第二話 心の強さ
「まさか同じようなことを考えていた人がいるとは...」
ジョウトが誇るコガネシティ・コガネ百貨店。
一流デパートに集まる商品は生活必需品から高級品まで、ありとあらゆる物が揃っている。
もちろんポケモンの特性を生かした商品がない訳がなく、ユキオの考えるツボツボジュースは大手メーカーの参入によりとっくに昔に売り出していると断られてしまった。
しかし、子供相手にちゃんと話を聞いて丁寧に説明したあたり、さすが一流デパートの対応だったと言える。
「ツボ...」
自分が力になれなかったことに落ち込み、甲羅の中に顔を隠すツボツボ。
「気にするなツッツン。お前のジュースの美味しさは誰よりも私が知っている」
そう言ってパートナーを慰めるユキオは、結局この日も公園のベンチで依頼人が現れるのを待つことにした。
日が傾き始めたので夕食の木の実を集め、街灯に明かりが灯り始める頃いつものベンチに戻ってみると、そこにはいつもはいない見知らぬ女性が座り込んでいる。
夜になると自分以外に座ったことのない場所に人がいること自体不思議なのだが、すぐに考えを改め早足で女性に駆け寄る。
初めての依頼人だ!
昼間の看板を見てきっと訪ねてきたのだろう。自分が待ち望んだ夢への第一歩が目の前にある。
「ようこそ、招き猫探偵事務所へ!」
押さえきれない感情が声に表れてしまう。
すると、女性はポカンとした表情でこちらを見つめ返す。
しまった、と思いすぐに取り繕う。
「初めまして、私はユキオ。この探偵事務所の所長で未来の名探偵だ!」
決まった、とばかりに握手を求めるべく手を差し出すが、依然として彼女の表情は固まったままだった。
ーーー
どうやら目の前の少年は何か勘違いをしているようだった。
私がたまたまここに座っていたことを教えると、なんだかがっくりした様子でうなだれていた。
「ユキオ君だっけ?事務所って言っても、ただのベンチにしか見えないけど」
「私に部屋を貸してくれる不動産も金を融通する銀行もなくてな、しばらくはこのベンチが事務所代わりだ」
子供にしては随分大人びた話し方をする少年だ。
「あなたどこから来たの?親御さんは?」
「生まれはタンバだ。父は小さいときに海難事故で死んだらしい。母とおばあちゃんと三人で暮らしていた」
「あっ...ごめんなさい」
まずいことを聞いてしまったと慌てて謝ったが、少年は気にしていないようだった。
「私が物心つく前だからな、もう慣れた。」
小さいようで中々しっかりとしている。
ポケモンが一緒とはいえ二週間も公園で暮らしているあたり、肝も座っている。
「どうしてポケモンセンターで寝泊まりしないの?この子たちを連れてるってことはトレーナーでしょ?」
「ジム巡りもしていないし、ポケモンリーグを目指すトレーナーじゃないからな。私がそんなことをしていたら本気で目指している友達に迷惑がかかる」
だからといってこんな所で寝泊まりしていいことにはならないが、少年の中では筋が通っているらしい。
「お姉さんはなんでこんなところにいるんだ?こんな時間に女性が一人で出歩くのは感心しないぞ」
あなたにだけは言われたくないと思いながらも、本当のことを話す訳にもいかない。
仕事終わりで休んでいただけだと適当に理由をつけてこの場を去ろう。
「あなたもこんな時間に公園にいるとお巡りさんに捕まるわよ?今からでも遅くないからポケモンセンターに泊まりなさい。それじゃあね」
そう言って立ち上がり歩き出す。
「待て!」
出会った時とは違う声色に思わず立ち止まってしまった。
「この箱のモンスターボールはなんだ?おねえさんのか?」
振り返ると彼が膝に乗せていたニャースがベンチの下から自分のモンスターボールを入れた箱を引きずり出していた。
