ団員はボールを開けて彼女のルカリオを出した。
「ルカリオじゃねーか、こんなガキにはもったい……」
ギンガ団員はそう言い終える前に、ルカリオに攻撃を加えられ、その隙に彼女は団員の腕を振り払った。
『こいつ……どうする?』
『彼らを外に出す』
そう言って彼女はサーナイトとリーフィアとグレイシアを出し、リーフィアとグレイシアに建物の中に残るよう命じ、彼女は『育て屋』の外に出た。
逃げられたことに怒り狂ったギンガ団員は彼女を追って『育て屋』の外に出た。慌てた様子で他の団員も出てきた。
『どうする?』
ルカリオにそう聞かれ、彼女はギンガ団員に向かって言った。
「ポケモンが欲しければ自分で育てるべき。人のものを奪うな」
彼女の声は怒りに震えていた。今まで感じたことのない『怒り』の感情に彼女は戸惑いながらギンガ団員を睨んだ。
「ははっ、こっちの方が効率的だろうが。ポケモンを上手く使えねーガキに使われるよりいいだろ」
そう言ってギンガ団員らはそれぞれのポケモンを出した。
ボールから出されたキリンリキ、ヌオー、ヘルガー、ラッキー、タマンタがギンガ団員の指示を受けて彼女に襲いかかった。
『十万ボルト、ヌオーにははどうだん。ルカリオはその後ラッキーにインファイト』
彼女の指示は的確だった。
サーナイトが十万ボルトで一気に敵ポケモンを攻撃しているうちに、でんき技の効かないヌオーにルカリオが攻撃し、ルカリオはさらに電撃にひるんだラッキーをインファイトで倒した。
「マジカルリーフ」
よろよろになりながら立っていたキリンリキにサーナイトは攻撃を加え、キリンリキは倒された。
あまりに一瞬の出来事にギンガ団員は訳がわからず固まって、じきに一人がはっと状況を理解した。
「う、ウソだろ……」
それにつられて他の団員も次々に状況を理解していった。
「二度と私の前に現れるな」
彼女の迫力に団員は言葉を失い、足早に逃げ去っていった。
彼女はギンガ団員の姿が見えなくなったのを確認すると、再び『育て屋』の中に入っていった。
「凄かったねぇ、助かったよ」
一人のお爺さんが彼女に頭を下げ礼を言った。
周りの人達も合わせて口々に彼女に礼を言って、称賛の声をあげた。
「いえ、そんな大したことではありません。私はこれで」
そう言ってグレイシアとリーフィアをボールに戻した彼女は『育て屋』を出ていこうとした。
「何にもお礼をしないなんて悪いよ……といってもうちにはポケモンのタマゴくらいしか渡せるものがないんだが」
「お礼はいりません。先を急ぐので」
彼女はそう言って断ろうとしたが、お爺さんが彼女の腕をがっちりとつかんでいて出ていくことが出来なかった。
そうしている間に、お婆さんがいくつかのポケモンのタマゴを持って現れた。
「どの子か貰ってくれないかねぇ、お嬢ちゃんに育ててもらったらきっとポケモンも幸せだと思うからさ」
これはタマゴを1つくらい受け取ったほうがいいと判断した彼女は、真ん中にあった一番小さなタマゴを選んだ。
「……まあ何のタマゴかはわからないけど大事に育ててあげてくれ。そのタマゴなら明日には孵るはずだ」
お爺さんはそう言ってからまた彼女に何度も礼を言って、彼女をお婆さんと一緒に送り出した。
『育て屋』にいた人達も皆、彼女を笑顔で見送った。