第二十話-きのみの森
「「「うわぁぁぁ!!」」」
太陽の光が真上から降り注ぐ頃、その叫び声に驚いた鳥ポケモンが森の中から飛び立った。
………………………………………
二人が受付に行くと、そこにいたピカチュウに声を掛けられた。
「あれ、リンさん?」
「あっ、フーカ君!」
「やっぱりリンさんだ! お久しぶりです!」
そのピカチュウはリンに会釈した。
「どうしたの、こんな所で!?」
「リン、この子誰?」
リンがピカチュウと話していると、その相手が誰なのか知らないディーザは質問した。
「ほら、この前ちょっとだけ教えてあげたでしょ? 森の集会所の食堂で料理を作っている、ピカチュウのフーカ君だよ」
「あ〜、確かに聞いたことある」
リンに言われると、ディーザは少し頭の中を探ってから反応した。その後、紹介されたピカチュウがディーザに話しかけてきた。
「初めまして! えっとー…」
「名前? ディーザだよ」
初めましてときたらこれだろうと予測して、ディーザはフーカに名前を教えた。
「ディーザさん、初めまして。ところでリンさん、どうしてここへ?」
挨拶もそこそこに、ディーザそっちのけでリン相手の会話に戻った。ディーザは、自分への興味とかが全くないんだな、と少し残念に思った。
「わたし達は旅の途中で立ち寄っただけ。フーカ君は?」
「料理の勉強に。言ってみれば料理修行ですね」
リンの質問に対し、フーカは料理の勉強だと説明した。それを聞いたディーザは、熱心なんだな、と感嘆の声を洩らした。
「食材の町には本当に多くの食材があるので、勉強にはもってこいなんですが…」
「どうかしたの?」
何か問題があることが容易に想像出来る言い方をするフーカに、リンは質問をした。
「予定より多く使ってしまったせいで、お金がなくなってきちゃって、勉強どころじゃなくなっちゃたんです…」
と、返ってきた。どう答えればいいのか、ディーザとリンが返答に困った。
「実は、わたし達もお金なかったりして…」
「えっ、そうなんですか?」
話を合わせたリンに、ディーザは少し、えっ?、と思ったが、フーカが聞き返してきたので合わせて頷いた。
「そうだ。せっかくリンさん達もいるわけだし、ちょっとお小遣い稼ぎしませんか?」
「どうやって?」
突然のフーカからの提案に、ディーザが聞き返す。
「依頼を熟すんですよ。実はもう引き受けてあるんですけど、僕一人じゃ難しいので…」
なら何で引き受けたんだ、とツッコミたくなる気持ちを抑えて、
「なら手伝うよ。どの道俺たちもお金を稼がないといけないし」
と、手伝うことにした。
「そうですか! じゃあ、僕が受けてきた依頼の一覧を出しますね!」
そう言うとフーカが自分のカバンに手を入れて紙を取り出す。
「これ、本気?」
「はい、もちろん!」
フーカが受けた依頼は、全部で十二件もあった。ディーザとリンは少し呆れたが、一人では難しいというのは、引き受け過ぎて大変になってしまったという意味だったのだと思い直した。
「全部内容は、[きのみの森]に行って料理の材料を取ってくる、というものです。だから一度にやっちゃおうと思います」
「いいね、早速明日行こう!」
ディーザはさらに呆れ顔になったが、リンは違ったようで、フーカの提案にすぐに乗った。
「りっ、リン…。はぁ〜、しょうがないな」
結構乗り気なリンを見て、こういう時のテンションがまだわからない、と思うディーザ。
「決まり! じゃあ今日は早く寝ようね」
「って、その部屋はどうすんの?」
ディーザが通常のトーンで言った。
「僕、部屋を取ってあるんで一緒にどうですか?」
フーカはこの町で何日か過ごしているので、自分の部屋は既に借りてあった。そこに、二人も泊まらないかと提案してきた。
「「じゃあお言葉に甘えて」」
特に考えることなく二人は返事をした。フーカが取った部屋に入れてもらい、一晩を過ごすことになった。
………………………………………