「い、いいえ。落とし物じゃないかしら?お姉さんは忙しいから、私の代わりに警察に届けてくださる?」
できるだけ素っ気なく感情を出さずにそう告げると、こちらから目をそらさずにボールを一つ手に取る。
「...そうか、落とし物か。じゃあ、中に何が入っているか確かめるとしよう。ニャーコ、もしかしたらすごいポケモンが入っているかもしれないぞ?売れば高く買い取ってくれるだろう」
そこまで聞いて、思わず声を荒げてしまった。
「やめなさい!」
「どうしてだ?」
少年はどこがおかしいとでも言いたげに聞き返してくる。
「だれがどう見たって犯罪よ?ここでそんなこと見逃す訳にはいかないでしょ!」
そうだ、犯罪だ。こんな年端もいかない子供を犯罪者にしてしまうわけにはいかない。ここでさっさと追い返してボールはまた別のところにおこう。
そう自分に言い聞かせ少年に歩み寄ろうとするが、彼は距離を取る。
「これはわたしが見つけた物だ、どうしようとわたしの勝手だ。返してほしければポケモンバトルで奪ってみるというのはどうだ?」
「っ!」
できる訳がない、バトルするにもそのポケモンは今彼が所持している。
「さあ、私の一体目はこいつだ!」
そう言うと彼は自分が連れているニャースではなく、手にしたモンスターボールを高々と投げ、ポケモンが飛び出してくる。
もちろん彼のポケモンではない、見間違えるはずがない。初めて貰った大切な相棒、楽しい時も辛い時も苦楽を共にしてきたパーティのエース。
「バシャーモ...」
ーーー
見慣れぬ風景に困惑した。
ボールから呼び出されれば目の前にいるのは対戦相手、そして背中から主人の指示が飛んでくるはずが、自分と相対する主。振り向くとちんちくりんな少年とニャースが一匹。
「おお、バシャーモか。こいつは強そうだな、さあいくぞバシャーモ!」
しかし動かない。動く必要はない。
少なくとも後ろにいるのは主人じゃないことは理解し、ゆっくりと主のもとへ向かって歩き出す。
「こ、来ないで!」
自分を拒む理由など1つしかない。たしかにさっきは無様な負け方をしたが、次は必ず勝ってみせる。もう一度勝利であなたを笑顔にしてみせる。
そう伝えようとさらに近づくと、頭に軽い衝撃が走った。
ただの小石。丈夫な体には毛ほどもダメージを感じない。
「来ないでって、言ってるでしょ・・・」
震える声で絞り出すように言う彼女を見て、体が動かなくなった。
そして理解する。
彼女は高みを目指す者。弱い自分はもう側にはいられない、このちんちくりんに自分を譲ったのだろう。
立ち尽くす自分たちに向かって、ちんちくりんが話し始める。
「なぜ、ポケモンを出さない。石を投げるなんてルール違反だぞ?」
「・・・」
リンコは何も言い返さない。
「もしかして、このポケモンはお姉さんのじゃないのか?」
「違うわ、ポケモン持ってないの私。トレーナーじゃないから」
耳を疑った。
自分だけではなく、他の者たちまで手放すと言っている。
いよいよただ事ではない。
「そうか、じゃあ仕方がない。まずいところを見られてしまったからな。お姉さんの口は封じないといけないな」
後ろでぶつぶつ言っていたちんちくりんのそばには、いつの間にかツボツボがいた。
「いけツッツン!お姉さんにまきつく攻撃だ!」
それを聞いた瞬間、考えるより先に体が動いた。
今の指示は分かる。自分たちに人間がする攻撃命令。
普段はポケモン相手にするそれをこのちんちくりんは人間に、それも自分の主人に照準を合わせた。
どうやら勘違いをしていたようだ。
彼女は自分たちを手放したのではない。
このちんちくりんが彼女を苦しめているのだ。
頭に血が上るのが分かる。主を...リンコを守らなければ!
