第二話
「ええと、グラン、さん?」
そうっと呼びかけるとこちらを振り返る。よかった、あってた。ほぅ、と胸をなでおろした。
「どうかいたしましたか?」
「あの……話しやすいように喋っていただいて大丈夫です」
「……ディアさんさえよろしければ。」
僕は大丈夫です!と大げさなくらいに了承の意を伝えれば動きが止まった。どうしたんだろう・・・・・・
「はー!つっかれたぁ!やっぱ敬語って苦手なんだよなあ……なぁ、ディアさん?も敬語苦手なら話しやすいようにしていいぜ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。さん付けもなくていいよ。たぶん同い年ぐらいだろうし。」
だよな!と笑って手を差し出された。
「握手しようぜ?俺はグラン。グラン・フォルトゥナ。万事請負い処、蒼空の若きエースさ!」
「自分で言っちゃうんだね・・・・・・。僕はディア・マティリス。よろしく頼むね、エースさん?」
おう!任せとけ!と握手しながら笑う姿はほれぼれとするくらいにかっこいい。こういう性格がモテるんだろうか……なんて詮無いことを考える。
「ディアは、どこから来たんだ?」
「えーと『果ての湖』の浅いところ。まだ深いところは不思議のダンジョンなんだけ
ど。」
「ああ、不思議のダンジョンがなくなってきてるんだっけ。」
おそらくはちょっと昔の大事件が終わった影響なんだろうなあ。なんて呟いているグランを見やる。
ちょっと昔の大事件とは、いわゆる『ダークライ事件』だ。ダークライが時空をゆがめてあちこちに悪さをしていたっていうあれ。結局はとある探検隊がそのたくらみを阻止してダークライは償いの旅に出ている――らしい。よく知らないけど。
そもそも、『不思議のダンジョン』は時空のゆがみでできたものであり、時空のゆがみを引き起こす原因がなくなったのだから沈静化するのは当然だった。ただ、それはそんないいことでもなかった。……まぁ、その話は長くなるからあとにしよう。
「まぁ、新しく増えてもいるんだけどね。」
「そっちは原因不明なんだよな。」
そうそう、とうなずく。会話をしながら歩いていたら、時が過ぎるのはひどく速い。すぐに交差点についていた。
「じゃあ、また。」
「ああ!楽しみに待っててくれよ!」
ぶんぶんと手を振っているグランに手を振り返して帰路を急ぐきっとすぐに奥の宝物は帰ってくるだろう。確証なんてどこにもないけど、そんな予感がしていた。