第一話 悪夢のはじまり
年明けの浮かれ気分も過ぎ去り、再び「フツーの」日常に埋没する日々を送る事に嫌気がさしかけるこの時期、ヤグルマの森では、ポケモン達がとあるニュースに騒然としていた。
「そんな!ニンゲンの知能を奪って何になるっていうの?!」
切り株の上に置かれた「日刊ペリッパー新聞」1月7日号を見ながら、ドレディアが叫ぶ。
そう、今、彼らは日刊ペリッパー新聞に大々的に取り上げられた、人類知能滅亡計画についての事後報告の記事と、ミュウツーの声明を読んでいたのである。
「ポケモンとニンゲンは共生してこそお互いの真価が発揮されるというのに・・・。しかも、全ポケモンをミュウツー配下のポケモンに見張らせ、この計画に反対するポケモンは死刑って、このミュウツーって奴、この世界を壊す気か?!」と、森の中では比較的頭の良いペンドラーが唸る。
同じ頃、ヤグルマの森の奥深くで一人、切り株のそばのペンドラーと同じ事を呟いたのは、予知能力を持ち、ヨガの心得を体得しているポケモン。
そう、そのポケモンとは、チャーレムである。
ヤグルマの森の奥深くの隠れ穴に隠れて精神修行をしている彼は、元々この森のポケモンではないのだが、生まれて間もなく、マグマ団とアクア団とかいう組織の抗争に巻き込まれ、グラードンの起こした海底火山の噴火に飲み込まれてこの森へ飛ばされた。
生まれた時に困難を経験した為か、ヤグルマの森に落ちてきた時にはすでにチャーレムに進化していたのだが、飛ばされた場所がどこかも分からず、傷だらけの姿でさまよい歩いていた所をドレディアと森の仲間たち、そしてたまたま森に来ていたニンゲンに助けられ、そのままヤグルマの森に居着いている。
普段は隠れ穴で弟子のダゲキと修行しているのだが、親友のドレディア達がピンチの時には、予知能力ですぐに駆けつけ、自らが大成した「心眼星光拳」の究極奥義「八卦・北斗七星拳」で助けるという、ヤグルマの森のヒーロー的な生活をしている。
「とにかく、逆らったポケモンを粛清するなんてむちゃくちゃだよね・・・。私はこの計画、反対だな・・・。」
ドレディアがそう言い終わるか言い終わらないうちに、突然、森の東で見張りのオタマロの叫び声が聞こえる。
「みんな!ミュウツーの配下のポケモンが!ミュウツーの奴、みんなの心を透視してる・・・ぐあぁぁぁっ!!!」
「オタマロ!オタマロ!・・・あれは・・・ドンカラスの集団!!ええい!オタマロの仇!!」ドレディア達は戦闘態勢になる。だが、ほとんどみんな草・虫・格闘タイプの集団である。飛行タイプの集団に勝ち目はない。
「ふははははは!ミュウツー閣下に逆らう輩など、一匹残らず始末してくれるわぁぁぁ!」ドンカラスのボス、隻眼のドンカラス(プロローグに出てきたのとは別の個体)がシャドーボールを乱射する。
「そんな・・・勝手な思想!!・・・きゃあああ!」ドレディアはシャドーボールをくらい、ひざを突く。
「ドレディア!ぐおぉぉぉっ!」
「貴様!よくも!・・・ぎゃあぁぁ!」
「ぐにゃぁぁぁ!」
と、エルフーン、ペンドラー、チョロネコ等森のポケモン達も相次いで倒され、絶体絶命と思われたその時!
「脅迫と武力で好き勝手にやる・・・。ポケモンそれを「破壊」と呼ぶ!おとなしく立ち去れ!悪魔の手先!!」
「チャーレム!」
そう、仲間の危険を察知したチャーレムが駆けつけたのだ。
「ええい!新手か!・・・だがお前も所詮は格闘タイプのようだな!ならばくらえ!ミュウツー閣下より授かった秘技!デスウィングボール!!」
ドンカラスはそう叫び、シャドーボールの2倍はあろうかという巨大な闇エネルギーの塊を放った。
「きゃあああ!」悪意と殺意の塊がドレディアに当たりそうになるが、チャーレムが蹴り一発でデスウィングボールを消滅させる。
「許さない・・・オレの友達を傷つけるヤツを・・・オレは許さない!!くらえ!心眼星光拳奥義!星拳突き!」怒りのチャーレムの拳が、ドンカラス達にヒットする。
「ぐあぁぁぁっ!」
「ぐおぉぉぉっ!」
「ぐえぇぇぇっ!くそ・・・。ならばこれでどうだ!」
ドンカラスはそういうと、丸い球体を投げつけた。すると、中から、不気味な生物が出てきた。体はやせ細り、目は赤く、四足歩行をし、不気味な声で呻いている。
「まさか・・・これは・・・ニンゲン?!」
「その通り。これこそがニンゲンのなれの果てだぁぁ!さあ、ニンゲンよ、ゆけ!」
ニンゲン達が一気に襲いかかってくる。チャーレム達も応戦するが、ニンゲン達はパワーを強化されているらしく、次々とニンゲンに羽交い締めにされていく。そして遂にチャーレムも羽交い締めにされてしまった。
「くそっ・・・。」
「さあニンゲンどもよ!そのまま絞め殺せ!」
「みんな!うぐぐっ・・・。ニンゲンを・・・こんな風に・・・。ぐはっ!」
徐々に薄れゆく意識の中で、チャーレムは、一つの影が動いたのを感じた気がした。