第二十三話-争奪戦
「リン…」
「うん、ここだね…」
ディーザ達が強い光から解放されると、そこは[感情の地底湖]によく似た場所だった。
「アミュレットはどこかな?」
「(私が持っています)」
誰に宛てたものでもないディーザの言葉に対して、頭の中に返事が返ってくる。それは、リンにも聞こえていた。
「誰?」
「この声、聞いたことがあるような…」
すると、ディーザ達の前に光の玉が現れ、
「いちいち眩しいな〜」
そんなツッコミの中、光が収まると黄色頭のポケモンが出てきた。
「私はユクシー。この[知識の地底湖]でアミュレットを護る者」
目の前に現れたポケモンは、ユクシーと名乗った。その声を聞いたディーザは、あることに気づいた。
「あっ、やっぱりこの声はあの時の!」
「はい。あなたが眠っていたので、意識に直接話し掛けさせてもらいました」
ディーザの読みは当たっていた。蟻地獄に嵌った後、聞こえてきた声の主はこのユクシーだった。
「えっ、何? この流れ?」
最初のやり取りを知らないリンは、この状況に少し戸惑い気味だった。なので、ディーザが説明をしてあげた。それを聞いて、リンも納得した。
「それで、俺達は何するんだっけ?」
この場にきて何をするのかという、そもそもの目的がはっきりわかっていなかったディーザがリンに質問した。
「忘れたの? 私達の目的はリタイを止めること」
リンは少し呆れた様子でディーザに言った。
「エムリットから聞いています。あなた方は味方だと」
ユクシーは[感情の地底湖]であった出来事を伝えられていることを告げた。
「三つのアミュレットは、あるべき場所から離してはいけないものですから。奪おうとする者は追い返さないといけません」
それに付け加えるように言うと、ディーザは、一体どんなことが起こってしまうのか、と質問した。
「正確なことは私もわかりません。ただ、世界のバランスがゆっくりと崩れていくと、我らの主は言っていました」
ユクシーは知っていることをしっかりと教えてくれた。その中に主という気になるワードについてディーザが質問した。
「主については、話すことは出来ません」
どうやら主については秘密のようで、ユクシーはその質問を退けた。そうして、ふーんと思っているディーザに、リンが話しかける。
「ねぇディーザ。せっかくだからユクシーにディーザの記憶のこと聞いてみようよ?」
ディーザには、何故ユクシーにそのことを聞くのかわからなかった。
「ユクシーさん。ここにいるディーザは、実は記憶喪失なんです。知識や記憶を司るユクシーさんなら、戻してあげられたり出来ませんか?」
リンがユクシーの目をしっかり見て頼んだ。
「あー、なるほど。俺からもお願いします!」
リンの頼んだ理由を聞いて、意図を理解したディーザもユクシーに頼んだ。
「記憶喪失ですか。本来私はそういうことはしないんですが…」
「そこをなんとか!」
呆気なく断られた形になり、ディーザは食い下がった。
「そう言われても…」
ユクシーは、そんなディーザの様子に困った表情を浮かべた。
「随分楽しそうだな?」
三人は驚いた。突然、さっきまでディーザ達がいた場所からあの声がしたからだ。そして別の声も一緒にいた。
「お楽しみのところ邪魔するぜぇ〜」
「この声…」
「来たのか!?」
聞き覚えのある声がした後、光が集まって辺りが白くなる。
「久しぶりだな〜」
「リタイ…!」
視界が戻ると、そこにはこちらを見下した態度をとるあのリタイがいた。
「俺っち達も忘れんなよ?」
脇にはカロートとラーチもいた。
「この前の借りを返してやる!」
リタイに対して悔しい気持ちがあるディーザは、一歩前に出て戦闘体制をとる。
「あなたですか、例のルカリオは?」
その後ろにいたユクシーが事務的に問う。
「連絡はしっかり伝わってるみたいだな? そうだ。俺がリタイレムだ」
リタイが名を名乗る。話し方には、溢れかえる自信が感じられた。
「おい、無視すんなよ!」
「うるせぇ。雑魚は黙ってろ」
「雑魚だと…!」
二人の間には、まるで火花が散っているかのような雰囲気が漂う。
