1 荒野の危機
新たな一日が幕を開けようとした。
山々から顔を出したばかりの眩しい朝日。乾いた風の吹き荒れる荒野。木々も枯れかけ、緑がほとんど荒廃しているこの土地に、三匹のポケモンがポツリと。一匹は、雲一つない青空を見上げながら佇み、二匹は会話をしながらお互い苦い表情を浮かべていた。
「――ということは、その村では何も手に入れられなかったということッスか?」
「ああ。やっぱり辺鄙な村じゃ、情報が薄い。もっと密集している地域に行かねえと」
黄色い浮き袋が特徴のオスのフローゼルと、赤いトサカが特徴のオスのムクホーク。フローゼルの目線に合わせるため、ムクホークは岩の上で足を休ませている。
互いの表情は少し硬い感じがある。特にフローゼルは元から少しつり目なのか、より強面な雰囲気を醸し出している。
「でしたら、この先の北にある町、メックファイに行ってはいかがッスか?最近は、そこそこの治安もよくなっているという噂ッスから、危険の可能性は低いと」
「メックファイか……それも一つの手か。よし、じゃあこいつを頼むレイガ。即急にな」
「了解ッス!この先も気を付けて!」
レイガと呼ばれたムクホークは、フローゼルから手紙のような紙切れを受け取る。上背からぶら下げているポーチに手紙を入れ、大きな羽を両サイドに羽ばたく。
そして北の方角に目線を向けると、フローゼルの言葉にすぐさま実行するかのように‘でんこうせっか’を使い、やがて数秒もしないうちにムクホークは山の彼方へと飛び去って行った。
「用は済んだ?」
「ああ、待たせたな」
先ほどまで空を見上げていたメスのキュウコン。フローゼルは右手を挙げ二回左右に振った。すぐに出発しようという合図に、キュウコンは腰を上げ九本の尻尾を靡かせた。
「それで、次の目的地はどうするの?」
「ここから少し北にある町、メックファイだ。あいつの情報から吸い出したら、この辺りに来ていることは間違いないからな。今一つしっかりとした情報が掴めないのは否めねえ
が」
落書きが目立つ、古くなったメモ帳を手にフローゼルはうなだれる。いくつかの暗号のような、自分でも読めない箇所が多々ある汚れた紙。ここまでの旅を支えてくれた大切な相棒だ。なにより自分に馴染んだ証拠。
その用紙を、キュウコンは隣から覗き込むようにして見る。フローゼルは無理やり覗き込まれ、多少眉をピクリとさせたが、すぐにキュウコンの見やすいように手を動かした。
「ほーほー。相変わらず汚い字が無造作に並べてあるようなお子ちゃまの落書きだけど、最近アタシにも何となーく読めて気がする。何だか複雑な気分ね」
「いちいち一言多いおめーには言われたくない。これはオレだけ読めれば役目を果たしているんだよ。それに、字が汚い奴は心が綺麗だというだろ」
「そういうことを自分で言っちゃうの?手遅れの証じゃん」
「勝手に言ってろ。文句言うならおめーは見なくていいんだよ」
そう言ってフローゼルはメモ帳を取り上げる。あら、とキュウコンは目を細めた。
「ま、レイガの情報はそれなりに頼りになるんだし、最近行き当たりばったりの情報しか手に入れてなかったから、今回は期待できるんじゃない?アル」
「ああ、こちとら何回も尻尾すら掴めない状況に陥っていたんだ。今回こそは絶対に見つけだしてやる。……ってかクゥ!いつの間にオレの朝飯食ってやがんだこいつ!」
妙におとなしいと思いきや、フローゼルのアルアはその訳に激怒した。キュウコン――もといクゥヤは、旅をする上での貴重な朝ごはんの木の実を頬張り漁っていた。貴重な食料を無断で、しかも他者のものを食べているのはさすがに我慢できずにはいられない。
アルアは怒りながら逃げるクゥヤを追いかける。そして一発怒りの鉄拳をかました。メスを相手にも容赦のない拳に、クゥヤはバランスを崩し横に倒れる。
「いったいなぁ……相変わらずあなたは強く殴りすぎなのよ!」