ーーー
「グルルアアアァッ!」
大きな雄叫びを残しバシャーモの姿は消え、リンコに向かってニョロニョロ這いずっていたツボツボの前で、腕と足に炎を纏い仁王立ちする。
今まで10メートル以上はなれた場所にいた相手が、自分の目の前に突然現れる。それだけでもツボツボにしてみれば恐怖だったが、彼はその恐怖を感じることはなかった。
一瞬の出来事に誰も理解が追いついていなかった。
ユキオは自分の顔のすぐ横で風が吹いたのを感じ、それから遅れて風切り音と破壊音が同時にや耳に届く。
音のした方へゆっくり振り返ると、遥か後方で木が何本もなぎ倒されその先の砂場に見慣れた青い甲羅が転がっている。
フラフラとしてはいるがツボツボは無事のようだ。
ホッとしたのもつかの間、突然背後に気配を感じて向き直ると先ほどのバシャーモが次の攻撃の態勢に入っている。
手足には先ほどの炎がなく、代わりに口元が見たこともない光を放っている。心なしか周り気温も上昇している気がする。
「あれは...っ!何をしているの!早く逃げなさい!」
自分が育ててきたポケモンだ。リンコにはバシャーモが何をしようとしているか分かる。丈夫な体を持つポケモンならいざ知らず、あんな子供が全力のオーバーヒートなど受けようものなら骨も残らない。
この少年を殺すつもりだ、自分に危害を加えようとした眼前の敵を抹殺しようとしている。
リンコは何度も叫ぶが、少年は動こうとしない。それどころか目の前のバシャーモには目もくれず、じっとこちらを見つめている。
「あなた、本当に死ぬわよ!」
「お姉さんから見れば今のわたしは犯罪者だ。これも自業自得というやつなのだろう、悪いことをしたんだから当然の報いだ」
「馬鹿なこと言ってないで早く逃げて!この子は本気よ!」
「私も本当は死にたくないがな、バシャーモは私の言うことを聞きそうにない。バッジを持たない私では、人のポケモンは無理だったな。お姉さんがなんとかしてくれ」
「ど、どうして私が...」
リンコは全てを見透かされているような気がした。
何故かは分からないが、少年にはバシャーモのトレーナーが彼女だという確証があるらしい。
リンコはそれでも躊躇する。今ここで命令してしまえば、この少年の前でそれを認めてしまう。
人は罪の大きさに気づいた時、それが大きければ大きいほど恐怖を感じ、何とか理由を付け誤摩化し、自分の心に逃げ道を造ろうとする。そしてリンコはまさに今、自分の罪の大きさを認めることに躊躇していた。
しかし、もう逃げ道や理由を考える時間なんてない。認めるか認めないか、生きるか死ぬかの瀬戸際まできている。
バシャーモは確実にエネルギーを蓄積させていく。
足下のニャースも彼のズボンを引っ張り何とか逃げようとする。普段は野生のポケモンやその辺のトレーナーのポケモン相手なら果敢に挑む彼女も、バシャーモと自分との圧倒的な実力差は本能で理解していた。
しかし、それでも彼は動こうとしない。それどころかのんきな声でリンコに話し始める。
「そういえばおねえさん、バシャーモはどうしてこんなに怒っているんだろうな。」
少年の言葉にハッと顔を上げるリンコ。
「私が死んだら代わりに聞いてみてくれ」
寂しそうに笑う少年。
そして今まさにその攻撃が発射されようとする、次の瞬間。
「やめなさいバシャーモ!私の命令よ!!」
バシャーモは反射的に上を向いて口に蓄えていたエネルギーを放出する。
凛とした声、一分の隙もないまっすぐな瞳。それはまさしく百戦錬磨のトレーナー、リンコの姿だった。
「おぉ、まだ生きているようだな。ニャーコ、取り敢えず助かったみたいだぞ?」
「ふにゃ...」
のんきに話す彼にさすがの彼女も足を強めに噛む。
リンコは最悪の事態だけは避けられた安堵感から腰を抜かし、その場にへたり込む。
そして先ほどまでの凛々しい表情とは打って変わり、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