「そんなに戦いたいのか? ならしょうがねぇな。お前らの相手はこいつがしてやる。いけ」
「…はい」
リタイ一行の後ろから、機械的な返事と共にロズレイドが前に出てきた。
「戦闘開始だ」
「……!」
リタイの合図でロズレイドが無言で突撃してきた。
「ディーザ来たよ!」
「わかってるよ! "かえんほうしゃ"!」
ディーザが火を放つ。が、ロズレイドはそれを軽く躱した。
「あいつ速いよ!」
「俺達はアミュレットを戴くぞ」
「「はい!」」
ロズレイドの素早さに驚いている間に、リタイ達はユクシーに近づき始める。
「リンはユクシーを手助けして!」
ディーザがユクシーを助けるようリンに頼んだ。
「えっ、ディーザは?」
「俺はあいつを倒してから加勢するから!」
「"マジカルリーフ"」
そうしている間に、ディーザに向かって"マジカルリーフ"が空を切り裂きながら飛んでくる。
「"かえんほうしゃ"!」
ディーザの"かえんほうしゃ"は"マジカルリーフ"を燃やして灰にした。
「リン、大丈夫だから」
「わかった!」
ディーザの様子を見て、リンはユクシーの元へ急いで向かった。
「じゃあバトルしようか、ローラ!」
「………」
「進化したみたいだけど、そうなんだろ?」
「…始末…する」
ロズレイドは機械的にそれだけ言った。
その一方では、ユクシーとリタイが対峙していた。
「ユクシー、おまえの持ってる物をこっちに渡せ」
「出来ません。これはここになければならない物です」
真っ向から対抗する姿勢を見せるユクシーに、リタイはジリジリと近づいていく。
「そんなことは承知してるさ。けど、そんなことは関係ねぇ。渡さないなら少し痛い目に合って貰う」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「また煩いのが来たか」
リタイが拳をパキパキと鳴らしているところに、ディーザに言われて助けにきたリンがユクシーの前に立つ。
「カロート、ラーチ、あいつの相手はおまえらがしろ」
「了解で〜す」
「いっちょやるか。"スピードスター"!」
リタイの命令を受けたカロートとラーチがリンに近づき、ラーチが星形の物体を発生させて飛ばす。
「"ほうでん"!」
リンは広範囲へ向けて電撃を放ち、"スピードスター"を相殺する。
「うわっち!」
余った電気がラーチにも命中。
「そっちのレベルも上がってるみたいだな。面白くなりそうだぜぇ」
その様子を見てカロートが不敵に笑った。
「それじゃあ、こちらはこちらで本題に入ろうか?」
リンの相手を二人に任せたリタイは再びユクシーに話しかける。
「もう一度言います。お引き取り下さい」
リタイが何と言おうと、ユクシーは断固拒否した。
「諄いな。俺はそういうのは嫌いだ。死んでも文句言うなよ?」
そう言うと、リタイは攻撃を始めた。
「うぐっ!」
「… "ヘドロばくだん"」
「ぐぁあ!」
ロズレイドから放たれた"ヘドロばくだん"がディーザに攻撃が命中する。
「はぁはぁ…、くそ…なんであんなに強いんだよ…」
今のところ、ディーザの攻撃は素早過ぎるロズレイドにかわされ、逆に強力な技を貰い続けている。
「…"くさむすび"」
地面から生き物のように動く長い草が出現する。そして、
「ぬぐ…あぁぁぁ!!」
「……始末…」
ディーザを絡め取って縛りあげた。
「ディーザ!? 大じょ…きゃあ!」
「他所見すんなよ!」
隙を突いたカロートがリンに"どくばり"を当てる。
「はぁはぁ…、女の子一人に男二人で狡いね…」
リンはカロートとラーチに対して強気に言う。
「狡くて結構。俺達には褒め言葉だ」
それに対し、カロートは悪役の決め台詞とも言うべき言葉をリンに返した。
「あんた達って性格も悪いわね…(ディーザを助けないと…!)」
「や…やばいっ…! 意識がっ…!」
徐々に削られる体力のように、ディーザの目からは光が薄れていく。
「う…ぐ…」
ディーザは増え続けるダメージに耐えきれず、上を向いていた頭をカクッと落として意識を失ってしまった………