冗談にしては強すぎると感じ、クゥヤはアルアに後ろ蹴りをかます。胸部にクリーンヒットしたアルアは足がもつれるも、胸を押さえながらクゥヤを睨む。
「いってえ……おいおい、今のは冗談キツイんじゃねえか?」
「お・あ・い・こ・よ!見てよ、このたんこぶ。いつも思うけど殴るとき同じ個所狙ってない?」
「あぁ、そこは食い意地働く馬鹿に効くいいツボだってどっかの誰かさんが。だからオレが押してあげてんだよ、有り難く思え」
「ムッカーッ!馬鹿とはなによ馬鹿とは!あなたにだけは絶対に言われたくない言葉よ!」
再びアルアの胸部めがけて後ろ蹴り。目にも止まらぬ速さに油断していたアルアは避けるなど無理だった。
「ぐっ!てめえ、やる気か?」
「いいじゃない。積年の恨み晴らしてやるわよ!」
くだらないことで喧嘩をするのは日常茶飯事であるがこの日はお互いに少しやりすぎたな、と認めたくないが思った。
喧嘩の途中でアルアの落としたメモ帳。風でパタパタと紙がめくれる。ほとんどのページが黒いインクで書かれ、よく使い使い回されているのが一目で分かるくらいに。
そして最新のページに大きく記載されていた、これからの目的と向かう場所、過去の様々な出来事を簡潔にまとめた内容がびっしりと書かれていた。
その中でも一際大きく書かれた字。これからの目的。
『ファントムと名乗るゾロアークの情報屋に会う』と。
***
多少の諍いはあったものの、予定通りに次の目的地メックファイに向かうアルアとクゥヤ。お互いつまらないことで喧嘩は日常茶飯事。この程度のことで気に病んだり反省したりはしない。
今アルアたちが足を踏んでいる地方、現在地の南から北へ縦断している二匹はすでに、大陸の北端へ向かおうとしている所だ。徐々に北風が冷たくなり環境的にも厳しい領域に入るのだが、長い期間を旅しているアルアたちにとっては、その程度のことなど気にはならない。アルアはすでに各地を周る旅を初めて三年の月日が経とうとしているのだが、未だ旅の目的を果たしていないという危機感に追い込まれていた。
見渡す限りの荒野に、全く景色の変わらない景色。枯れた木々と乾いた風、乾燥した崩れ落ちそうな岩がゴロゴロと。
旅をするうえで、これほど殺風景な景色を歩くほど退屈なものはない。だがここを歩かなければ、次の目的地には辿り着けない。
あのムクホーク、レイガの情報には毎度助けになったり、ならなかったりとリスキーな面もある。
アルアが旅の最中に出会ったレイガ。彼はまだまだ若手のジャーナリストのため、失敗や効率の悪さというのがよく目立つ。だが何事も誰かのために力を尽くす様を見ていると、こちらも支援したくなる気持ちが湧いてくる。良くも悪くも、アルアは密かに頑張るレイガのことを頼りにしていた。
二匹はただ太陽の方角を頼りにしながら歩いていた。すでに朝は過ぎ、昼の高さへと移り変わろうとしている。北へ向かうからには、太陽に背を向けて歩かなければならない。とくにめぼしい会話をすることもなく、途中でたまたま出会ったポケモンたちに話を聞いたりしながら。
「本当にこっちで間違いなかったんだよな?」
「そのはずなのだけどなぁ。さっき聞いたうさんくさいアーボックの話によりゃ」
何やら耳を煩わせる言葉をごく自然に言ったような気がした。クゥヤの緊張感のない口調がよりアルアの不安を加速させる。
「……そのアーボックは何て言った」
「あー、なんか変な笑みを浮かべながらそこに書いてあることを、言われたような言われなかったような」
曖昧な言葉に、アルアの表情が歪む。嫌な予感がしてならない。
「なるほど、そう推察するなら考えは二つだ。オレたちの勘違いで道を間違えたか……」
キッと目を細める。
「そいつに騙されたかだ」
互いに顔を合わせた。すると不可思議に笑いがこぼれた。失笑とも言うべき不快な笑いが。
