第十七話-水源
「ここが例の場所か…」
ギルドを出発してから一日と数時間。太陽が真上に差し掛かろうとする時間帯。二人は霧かがった水源に辿り着いていた。ギルド(=道場)からの道のりは相変わらずの砂地だったが、ここには草原と呼べるぐらいの草も生え、大きな滝とそれを囲む断崖絶壁の岩壁が特徴的な場所だった。
「それにしても、ここは霧が凄いね。どんな景色なのかもわかんないや」
「でも、こういう所って基本的に晴れないし、特に気にしなくてもいいんじゃない?」
「そういうことじゃないんだけどな…」
「へっ? そうなの?」
「うん…、やっぱりどうでもいいや。洞窟の入口探そう」
ディーザが提案をし、二人は探索を始めた。
「うーん、滝とその下にある池しかないと思うんだけどな〜」
三十分程経ち、ある程度調べ終えると、太陽は真上を通り過ぎた。
「もしあの本が正しかったら、ここが[フィルノ水源]って場所で、アミュレットもここにあるはずなんだけど…」
そのリンの言葉を聞いて、ディーザが腕を組んでもう一度考える。
「こういう時さぁ、ゲームだと滝の裏とかにあったりするんだけど、試しに探してみる?」
「ゲームって?」
「えっ…(ポケモンの世界にはゲームないんだ…)。気にしなくていいよ。とりあえず見てみようか」
そうして、二人は滝つぼへと流れ落ちる大量の水で大きな飛沫と音を作り出す滝に近づき、水流の勢いに巻き込まれないようにその裏を慎重に覗き込んだ。
「そう上手くはいかないか…」
ディーザが目視で確認したが、滝の裏には何もなかった。
「見る限りはただの岩壁だね」
リンは滝の裏の壁に触れながら言うと、壁の向こうからガゴッという何かが外れる音がした。
「今の何…?」
「リン、どうした?」
リンの様子に気づいたディーザがリンに近づく。すると突然、ズズズッと地響きが起こり、
「うわ!」
「あっ!」
その瞬間、二人の足元が崩れ、そのまま突如出現した穴の中へと落ちていった。
………………………………………
「ねぇディーザ、起きてよ」
「う…え…?」
気がつくと二人は砂山の上にいた。どうやらこの砂がクッションになり、怪我をせずに済んだようだ。
「ここ、どこだ?」
「さっきの場所の下。落ちてきたんだからわかるでしょ?」
「あぁ、まぁそうか…」
「それより、あっちに洞窟が続いてるの。きっとあれがそうなんだよ」
リンは砂山の麓にある壁に空いた穴を差した。
「本当だ。そういうことなら行こうか」
そうして、二人は穴の中に続く洞窟へと入っていった。
それからしばらくして、
「結構な迷路だな…」
ディーザが呟くと、進む先にあるY字路の右から、いきなり異様な音を絡めた七色の光線が飛んできた。
「あれは、"サイケこうせん"!?」
二人はその場で身を捩り、辛うじて光線を躱した。
「"チャージビーム"!」
リンは反撃するために光線を撃ち返したが、それは空振りに終わったが、"チャージビーム"が照らした場所には二本の足で直立する鳥のようなポケモンがいた。
「あれってネイティオだよな?」
「そうみたい。じゃあもう一発!」
リンがもう一度"チャージビーム"を放ちネイティオに命中した…はずだったが、命中した際に起きる爆発や効果音が発生しなかった。
「ティーティー…」
「あれは"ひかりのカベ"だ!」
ネイティオは"ひかりのカベ"を使って"チャージビーム"を防いでいた。
「壁があっても、わたしにはこれがあるもんね。"かわらわり"!」
そう言うと、右手に力を入れてネイティオに走って近づき、"かわらわり"をぶつけると、ガラスが割れるバリン! という音を出しながら"ひかりのかべ"はバラバラと砕け、そのままネイティオにダメージを与えた。
「トゥ〜…」
「次は俺だ! "ひのこ"!」
リンがすぐにネイティオから引いたのを確認して、ディーザも負けじと"ひのこ"を吹く。
