第二十二話-パズル
「上手くいきました」
「そうか。よし、約束の報酬をくれてやる。これで望みが叶ったな」
ここはとある場所。誰かと誰かの密会が行われていた。
「あの二人は本当に悪い人達なんですか?」
控えめに、一人がもう一人に尋ねる。
「何か言ったか?」
尋ねられた方は、苛立ちを含んだ声で返した。
「いえ…。報酬、有難く頂きます」
そうして、尋ねた者はあるものを手渡された。
………………………………………
「(……、俺たちどうなったんだ?)」
真っ暗な空間で、そう呟やいたのはディーザだ。
「(あなた方は、流砂に巻き込まれて落ちてきたのです)」
そして、その呟きに答える声があった。
「(そーなのか…。って今の誰?)」
「(それはまた後で、きっとわかります。あなたが………)」
「("あなたが"何だよ?)」
薄れてきた感覚の中、続きを聞こうとしたところでハッと目を覚ました。砂山の上で気がついたディーザは、今のは夢か何かだったのだろうか、と考えた。
ふと辺りを見渡すと黄色いものを見つけた。そして、ディーザにはそれが何なのかはすぐに分かった。
「リン、大丈夫か!?」
上からは砂時計のように少しずつ砂が落ちている。それが積もって出来た砂山の裾に、リンが横になっていた。ディーザがそこへ滑りながら降りていくと、それに続いて砂も流れた。
「リン、起きなよ!」
ディーザがリンの頬を軽く叩く。すると、割と早くリンは目を覚ました。
「おっ、起きた。見てみろよ、俺達何ともないみたいだよ」
「え…本当に?」
リンは体を起こして辺りを見回すと、状況を理解したようだ。そして、話はあれに切り替わる。
「ローラに騙されてたってこと?」
「あの様子だとそうなんだろな。俺達を罠に嵌める理由って何だ?」
何故、昨日出会ったばかりのロゼリアにはめられたのか、二人は少し考えてみた。しかし、具体的な理由が浮かばなかったようで、
「それは後で考えるとして、とにかくゲームオーバーにならずに済んだんだ。こっから出る方法を考えよう」
ということになった。
「うん。それなんだけど、この感じは前にもあった気がするんだ」
「この前って?」
「[フィルノ水源]の時。あの時も…ほら」
リンは何か確信に近いものがあるようで、指差す先には入口らしき場所があった。それを見たディーザも、そういうことか、と納得した。
「もしかしたら、ここが[ノレッジ洞窟]かもしれない」
つまり、ここが目的の[ノレッジ洞窟]であり、二つ目のアミュレットがある場所であるということを予測した、ということだ。
「もしそうだったら不幸中の幸い、ローラに感謝する形になるな」
ディーザはそう言ったが、それに対して、リンは何も言わなかった。表情には悔しさ、または後悔のようなものが感じられた。
「なんか、ごめん…」
そんな顔を見たディーザは、リンに何か思わせてしまったと思い、とにかく謝ってみた。
「ううん。じゃあ行こう!」
「うん」
リンからは元気めの返事が返ってきた。それを聞いたディーザは、あまり心配は要らないだろう、と思った。ディーザが返事をしたところで二人は会話を終えて、入口から奥へと続く道を進んでいった。
しばらく進むと、[フィルノ水源]の時のようにポケモン達が襲ってくる。ここには、ユンゲラーやシンボラーといったエスパー系が多かった。かと思うと、ゴルーグなどのゴースト系もしばしばだった。
この説明している間にもディーザとリンはバトルをしていた。
「エスパー系とのバトル経験が少ないから手こずるな…」
「"チャージビーム"!」
ディーザが自分の相手を倒したのと同時に、リンも自分の相手に攻撃を命中させて気絶させる。
「ふう…。数も沢山いるから避けるのもありかもね」
リンは出会ってしまう敵の数を考え、消耗しないように不要なバトルを避けることを提案した。
「確かに。って言ってるそばから…、"かえんほうしゃ"!」
それに同意した矢先、脇から現れたユンゲラーにいち早く気づき攻撃する。
「ゲラー…」
「はぁ…。苦戦はしないけどやっぱり数がな〜」
ディーザの言う通り、敵の数が多いだけで、一体毎の消耗は少なかった。
そこからまた時間が経ち、洞窟に入って一時間ちょっとが過ぎた頃。
「そういえば今、何階だっけ?」
「確か地下七階。そろそろだとは思うけど…」
ディーザはリンに確認を取る。二人は無駄なバトルを避けるようにしていたが、それはあまり効果はなく、技を消費して疲れてきていた。
「おっ、階段見っけ!」
そんな時、ディーザが下へ続く階段を見つける。二人は降りていくとそこは地下八階。しかし、そこは広めのフロアがあるだけだった。
「[フィルノ水源]の時と同じだね」
リンは以前を思い返しながら言った。
「同じってことは、また隠し扉みたいなのがあるんだよ。探そう」
ディーザも以前のことを思い返してそう言った。そして二人はフロアの壁を調べていくが、一周して特に変わった所は見つけられなかった。
「うーん…。もしかして手掛かりは壁にあるとは限らないかも…」
ディーザはそう言うと、尻尾の火を頼りに床を調べた。すると、予想通りのことが起きた。