「間違えちゃったね」
「絶対後者だろうが!なに冷静になってんだ、おめーはよ!」
「いやー、アタシも怪しいと思ったんだけどね。お菓子くれたんだから疑うのはよそうかなと」
「物に釣られて何おめーは自信満々に語ってんだ!ったくよ……」
クゥヤのいい加減な行動は、もはやお馴染みといったところだ。気紛れでマイペースなだけに、悪意が無いのが余計に憎い。自由奔放に生きるのが信条らしいと、自信満々の顔で言っていただけにその言葉は本物だ。
それなのに、アルアの旅に同行するのは、ただ純粋に一緒にいるのが心地良いから。何でもない一日でも、隣に誰かいるだけで随分と優越感が違う。それが癖になったのか。
だがアルアは気にする余地はみせない。クゥヤが付いて来たければそれでよし、付いて来たくなければそれでよしと、アルアも気ままな関係でクゥヤと旅をしている。お粗末でガサツだがそれが二匹の関係だからだ。
「ま、騙されていてはそりゃムカつくしね。むむー、今度会ったらとっちめてやらなきゃ」
「それはおめーひとりでやれ……。今はこの状況を打破するのが先だ」
すでに二匹はピンチを迎えていた。身を構え、何かこちらに敵意を向ける視線がそれを知らせる。この荒れた大地、岩の陰から自分たちの出かたを伺う何かが。
右腕に、銀色に輝く根毛で作られたブレスレットをはめたアルアは、この金色に輝くロケットを身に着けたクゥヤに寄り添い、相手の位置を確認する。
常に暇あれば、トラブルの種を拾ってくるはた迷惑なものひろいの持ち主だ。そう心に不満が表れるも、今この狙われている刺客に隙を見せることはできない。
「おい、クゥ。何もせずに突破できるようなら先に言っておけよ?」
場の気配からだいたいの数は把握できる。となれば、あとはそれが自分たちで対処できる存在か。クゥヤは九つの尻尾をゆらゆらと揺らし、できる範囲の情報を感知する。
「それはどうかしらね。数は多くはないけど、まるで気配がつかめない。うーん、相当ヤバい相手に目を付けられたわね。無傷で突破するのは無理ー、とでも言っておこうかな」
「の割には、良い笑みを浮かべているじゃないか」
「武者笑いと言ってよ」
「聞いたことないわ、そんな言葉」
風は吹いていない。太陽の光は分厚い雲に阻まれていて、僅かに空気が冷たく感じる。土も乾燥していて自然の力を利用できない以上、ここは自分たちの力で何とかするしかない。
そして微かだが聞こえた。空気を切る音が。刺客が動き始めたらしい。クゥヤはいち早く相手の動きに反応する。
「あっちこっちにある岩影を利用して攪乱ってわけかな?なら……」
クゥヤはアーボックから頂いた菓子の袋を開ける。中には少量をポフィンと木の実がひとり分ある程度だが、中身を確認したクゥヤはニヤリと笑みを浮かべた。
「おいおい、菓子なんて開けてどうすんだよ」
「んにゃ、ちょっとばかしやってみたかったことがあるのよ。ほら、アタシの近くに寄った寄った」
ゆらりと揺れる九本の尻尾と表情によほど自信があるのだろうか。いったい何をするのか見当もつかないが、アルアはクゥヤに寄り添う。そしてクゥヤは袋の中にある一つの木の実を上空に高々と放り投げた。黄色い木の実、シュカのみだ。
「この地形なら効果はバツグン!‘しぜんのめぐみ’!」
技を発動し、するとシュカのみは光り輝きはじけ飛ぶ。その直後に、大きな地鳴りの振動により、辺りの岩は大きく崩れる。一定範囲だが、あの固そうな岩がまるで砂の山のように崩れ去る光景は目を疑う。瞬く間に辺り一帯は瓦礫の転がる平地へと変貌した。
「どう?これが自然の力を利用した技。すごいものでしょ」
「そ、そうだな……」
木の実を使いこのような大技をやらかすとは、アルアも想像できなかった。知らず知らずのうちにクゥヤはかなりの実力をつけている。何だか分からないが無性に腹が立ってくる。つまらないしたり顔を見せられ、頭に来たのか純粋に負けられないと悔しがったのか。
