03 vsデンジ
デンジがライチュウを出したのを見て、オーバは呆れたように言った。
「ここでやるのか」
「どこだっていいだろう……君はポケモンを出さないのか?」
少し展開に付いていけていなかったサンは、デンジに言われてウインディを出した。
「負けると解ってやるのも面倒なものだな」
デンジは誰にも聞き取れない小さな声でそう呟いた。
「かみなり!」
「あなをほる!」
あなをほるで地中に潜ったウインディにライチュウのかみなりは当たらなかった。
「あなをほる!」
サンの指示どおりウインディはライチュウに攻撃を仕掛けたが、ライチュウはそこでかげぶんしんをして避けた。
「かえんほうしゃ」
ウインディはライチュウのぶんしんをすべて攻撃し、本物だけが残った。
「フレアドライブ!」
その攻撃はライチュウに命中し、ライチュウはしばらく踏ん張り、倒れた。
「行け、エテボース」
エテボースはデンジの指示も聞かないまま、尻尾を振ってダブルアタックをウインディにしかけた。
「お前のエテボースは相変わらずだな」
オーバは首を振りながら言った。
「こいつなりの考えがあるんだよ」
そう言ってデンジはエテボースに指示を出さなかった。
ウインディの攻撃をぴょこぴょこ動いて避け、時々攻撃をしてくる。
(次は……右上)
『エテボースの右上にかえんほうしゃ』
サンはウインディに指示を出し、言った。
「かえんほうしゃ!」
エテボースは彼女が予想した通り、右上に飛んで避けようとした。
かえんほうしゃはエテボースに命中し、動きが鈍った。
「だいもんじ」
ウインディはエテボースに接近し、至近距離でだいもんじを放った。
「ふん」
そう漏らしてデンジはエテボースをボールに戻した。
「気付いたのか」
「指示を出さないことによって次の攻撃を読めなくし、かつこちらの指示を聞いて攻撃に備える」
「正解」
デンジはそう言うと、最後のポケモン、エレキブルを出した。
「ほうでん!」
「かえんほうしゃ」
ウインディはエレキブルが電気を発している腕を狙ってかえんほうしゃを放った。
少しウインディは電撃によるダメージを受けたが、エレキブルは電気を発する腕を攻撃され、ほうでんを止めた。
「ほのおのキバ」
エレキブルは倒された。
「……やはり負けた」
デンジはそう呟いた。
「やはりって最初から負ける気で戦ってたのか?」
「この子の実力くらい見ればわかる。俺がしたいのは先が読めないような勝負。こんなにわかりきった勝負じゃない」
「そんなこと思ってバトルするなんてサンに失礼だろう!」
オーバは憤慨して言った。
「だが気が変わった」
「はあ?」
デンジはサンの方を見た。
「先がわかるような勝負ばかりでつまらなかった。君と戦う前も負けるのは感じていた」
「やってみなければわかりません」
静かな表情でサンは言った。
「それでも君との勝負は楽しかった。負けるなら、せめてなにができるか。少しでも君のポケモンにダメージを与える方法を考えながらのバトルは……」
「……私はどうやっても負けることができない。だから私を負かせられるトレーナーと勝負がしたい。わざと負けては意味がないから」
奇妙な少女だ、とオーバは思った。
負けたいなんて思うトレーナーはいないだろう。負けるということはポケモンとトレーナー自身の力のなさを見せ付けられるということだ。そこから学ぶこともあるが、負けるのは欠点があるから。勝つのは欠点がないから。これ以上学ぶ必要がないということ、駄目なことではなく、むしろいいのではないだろうか。
「君はなぜ負けたいんだ?」
「……勝ってばかりでは成長しないところもあると思うから」
「成長……ね」
話している彼らの間に、手が差し出された。そこにはジムバッジが乗っている。
「君のものだ」
そう言ってデンジはジムの扉を開けて、中に入っていった。