「もう少しで[きのみの森]に着くな」
「そうですね。あそこが入口です」
広大な森の入口が見えてきた。[きのみの森]は食材の町から辛うじて見える所にある。三人は依頼が複数あって時間が掛かると予測して、今朝は日が登ってすぐに集会所を出ていた。そして今は、小さくて確認出来ていなかった入口が見えてくる場所まで来ていた。
「そういえば、言ってませんでしたがここはダンジョンなんです」
今更ながらフーカが二人に伝えた。
「えっ…そうなの?」
「はい、そうです」
ディーザが聞き返すと、フーカは単調に答えた。
「ダンジョンか〜、そのつもりじゃなかったから…なんかな〜」
それを聞いたディーザは、聞こえないように小さく言った。その後、まぁいいか、と、ため息交じりに言った。
「じゃあ早く行って早く帰ってきましょうか!」
「「はーい」」
フーカがそう言うと、二人は先生に返事をする生徒のように返事をする。そして一行は、フーカが仕切る形でダンジョンに入っていった。
ダンジョン内は、[きのみの森]と言うだけあって、そこら中にきのみがあった。そして、何故かピーピーマックスも落ちていた。
一つ目から八つ目までの依頼で頼まれていた、リンゴやオレンの実などの比較的見つかりやすい物のは、すぐに余るぐらいの個数が集まった。
「これもきのみかな〜?」
木の上にいたフーカが、楕円形でトゲが一本出ているきのみらしき物に手を伸ばす。ディーザはその下でガサゴソとしているフーカを見上げて、一体何をしているのか、と疑問を持った。
「とっ、取れないなっ!」
なかなか取れないので、フーカは強く力を入れた。その時、きのみの奥から羽音が響いた。
「おまえ、何してん?」
「えっ?」
フーカがふぬけた声を出す。
「何で俺達の縄張りにいんだよ?」
「フーカ、何かあったのか?」
フーカが木の上で必要以上にガサガサしているので、気になったディーザが呼び掛けると、
「にっ、逃げましょう!!」(ドスッ!)
と言いながらフーカが落ちてきた。
「お前何してるんだよ、気をつけないと…」
「いてて…そんなことより早く逃げっ…」
ディーザが注意するのを遮ってフーカが逃げるように言うが、その後は響いてきた羽音で聞こえなかった。
「「「うわぁぁぁ!!」」」
太陽の光が真上から降り注ぐ頃、その叫び声に驚いた鳥ポケモンが森の中から飛び立った。
「こいつらいつまで追いかけてくるんだよ!
フーカ、責任とってなんとかしろよ!」
「スピアーだとは思わなかったんですよ!」
語気を強めて言うディーザにフーカが弁解する。
「それは何回も聞いたよ!」
「何でもいいからどうにかしてー!」
ディーザとフーカが逃げた先にいた、他のきのみを探して別行動していたリンを巻き込み、三人はスピアーの群れを背後に森の中を走っていた。
「ん!? あっ、あそこに隠れましょう!」
フーカが四足歩行、この場合は四足走行だろうか。走っていると後続を撒けそうな場所を見つけ、茂みの奥へと向かった。
「ちょっと待てよ、勝手に行くなよ!」
「えっちょっと、置いてかないで!」
一人で行ってしまったフーカの後に、二人も続いていった。
それからしばらくして、
「まだいるよ…。しつこいと嫌われるぞ、全く…」
ディーザが茂みの間から相手の様子を確認する。辺りを偵察をするためか、最初の群れは散らばって、今近くにいる塊の中の数は四分の一程度になっていたが、それでも十分に多かった。
「んーー! もう、やだ!!」
リンがいきなり痺れを切らして茂みから出ていく。
「ちょ、ちょっとリン!?」
「あそこにいたぞ! やっちまえ!」
引き止めるディーザのことを無視する。すると案の定スピアー達はリンに気づき突撃してくる。
「あんた達しつこい!」
リンは"チャージビーム"を放った。
「数で負けてるんだから無理すんなよ!」