「けどそれでも姿は見えな――そこか!」
一瞬の気配をアルアは逃さなかった。‘ソニックブーム’が残りの岩陰の中へと消え、目標物に当たる重音が聞こえた。これは当たった、とアルアは確信を得るも、それはほんの一時に過ぎなかった。
確かに当たったはず。だが間を置かずに、相手の攻撃が迫ってきた。
「ぐっ――!」
体を大きく捻り、避けるのが精一杯だ。空を切断するかの如く、キレの良い‘かまいたち’をまともに受けていたら危なかった。
「一筋縄ではいきそうにもないな」
「んー、どうやらそのようね」
これでは、先ほどクゥヤが放った技も無駄打ちに終わってしまう。どうにかして‘しぜんのめぐみ’で作りだしたこの地形を利用してやりたいが、敵の正体も分からない以上、闇雲に攻撃を行うのは得策ではない。ここは相手の位置と出方を把握したいところだが、相手のヒントが殆どない状況では掴むどころか相手の思うツボになってしまう。
だがもたもたしている暇はない。ここで油を売っている場合ではないのだ。
「……畳み掛けるか?」
「あらら。らしくない戦法ね。いつもなら最小限の行動をとって逃げるのに」
「こういう劇的不利な状況ってのは、好きじゃないんだよ」
「そ。ならあなたに任せるわ」
こくりとクゥヤは頷いた。自分の申し出を受け入れてくれた次に、即行動を起こす。
得意の‘アクアジェット’で、アルアは気配のする方向に真正面から突っ込む。岩陰に隠れているのはお見通しだった。この奇襲は正体を確かめるために過ぎない、深追いせず、アルアは影の主の直前で技をコントロールして、次の行動へと移す。そのままアルアは右腕を構え、力を拳に込める。そして岩に向かい、‘いわくだき’を全力で撃つ。攻撃した部分から、力は岩全体へと伝わり、そして粉々に砕ける。
「ひゅー、今日も技の破壊力はピカイチじゃない?」
「冷やかしはいいから、おめーはあっちを頼む!」
土煙から、敵の正体がはっきりとしてくる。
黒いジャケットをしたバクフーンだ。冷たい表情にブレのない目つきをした、いかにもこちらに敵意をむけるバクフーン。より身が引き締まる感触をものにする。
「うわっと……こっちもご登場だよ」
そしてもう一方のクゥヤが相手している、鋭い鎌を構えたストライク。共に執事のような、使いの恰好をしていた。
「くっ……いったい何なんだよ……」
冷酷な表情が逆に苛立ちを沸かせる。
このただ相手を倒す、という何の感情もないのが、気味が悪い。何故だか、こちらのモチベーションが下がってしょうがなかった。
アルアは苛立つ気を込め、バクフーンに‘アクアテール’を仕掛ける。
素早い身のこなしから繰り出される技は、アルアの得意分野。隙のない、華麗な動きは、バクフーンのふところに瞬時に潜りこみ、‘アクアテール’をヒットさせる。
相性は間違いなくものにした。威力に押され、バクフーンは後退する。すると眉間がキュッと引き締まるのが確認した。
クリーンヒットしたアルアの技を受け、本気になったのだろうか。先ほどとは違う、重い空気が流れる。
バクフーンは背の炎を急激に燃やし、辺りは異常な温度に包まれる。
「ぐっ……なんだこりゃ……」
刹那に‘かえんほうしゃ’が襲う。熱気に意識を奪われかけていたこのときは反応も鈍くなっていた。直撃はしなかったものの、多少のダメージが体に受ける。
「チッ、油断も隙もない……。しかし何なんだこの熱気……」
バクフーンの姿は視界から消えていた。先ほどまでそばにいたバクフーンが、煙のように姿を隠した。自分の目がおかしくなったのではないかと思うが、
「アル!ボーっとしてないで後ろ!」
クゥヤの声が脳内に轟く。だが時すでに遅し。
振り返る隙も与えられず、体に強い痺れが走る。頭の中が一瞬でフラッシュバックして、何が起こったのかすら把握できなかった。
