第十五話-ちょっとした騒動
「うん、わかったよ」
のんびりとしたムシャーナは、リンの方を見て頷いた後にゆったりと質問に答え始めた。
「まずここの説明をさせてもらうね。ここ、前は道場で、今は居抜き…」
「あぁもうその話は聞いたので、その先お願いします」
リンが単調なリズムで言葉を挟んだ。ディーザは、俺は聞いていない、という反応をする。
「そうなんだ。じゃあドリームトレーニングの話だね。ドリームトレーニングっていうのは…」
「いやいやいや! 飛ばし過ぎ!」
リンがツッコミを入れる。ディーザはそのやり取りについていけずにポカーんとしている。
「じゃあ何を説明すればいいのー?」
不機嫌そうには見えないが、恐らくムシャーナは不機嫌だろう。そう思う二人は、少し様子を伺った。
「え…、最初からお願いします…」
会話が拗れていくのを想像したリンは、少し諦め気味に言った。
「そう? じゃあ話すよ。ここ、前は道場で………」
………………………………………
「つまり、ここの地下は探検隊のギルドで、ここの人っていうのは、そこの隊員のことなんですね?」
「うん、そういうこと」
三十分強に及んだムシャーナの話を、リンは十秒に纏めた。その横で、ディーザは大きな欠伸をした。
「それじゃあ、次はドリームトレーニングの話だね。僕らは長いから略してドリトレって言ってる。僕の夢の煙はちょっと特殊で、バトルの擬似体験をすることが出来るんだ」
やっと興味の湧く話が始まったのを見て、ディーザは両手で両頬を叩いて眠気を覚ます。
「それで特訓出来るんですね。わたし達にはやらせてもらえないんでしょうか?」
リンが丁重に質問する。
「うーん、やっぱりギルドの人限定ってことにしてるからな〜。悪いけど出来ない」
「どーしても、ダメですか?」
例外はないと断るムシャーナに、今度はディーザが食い下がる。
「ごめんね」
「そうですか…」
一言そう言われて、ディーザは身を引いた。
「ムーナさん大変です!」
「あがっ!」
「食糧庫から食糧が根こそぎなくなってます!」
「いっつ、てーなーもう!」
急に扉が開くと、大きい木材がディーザを的確に捉えた。患部を抑えるディーザの後ろから入ってきたのは、凶器の角材を持ったドッコラーだった。
「あっすいません…。じゃなくて、ムーナさんどうしましょう?」
「"じゃなくて"ってどうゆうことだよ!?」
「もしかして盗まれたとか?」
「だと思います」
「ねぇ聞いてます!?」
「盗まれたってことは犯人がいるよね? ならまだ近くにいるかもしれないから探そう」
「いや、だから…」
ディーザを無視して会話をする二人に、リンが捜索することを提案する。
「そうですね、探してみましょう」
そう言うと、一目散にドッコラーは外に出ていった。それに次いで、ムーナとリンも部屋を出る。ディーザは開いたままになっている扉を見て、少し黄昏てから、歩いて付いていった。
ギルドというのは、ムシャーナ、もといムーナの部屋から見て左隣の部屋にある、地下へと続く階段の先にあった。そこを降りると、既に何人かが付近を捜索していた。
「見つかりました?」
「全然見つからない。そっちはどうだ?」
と、やり取りをしている中に四人も混ざり、各部屋を調べ始めた。
「おーい、こっちに穴があるよ〜」
それを見つけるまで、然程時間はかからなかった。発見者のディーザは、ローテンションで周りの人を呼び寄せた。
「穴があるってことはきっとここから逃げたんだな。うん」
「なら、ここから辿れば追いつけるな」
それを見つけたディーザを先頭に、リン、アームと続いて穴を辿っていくと建物の裏手に出た。
「わかりやすい所だったな」
「よし、皆で辺りを探そう!」
一番に外に出たディーザは、独り言を呟いた。
続いて穴を抜けてきたアームは、他に穴がないか探す人、表を確認する人などの役割分担をした。その指示で、ドッコラーは茂みの辺りを探していた。
「何だ?」
草が何かと擦れる音を聞きつけて、その発生源へと近づく。
「もう無理! 強行突破だ!」
