03 テレビ3
出ていってすぐに、ウラヤマは手に古ぼけた表紙の本を持って戻ってきた。
「これがそれなんだが……」
そう言ってシロナにそれを渡した。
シロナがそれをパラパラとめくり始めたので、サンも横からそれを覗き込んだ。
『リッシ湖、エイチ湖、シンジ湖の3つの湖に住むアグノム、ユクシー、エムリットは生き物に意志、知識、感情を与え、ディアルガ、パルキアは時と空間を産み出した……』
まず彼女の目に飛び込んできたのは神話の一部だった。ここは広く知られていることだ。
「昔の神話の写しでしょうか……内容はざっと見た限り変わったことは書かれていなさそうです」
「ああ、あと最後から2番目のページ」
シロナは言われたページを開いた。
「隅に書いてある文字なんだが……どうも私には読めなくてね」
「持ち主の手書きですかね……少し書き崩してかつ文章を入れ換え解りにくくしたアンノーン文字でしょうか。確かにかなり崩されて読みにくいですので、今すぐ解読は難しいかと」
「何も今解読してほしいわけではないんだが……」
「私は見た。山の上に何かが光ったのを」
サンは文の冒頭を読み上げた。
二人は一斉にサンの方を見て目を見開いた。
「お嬢ちゃん……これが読めるのかい?」
「合ってるわ、どこでアンノーン文字なんて覚えたの?」
「アンノーン文字の本を読んだことがあるので」
「ちょっと続きを読んで」
シロナは信じられないものを見るような目で彼女に頼んだ。
「その瞬間小さな光が東の方でうち上がり、すぐに消えた。薄青い光だった。もう一度山を見ると光は消えていて、すべて幻だったのではないかと思った。どの使用人もそんな光は見ていない、気のせいだと言う。だが私にはどうしてもあれが幻だったとは思えない。私の記憶が新しい内に手近な物に書き込むことにした」
「確かに……そう書かれているわ。君まさか研究者志望?」
「いえ、神話に興味はありますが、私はただのトレーナーです」
シロナは本を閉じた。
「君くらいの実力ならすごい考古学者になれるわよ」
「あくまで興味があるだけです」
「いやいや、すごいね。こんなあっさり解読してしまうなんて。で、シロナさん。この文献は何か特別ではないんですね」
ウラヤマは手を叩きながら言った。
「ええ、まあ真新しい文もなく、普通の神話の写しですね。ですがあの記述は興味深いものです。これがもし本当なら他の文献と照らし合わせていつのものか調べたいのですが」
「かまいませんよ。私が持っていても読むわけではありませんから」
そう言われ、シロナはそれを慎重にカバンにしまい込んだ。
「ありがとうございます。何か分かり次第連絡しますね」
その時、突然誰もスイッチを入れていないのにテレビがついた。
3人とも一斉にテレビを見たが、誰もいない。だが彼女はそのテレビの中から視線を感じた。
「テレビの中になにか……いる?」
二人はテレビをよく見たが、彼女の言うような視線は感じられない。
「なにもいなさそうだけど……」
彼女はもう一度テレビを見た。やはりそこからは何かの気配がした。