仕方ないなー、とディーザは後ろから飛び出て"かえんほうしゃ"で加勢する。それぞれ二匹ずつに命中したが、二人で相手をするにはキリがないほどの数のうちの四匹で、スピアーの群れの痛手にはならなかった。
「フーカも手を貸してくれ!」
手数が必要と思ったディーザは、まだ茂みの中にいたフーカに加勢を頼む。
「僕は戦った経験とかないんですけど…」
フーカは経験値がないから無理だと断ったが、ディーザには自信がないだけのように見えた。
「なら無茶苦茶でいいから電撃でも出して!」
「むっ、無茶苦茶って…」
困った顔で汗を垂らすフーカ。すると、一匹のスピアーが針をフーカに向け、そして群がったスピアーがフーカに向かって突撃した。それに気づいたディーザが咄嗟に助けに行こうとするが別の塊に邪魔される。リンはそれとは別の塊に応戦していて気が回らないようだった。
「フーカ!」
足が竦んで動けない様子のフーカにディーザが声をぶつける。
「うぁぁぁ!!」
とフーカが叫ぶと、突然眩しい光が辺りを覆った。それが収まると焦げたような姿のスピアー達がフーカの周りに落ちていた。
「フーカすげぇ!」
「うっ…へぇ? あっ…」
フーカが今の状況に気づき、声になっていない声を出す。
「あれはやばいぞ…」
フーカの電撃に驚いた群れの中の一人が呟いた。
「あっ、俺用事あるから…」
「そういえば俺も…」
「うちもあった気が…」
それが伝染していき、各々が言い訳を並べ、
「「「帰るか(汗)!」」」
と声を合わせたスピアー達は、ギャグ漫画のワンシーンのように、羽音を立てて森の奥へと帰っていった。それを見ていた三人は、点を並べてぼーとしてしまった。
「……えっと、俺たちも帰ろっか…」
………………………………………
場所は集会所-食材の町支店、二百三号室。
「フーカと俺達で半分ずつな」
残っていた依頼を済ませて、[きのみの森]から帰ってきたディーザ達はフーカが借りている部屋にいた。スピアーの一件のせいで時間を食い、集会所に戻ってきた時には日が暮れる間際だった。そこから依頼主に頼まれた物を渡す作業を終えると、すっかり夜になっていた。
「ありがとうございます」
「いやこちらこそ。フーカの"ほうでん"がなかったら危なかったよ」
ディーザがお礼で貰ったお金を分けながらフーカと話す。
「いやそんな…、元はと言えば僕のせいですし」
「気にしなくていいよフーカ君。この後どうするの?」
少し申し訳なさそうに言うフーカ。そこにリンが入り、今後の予定を聞いてみる。
「もう少しここにいますけど、一段落したら一回帰る予定です。リンさん達はどうするんですか?」
今度はフーカが自然な流れで聞き返す。
「わたし達は、明日いろいろ買い揃えに行ったりして、明後日には出発する予定なんだ」
「急ぎなんですか?」
リンがディーザの方を見ると、ディーザもリンの方へ顔を向けていた。
「うーん急ぎかな? この前やることが出来たんだよね」
リンは先ほどと変わらずに話す。
「そうなんですか。上手くいくといいですね」
「ありがとう。フーカ君も頑張ってね」
「はい!」
リンの応援の言葉に、フーカは元気に返事をした。
「なんか、今日でお別れです、みたいな会話だな?」
からかいの意味を含めてディーザが意地悪に言う。
「確かにそう言われると…。そうだ! 明日フーカ君の勉強に付き合わせてよ。お料理の勉強なんてしたことないし、いいかな?」
確かにそんな感じの会話をしていたと思ったリン。そこで仕切り直しを含めて、フーカの勉強に着いていっていいか聞いた。
「いいですよ。どこかに弟子入りしているわけではないので」
断る理由がないフーカは提案を快諾した。
「そう? じゃあそういうことで」
「よし、終わった。今日は疲れたし、そろそろ寝ようぜ」
リンとフーカが話を終えたのとほぼ同時に、ディーザはお礼の振り分けを終えた。
それから、三人は軽い身仕度をして、リンはベットで、ディーザとフーカはテントで疲れた身体を休めた………