「ディ〜オ…」
勢いよく放たれた"ひのこ"は見事に命中した。すると、ネイティオは力なく倒れた。
「やった!」
「倒せてよかったけど、なんかリンが凄くいきいきしてる気がするんだけど…」
「そう? でも、確かにちょっと楽しいかも」
「ふーん(なんか恐ろしいな…)。…で、あそこにあるのは階段?」
横になったネイティオの先には下に向かう階段があった。
「そういえば、ディーザは初めて見るんだよね。ダンジョンにはいくつかのフロアがあって、次の階に行くには階段を探していかないといけないんだ」
「へぇー。じゃあとりあえず、今回は下に行けばいいわけだ」
「そういうこと。降りよ!」
二人は会話を終えて、階段で地下二階へ降りていった。
その後もパラセクトやキングラー、ベトベトンなどが襲ってきたが、特に苦戦することもなく突破していき、階段を見つけては降りていく。
そして、二人は地下九階で階段を見つけた。
「まだあるのかな〜?」
「確かに長いね」
軽い愚痴を零しつつ、二人は階段を降りる。
「あれっ? 行き止まり?」
地下十階に着いたが、そこは一部屋分の広さのフロアで、他には何もないように見えた。
「ここに来て何もなしはきついや〜」
そこで力が抜けたディーザは床に座った。
「ここの入口だって最初は見当たらなかったわけだし、きっと探せば何かあるよ」
リンは壁を触りながら辿り、一周してみたが特に変化はなかった。
「そんな、何も起きないよ。ここまで来て何もないなんて…。おばあちゃんを喜ばせたかったのに…」
目標が遠退いてしまったリンも床に座った。
「世界はここだけじゃないんだから、他を探そうよ」
ディーザがリンをフォローする。
「ううん。もうちょっと探す。きっと見つけるんだから!」
そうリンが言った後、階段から見てフロアの対角線から強く白い光が差し込んだ。かと思うとそれはすぐに収まり、岩が擦れる音を立てながら壁が二つに割れて道が出てきた。
「入口が出来た…」
「きっとあそこだ! リン行こう!」
「うん!」
突破現れたその穴に、二人は導かれるように進んだ。
「あんな所に入口があったのか…」
「付いていこうぜ…」
………………………………………
その後数分間、ディーザの火がなければ真っ暗であろう道を歩いていくと、明るくて広い空間に出た。大きなフロアには、それに見合った大きな湖があった。
「なんか、そういうとこに来たって感じがしてきたよ」
「…案内ご苦労〜様でした」
「!?」
ディーザ達が神秘的な空間に見惚れていると、後ろから聞き覚えのある声がした。それに驚き二人は後ろを振り返る。
「お前らは…」
「そう、図書館ではお世話になりました〜」
そこにいたドクロッグが不敵な笑みを浮かべていた。
「俺っち達が見つけられなかった場所を、お前達が見つけてくれたおかげで助かったぜぇ」
その横にいるラッタも不敵に言った。
「何でお前らがこんなとこにいるんだよ!」
「それは恐らく、お前らと同じ目的があるからだな」
「そう、俺っち達はアミュレットを探してるんだ」
どうだ、とばかりに二人は言い放った。
「えっ、お前達も誰かへのプレゼントとかするの?」
ディーザは自分に浮かんだ、ごく自然な疑問を投げかけた。それを聞いたドクロッグとラッタはその場にずっこけた。
「まっ、まぁ…、プレゼントはするんだが…、こっちは趣旨が違う」
「そんなのどうでもいいだろラーチ! こいつらやっちまおうぜ!」
「わかったよ、カロート」
ドクロッグとラッタは自分達で仕切り直し、戦闘態勢になる。
「リン、戦う?」
「もちろん!」
「決まりだな! この前の借りもあるし、やられたらやり返す…、倍返しだ!!」
気合を入れたディーザとリンも戦闘態勢を取った。
「さっさと片付けてやるよ!」
そう言うと、ドクロッグは二人に向けて"どくばり"を吐いた………