まさかバクフーンがこんな技を使うとは予想もしなかった。苦手なタイプの対策を怠っていない。まさに不意を突かれた一撃。
クリーンヒットしたバクフーンの‘ワイルドボルト’は、打たれ弱い種族のフローゼルではとても耐えられない衝撃が襲う。
「アル……っ!?」
がら空きの背を狙ったでんきタイプの技の威力は相当なものだ。会心の一撃を突かれ、力を失ったアルアは気絶した。
その光景に、一時は動揺した仕草を見せるも、クゥヤはすぐに冷静さを取り戻し、バクフーンを睨む。
「なるほど。陽炎を使ったいい作戦じゃない」
バクフーンは灼熱の陽炎を作り出し、姿を消す。その隙に相手のふところに潜り込み、反撃を与える。非常に高度な技だ。こうも気配を一切察知させず、必殺の一撃を与える辺り、相当の手練れらしい。
「これは……かなーりピンチかな?」
アルアが戦闘不能になり余裕の表情も流石に消えたクゥヤ。奇襲に失敗し、一対二となったこの場では勝ち目はかなり薄い。だが抵抗しなければ相手の想うツボだ。
もう容赦などいらない。相方が倒された今、この二匹を止めるのは自分しかいない。 灼眼の瞳をキッと細くさせ、クゥヤは揺らめく九本に尻尾に炎をまとう。
ほのおタイプらしく、一度心に火が付くと簡単には鎮火させない。燃え上がる炎に半端な水をかけるようなものは、油を注ぐものだ。
「もうその辺にしてください」
だが、バクフーンの声にクゥヤは立ち止まる。
そこへ陽炎から姿を現したストライクは、アルアの首筋に鎌を当て、クゥヤを見る。
「ちょっと、それはどういうつもりなのかな?」
「この方に被害を与えたくなければ、その炎を収めてください。私たちはこれ以上争うことなく事態を収拾したいですから」
バクフーンとストライクの冷ややかな目がクゥヤの瞳の奥に映る。
「ふーん……卑怯なのね」
「そうかもしれません。ですが、今あなたは私たちに口答えする権利はありませんよ」
これ以上申せば、本当にとどめを刺す、と最終警告にも聞こえる。
そこまでしてこの戦いを終わらせたいのか。無理やりにこちらに白旗を上げさせるために、アルアを利用してクゥヤに降参の言葉を口から言わせようとする。
いったい何なのだろう。湧き上がる不信感と不完全燃焼の闘志に水をかけられ、クゥヤは自らの炎を鎮火させた。
「ま、確かにその通りかもしれないわね。何で戦いになったのか、よく分からないのがもどかしいけど、ここはあなたたちの言うことに従うよ」
腑に落ちない思いが入れ混ざる中、クゥヤは構えを解き、ふぅ、と深い溜め息を吐く。これ以上被害が出ないようになのか。納得はいかないし、何か相手の思うつぼに陥ったことに面白みを抱けなかった。
「よろしい、では私たちに付いてきてください。くれぐれも無駄な抵抗は慎むように」
はいはい、と適当な相槌を打つ。ストライクはアルアを解放し、復活草を手渡す。どうやら心底の外道ではないようだが、クゥヤはどんな些細な慈悲をくれようが、ずっと不満な表情を浮かべていた。手渡された復活草はすぐにアルアに食べさせ、体力を回復させる。
「アル、大丈夫?」
「あぁ……わりぃ、オレが油断したせいで」
「いや、これは相手が一枚上手だったわよ。アタシもそれに気付けなかったから、あなたが責める必要はないよ」
復活草で体力を取り戻したアルアだが、これは自由にさせるためではない。
逃げられないよう、ストライクは二匹の真後ろで目を向ける。鋭い鎌をワザと威嚇させながら、無言の圧力で二匹を確保する。
「はは、こりゃしてやられたな……」
こうして無様に戦いに敗れたのはいつ以来だろうか。最近このような激しい戦いすら経験していなかったためか、感覚がなまっていたか。何を言おうも、それは言い訳にしかならない。やりきれない思いがぶつかりあい、己の未熟さが恨めしい。
乾いた風向きが変わり始め、荒野は静けさを取り戻した。