01 テレビ
サンがヨスガシティのゲートを抜けると、左手に大きな屋敷が見えた。
その屋敷は遠くまで続く大きな壁で囲われていて、とても広いのがわかる。
彼女はその壁に沿って歩いていき、この先にある212番道路の湿原に向かう途中だった。
先程から何人かのジェントルマンとマダムとすれ違っていて、彼らは皆何かのパーティーに向かうような服装をしている。
不意に彼女のそばの草むらががさがさと音を立てた。思わず彼女がそちらを見ながら歩いていると、彼女は誰かとぶつかってしまった。
「危ないじゃないか!」
ぶつかったのは1人の男で、杖をついてバランスを保っていた。
「すみませんでした」
彼女は素直に謝ったが、男はまだ怒っていた。
「そもそもよそ見をしながら歩くんじゃない!危ないだろう。私は足が悪いんだ。もし転んで悪化してしまったらどうするつもりだったんだ!?」
不意に彼女はアカギが言った言葉を思い出した。
『怒りほど醜い感情はない』
その時、彼女はこの男がとても醜いもののように思えてきた。
「あなたは……」
「大人気ないですよ」
突然、彼女の声を遮って男の後ろから涼やかな女性の声がした。
見ると黒いドレスに身を包んだ綺麗な女性が輿に手をあてながら立っていた。
「何だね?私はこの無礼極まりない子供によそ見するなと教えているところだ」
黒いドレスの女性は呆れたような口ぶりで男に言った。
「そもそもあなたもよそ見をしていたからぶつかったのではないですか?この子だけでなくあなたにも非はあります」
「何だと?私が悪いと言っているのか!?」
「どちらにも非はあると私は言ったんです。今のあなたは子供だけに罪を擦り付けようとする大人のようですよ。それにこの子はしっかり謝りましたよ」
「もう一度言ってみろ!そもそもお前は部外者だろう!」
「シロナさん、どうかしましたか?」
言い合う2人の会話を遮るように1人の男の声がいきなり割って入った。
立っていたのはぴっちりとしたタキシードを着た上品な身なりの男だった。
「あっ、ウラヤマさん」
シロナと呼ばれた黒いドレスの女性は振り向いて男の名前を呼んだ。
サンがぶつかった男は、その男性の姿を見て驚きを隠せないでいた。
「その子は?シロナさんの連れかい?」
ウラヤマはサンの方を見てシロナにたずねた。
「いいえ、知らない子です」
「何があったんだい?」
ウラヤマはサン優しくにたずねた。
「その男性とぶつかってしまったんです」
「それで……しっかり謝ったかい」
「はい」
ウラヤマは顔をあげて男の方を見た。
「あなたはどうされたんです?」
「いっ、いえ。歩いていたらその娘がぶつかってきたので、その……」
「この子は謝ったと言っています。それでもまだ何かこの子に要求するつもりですか?」
そう言われ、男は何も言えなくなってしまった。
「いえ、そんなことは……オホン、今後は気を付けろ」
そう言って男はさっさと歩き去ってしまった。