「リン、どうやら当たりらしいよ」
リンを呼びつけてディーザが示した場所には一本の窪みに縦に入れられたパズルのような物と、その下側には、恐らくそれを填め込むためのものであろう窪みがあった。
「部屋の真ん中にあるなんて。どうりで壁や隅っこばかり探してたら見つからないわけよ」
それを見たリンは、誰に向かって言うわけでもなく、独り言の文句のように言った。
「見つけたのはいいけど、このパズルってどうしたら完成なんだろう?」
ディーザが見た感じ、絵合わせするパズルとかではない。ピースの表面には記号のようなものだけが彫ってあり、裏には何もなかった。
「当然そこに填め込むんでしょ? ということは、何か法則性があるってことになるけど、その記号の意味がわからないことには…」
「記号…」
その時、ディーザの脳裏に聞き覚えのない声が響いた。
「(アン……ンって、ア…ファベットの…なん……な)」
「えっ?」
聞こえてきた声の正体や、内容がほとんどわからないディーザは少し戸惑った。
「ディーザ、どうかしたの?」
「今、声がしたような…」
どうしたのか聞いてきたリンを無視して声の正体に意識を集中した。
「アン……ン…、ア…ファベット…。そうか!」
答えが出たのか、ディーザはいきなり大きめの声を出した。当然リンはその声にびっくりした。そして少し語気を強めて、大声を出して一体どうしたのか聞いた。
「これ、アンノーン文字だよ。これなら俺でも解るよ」
アンノーンという言葉を知らなかったリンには、ハテナマークしか浮かばない。
「アンノーンはポケモンの一種だよ。姿形がいろいろあって、それが文字として使われているんだ」
ディーザがスラスラと説明してくれたが、正直、リンにとってはあまり興味のないことだった。むしろ、ディーザがどうしてその文字のことを知っていたのか、という方が気になり、そのことをディーザに聞いてみると、
「知ってるっていうか、聞こえた?」
という、リンには不本意な答えが返ってきた。
「何それ? まぁいいや。それで、出来そうなの?」
語気をいつも通りに戻して聞いた。
「とりあえずやってみるよ」
そうして、ディーザがパズルに取り掛かかった。最初は何が問われているのかとか、どう並べると正解なのかを探る作業をした。縦四マス×横七マス、計二十八枚のパズルの記号を見ながら、五分、十分と過ぎる中ようやく、
「深読みし過ぎて時間を食ったけど、これでいいはずだよ」
ディーザは二十八枚のパズルを全て填め終えた。
「出来たの? どんな法則があったの?」
ディーザが填め終わったと言うのを聞いて、端っこで休憩していたリンが現場に赴き、そう質問した。
「これ? ただのアルファベット順」
さっきと同様に、知らない言葉を聞いたリンにはハテナマークしか浮かばなかった。
「別に知らなくても大丈夫だよ」
「何でそういう…」
ディーザが少し引っかかる言い方をするので、リンが文句を言おうとした時、完成したパズルが光を放ち始めた。
「やっぱりこれで正解みたいだね。どこが開くのかな〜?」
少し面白半分にディーザがそう言うと、どこかに道が出来たわけではなく、パズルから魔法陣のようなものがディーザ達を囲むように出てきた。そして、
「「うわっ、眩しい!」」
ディーザ達は魔法陣が放つ強い光に包まれた。
………………………………………
一方その頃。ディーザ達が目を覚ました辺りの時間。
「報告します。罠の中にあの二人はいませんでした」
「何だと? ちゃんと探したんだろうな?」
例の場所、さっきとはまた別の密会が行われている。
「もちろんです。仮にもあなた様の側近ですよ?」
「そうですよ。俺っち達のこと、少しは信じて下さいよ」
相手に対し、二人組は少し謙って言った。
「そういうことは、一人前に役目を果たした時に言うんだな」
話し相手である誰かが、エネルギーを手のひらに集め始める。
「でっ、出過ぎたことを言いました! すみません!」
その様子に恐れをなしたのか、前言を撤回するかの如く謝った。
「まぁいい。確かに蟻地獄には嵌めた。いないと言うことは運良くあそこに巡りあったということだ。つまり、俺達があれを探す手間が省けたことになる。よし、今から向かうぞ、準備しろ!」
そう言うと、作り出した小さめのエネルギー弾を二人組に向けて放つ。
「「ひっ!!」」
それは、何かの合図のように二人組の間を通り、小さめの爆発を起こして奥の壁を破壊する。
「「さっ、早急に準備します!」」
今度こそ完全に恐れをなした二人は、走って出口から出ていった。エネルギー弾の主は苛立った鼻息を吐いた。
「くそ! おまえが外さなければあいつらを始末出来たのに、とんだヘマをしてくれたな?」
その人物は、横にいた誰かに話しかける。
「もちろん、その責任は取れるよな?」
「……はい」
単調な言い草でそう尋ねると、聞かれた相手は機械的な返事をした。それを聞いたエネルギー弾の主は、座っていた肘掛・背もたれ付きの椅子から立ち上がり、さっきの二人組が出ていった出口と同じ所から出ていった………