自らの過ちの大きさに気づいた彼女の目からは止めどなく涙が溢れ出す。
主のただならぬ状態に心配して駆け寄るバシャーモだが、リンコは泣くのをやめない。
「ごめんね...ごめんねバシャーモ、ごめんね皆。こんなに弱い私でごめんね」
すると、残りのボールから一斉にポケモンが飛び出してくる。まるで主の声に応えるように、勝手にボールから出てきてリンコに寄り添う。
ポケモンの力は時に人間の人智も科学力も飛び越える。
「バシャーモ・ペリッパー・メタグロス・ムウマ・キリンリキ・ハピナス。やっぱりみんなお姉さんのポケモンだったのか」
弱ったツボツボを抱えながらリンコに近づくと、彼女のポケモンたちに取り囲まれる。どうやらかなり嫌われてしまったらしい。
するとあわててリンコが誤解を解く。
「違うの皆!この子は何も悪くない、あなたたちに酷いことをした私をこの子が助けてくれたの。悪いのは私...。だって私は、皆を...ヒッグ...びンダぼぉ...」
もはや言葉にならず、子供のように泣きじゃくる彼女を見てポケモンたちもオロオロしだす。
「ふむ、取り敢えず移動しよう。さっきの炎で誰かが通報したらしい、こっちだ」
そう言いながら、何とか大所帯を公園の奥へと連れて行く。
ーーー
「まさか、お姉さんがプロのトレーナーだったとはな。さっきのバシャーモの強さも納得だ」
「リンコでいいわ。本当にごめんなさい、私のことになるとこの子加減を知らなくて...。あなたのツボツボ大丈夫?」
そうリンコが謝ると、傍らのバシャーモも申し訳なさそうに頭を下げる。
「ツッツンなら大丈夫だ。妙に固いし、木の実を食べて眠っているからな。起きたらポケモンセンターに連れて行く」
どうやらツボツボの特性『がんじょう』が発動し、今は技の寝むるを使っているらしい。
先ほどあれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、本人はニャースと一緒に少年の胡座の中でスヤスヤと寝息をたてている。
「元プロっていうのが正解よ。私、勝てなくなったからプロでいられなくなったの」
「なんと!あれだけ強そうなバシャーモでも勝てない奴がいるのか!」
少年の純粋な反応に自然と顔が綻ぶ。
「ウフフ...。プロってね、とっても大変なのよ?」
場が少し和んだ所でユキオは切り出す。
「それで、リンコさんはどうしてバシャーモたちを置き去りにしようとしたんだ?」
その言葉にバシャーモは動揺を隠せない。
「シャー!!」
主がそんなことをするはずがない。自分たちを見捨てるはずがない!
そう言いたげだ。
「いいのよバシャーモ。確かにあのとき私はあなたたちとあそこで別れようとしていた・・・それも一方的にね」
そんな彼女の言葉に落胆の色を隠せないバシャーモ。
そこから彼女は少しずつ、ポツリポツリと話し始めた。
ポケモントレーナーになるまで、大切な仲間たちとの出会い。
プロのトレーナーとしての苦悩や挫折。
「戦いの中で生きていた私は、バトルだけに自分の価値を見出せないと思っていた。でも違った...この子たちといたから、この子たちが好きだから今まで頑張ることができたのに...私は...」
また涙が溢れてくる。
するとリンコの背中に温かい感触が伝わる。振り向くとバシャーモが彼女を抱きしめていた。
そこでリンコはやっと気がついた。どんなに当たり散らしても、辛いことばかりで落ち込んで心が荒んでいても、どんな時もこうしてポケモンたちは自分に寄り添ってくれた。
大丈夫ちゃんと分かっている、また一緒に頑張ろう。穏やかなバシャーモの目は、リンコにそう語りかけているようだった。
「ありがとうバシャーモ。ごめんね...もうあなたたちを離したりしないから。...大好きよ」
そんなトレーナーとポケモンの姿を見てユキオも満足そうに頷く。