「「ヘイ! 親分!」」
突然声がしたかと思えば、ドッコラーの目の前の茂みから何かが飛び出てきた。
「なっ、何だお前達!? 皆、こっちに来てくれ〜!」
「どうしたんだ、大声出して…って、お前ら誰だ?」
「なんかいっぱい来ちゃった…」
ドッコラーの叫びに似た声に皆が集まる。するとそこにはペルシアンと四人のニャースと、そのニャースにのしかかられているドッコラーがいた。そして、ニャース達の背中には大きな風呂敷があった。
「なぁ、アーム。多分というかほぼ絶対なんだけど、泥棒ってあいつらだよな?」
「何でそう決めつけるんだよ」
棒読み気味にディーザがアームに言うと、顔を少し引き吊らせてペルシアンが反論する。
「そんな絵に書いたような格好してれば大体分かるだろ!」
そう、彼らの格好は顔を風呂敷で覆っている、いつの時代だよ!、っというものだった。
「これは俺達の制服だ。何がおかしい?」
「何がおかしいって…。とにかく盗んだもの返せよ!」
「お断りだ! お前ら逃げるぞ!」
ニャー!、と返事をしたニャース達は、リーダーと思われるペルシアンと共に逃げ出そうとする。
「逃げんな、"ひのこ"!」
「「フニャァァ!」」
ディーザが攻撃をしかけ、ニャース二人に命中する。
「そっちも、"でんじは"!」
「「フニニニ!」」
リンも加勢して残りのニャース二人を止める。
「僕は攻撃したくないんだけど、逃げる?」
「盗みをやるやつが素直を捕まるわけないだろ!」
後ろからゆっくりと前に出てきたムーナがペルシアンに問いかけると、ペルシアンはそう言い残してニャースを置き去りにして逃走を図った。
「あにゃ?」
ペルシアンが塀を飛び越えようとしたその時、空中のその場で動きが止まった。というより止められていた。
「もう、だから言ったのに…ほい!」
「ガフッ!」
ムーナの"サイコキネシス"によって止められていたペルシアンは勢い良く地面に叩きつけられ、そのまま目を回して気絶してしまった。
………………………………………
「では、ご協力ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ」
その後、皆でぐるぐる巻にしたペルシアン達の身柄は、通報を受けた警察に引き渡された。ペルシアン達は恨めしそうな目でこちらを見ながら、大人しく連行されていった。
「君たちがいなかったら逃げられてたかもしれなかったよ。ありがとう」
警察の姿が見えなくなると、ムーナが少し頭を下げてお礼を言った。ディーザ達はいえいえとジェスチャーを交えて謙遜する。
「何かお礼をしたいのだけど…、そういえば君達はドリトレをやりたいって言ってたよね? もし良かったら、それでもいいかな?」
「ドリトレをしてくれるんですか!? お願いします!」
提案を受け、ディーザはムーナの手を掴んでお願いした。
「決まりだね。今日はもう遅いから明日やろう。今夜はギルドで泊まって行ってよ」
「ありがとうございます」
気がつくともう日は傾き、辺りには夜の気配がし始めていた。
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その後、場所はギルド内のドッコラーの部屋。ディーザとリンはギルド内の人々に軽く紹介され、夕ご飯をご馳走になり、今日泊まる部屋は、ということで今に至る。
「今日は助けてもらいありがとうございました。あと、角材の件はすみませんでした」
「いいよ別に。もう痛くはないし」
「ねぇ、部屋の中で広げるの?」
ドッコラーがディーザの方を見て謝るが、ディーザはあしらう様に一言言って、黙々とテントを広げていた。リンはそれにツッコミを入れた。
「火事になるから基本的にどこでも広げることにした」
「そうなんだ(わたし、デンリュウでよかったな〜)…」
ディーザがテントを広げ終わると、疲れていたのか、それ以上は特に何も話さずに二人はすぐに眠りについた。しかし、ドッコラーは自分のベットの上に寝そべったまま、しばらく考え事をしていた………