「これで一件落着だな。今日も色々なことがあって中々充実した日だった。さて、今夜の公園は警察も五月蝿そうだしポケモンセンターで寝るとしよう、2週間ぶりにちゃんとした風呂にも入れる。リンコさんはこれからどうするんだ?」
「そうね、私も今夜はポケモンセンターかしら」
「そうじゃない、この先またプロを目指すのか?」
その言葉にバシャーモも握りこぶしを作り、やる気をアピールする。
「いいえ、しばらくバトルは休業ね。今のままではきっと同じ結果にしかならないもの。私には足りない物がある。トレーナーとしての腕じゃなくて、心の強さがね」
そう言いながら目を瞑り、一般女性より少し自己主張の強い胸に手を当てる。
「そうか、それじゃあ今夜は英気を養わないとな」
そう言いながらコガネシティへ歩き出す少年を今一度引き止めるリンコ。
「教えてくれない?あのとき見つけたモンスターボール、どうして私の物だと気づいたの?」
すると彼は振り返り、バシャーモも真っ青な早さでリンコのもとへ駆け寄って嬉しそうに話し始める。
「そうかそうか!そんなに私の推理が聞きたいのか!仕方ないな、少しだけだぞ?」
足下でニャースがため息をつく。
「オッホン!ではまず、初めてリンコさんに会った時、首から下げている石に見覚えがあってだな、ポケモンの進化がどうとかテレビでやってたのを思い出したわけだ。」
胸元のキーストーンに手をやるリンコ。
「そしてあなたが腰に巻いたベルトはトレーナーが使うボールがセットできる専用のもの。そこに1つもモンスターボールがセットされていないのに道具だけは持っている。不思議に思っていたら都合良く6つのボールがベンチの下から出てきた!」
「驚いた、案外鋭いのね。」
そこでさらに自慢げになるユキオ。
「言ったはずだぞ、私は未来の名探偵だ。1つ目のボールから出てきたバシャーモが同じような石を持っていたのは運が良かったが、それを見て確信した・・・そう、あなたが犯人だ!!」
そう言ってビシッと指を指すユキオ。本人は決まったと思っているが、公園には微妙な空気が流れる。
「え、ええ。その通りよ」
取り繕うリンコだったが、傷口を広げられたような気分になる。
「さあ、用が済んだらさっさと行くぞリンコ君!しかし、私の推理を聞きたがるとは勉強熱心で関心関心。これからも分からないことはドンドンわたしに聞くといい!」
そう言いながら手を引っ張る少年。
「へ?どこに?っていうかリンコ君って、私あなたよりずっと年上で・・・それにこれからってどういうこと?」
「皆まで言うな、全部分かっているさ。プロを挫折した今、新しい道を模索している所にわたしが現れた!君がそこまでいうなら我が事務所の有能秘書として迎え入れようではないか!これはきっと運命だぞ!」
そう言いながら先ほどよりもグイグイと引っ張るユキオ。
「いや...そもそも私探偵になりたいなんて一言も」
「しかし、他にやること決めてないだろう?それにわたしも私のポケモンも死にかけた」
うっ、と言葉に詰まるリンコ。
「心配するな。依頼がくれば給料もちゃんと払うし、草むらの寝心地も中々捨てたもんじゃないぞ?」
「私にも浮浪者になれって言うの!?」
「浮浪者じゃない!私は探偵だ!!そして君はわたしの秘書になる」
「まだなってない!それにあなた2週間もお風呂に入ってないって、今更だけどちょっと臭いわよ?」
「大丈夫だ。君もそのうち慣れる」
「嫌よ!お風呂に入らない人間の仲間入りなんて!」
「働く前からわがままとは。ちゃんとした事務所がないから仕方ないだろうリンコ君」
「だからまだなってません!」
ガミガミと言い合いながら並んでコガネシティへ歩き出す二人。
そんな二人を見守るように、彼らのパートナーもまた歩き出す。
十代の子供相手に口喧嘩は大人気ないかもしれないが、リンコの心に暗い気持ちはもうなかった。
どうせバトルはしばらく休むのだ。その間だけでも、体を張って大切なことを教えてくれた小さな探偵に付いていくのも、いいかもしれない。
そんなことを考えていた。