第十一話-図書館
「「着いたー!」」
リンとリーフが声を合わせる。ここは高い建物が立ち並び、多くのポケモンが行き来している。そう、レーガシティだ。
「何が"着いたー!"だよ。結局昨日の内に着けなくて野宿だったじゃないか」
あの後、走ったせいで疲れてしまい、進むペースをガクッと落とし、レーガシティに着くことが出来ずに野宿をすることになってしまった。
「確かに野宿をしないに越したことはないけど、別にいいじゃん」
「そうですよーディーザさん」
「二人はよくても俺はきつかったんだからな?」
野宿の際、世間話に花を咲かせて楽しく過ごしていた三人。と言っても、ディーザは世間話をする程、あの場所で気がついてから時間も経っていないため、話しのタネがあまりなかった。その結果、ほとんどがリンとリーフのガールズトークで占めていた。
その後、その二人は草原に横になってすぐに眠れたが、ディーザはポケモン生活二日目の夜も、尻尾を抱えてほとんど眠れず、座ったままだったこともあり、収まりかけていた痛みがぶり返していた。
「ディーザってサバイバル出来なそうだよね」
「ですね」
少しやつれているディーザを、二人はクスクスと笑った。
「もう何とでも言ってくれ!」
ディーザが拗ねてしまったので、二人は、ごめんごめん、とフォローした。
「それにしても大きい町だよね。ねぇリーフ? ここで何をする予定なの?」
「えっと、情報収集と買い物ですかね」
リンが質問すると、リーフは少し考えてからそう答えた。
「何だ、普通だったね。って言うわたし達も似たようなもんだけど」
「リンさん達は、何の情報を探してるんですか?」
リンがリーフに聞いたように、リーフも質問した。
「わたしね、探してる物があって。これなんだけど」
そう言うと、バックからあの首飾りの写真を取り出して見せた。それを、リーフはじっと見つめた。
「これ、見たことあるような…」
「えっ、本当!? それについて教えて!」
予想だにしていなかった言葉に、リンは興奮してリーフに詳細を聞こうとした。
「ちょっ、ちょっと落ちつっ、いてくださいよ」
「あっ、ごめん」
リンの勢いに困ったリーフは一度落ち着くように言った。それで冷静になったリンはリーフに謝った。
「それで、あの、何て言っていいか…。実際のところ、わたしも詳しくはわからないんです。さっき言った通り、見たことがあるな〜ってだけで、どこで見たかは覚えてないんです…」
それを聞いて、手掛かりが掴めると思っていたリンは、残念そうに、そうなんだ、と呟いた。
「でも、あそこならそれに関する本とかあるかもしれないですよ? 見た感じは、この首飾りは歴史がありそうで、古そうな物ですし」
「あそこって…、何処のこと?」
それを察してか、リーフが一つ提案をしてくれたが、リンのテンションは低くかったが、リーフはそのまま進めた。
「この町にある図書館です。あそこにある大きな建物です」
「あれが図書館? 無駄にでかいな」
と言って、リーフは頭上の葉である方角を差した。それに対して、ディーザが久しぶりに口を開いて直感的な感想を述べた。
「多分、この世界に存在する図書館で一番大きいです」
「そうなんだ。じゃあとりあえず行ってみようか。ほらリン、行こうよ?」
「うん…。リーフ、ありがとう」
リンが元気なく答える。見兼ねたディーザが代わりにリーフと話すことにした。
「リーフは一緒に来るの?」
「えっ? あっ、わたしはわたしで行く所があるので、ここで失礼します」
「そっか。気をつけてね」
「はい、ありがとうございました。リンさんによろしくお願いします」
つまり、謝って欲しいということだと思ったディーザは、リーフにフォローを入れる。
「リンはリーフを困らせたんじゃないかってこと気にしてるんだろうから、困らせてないよって言っとくよ」
「はい」
リーフは笑顔で応えた。二人が会話を終えると、リーフは図書館とは違う方向へ進んで行った。そしてディーザも、リンにフォローを入れて図書館に向かって歩き始めた。
………………………………………
時は戻って、ディーザ達とリーフが出逢った日の夜…。
とある場所で、小さな声で交わされる会話があった。
「おい、こんな所に忍び込んで大丈夫か?」
「心配すんなって。それにしょぼい所ばかり探っててもしょうがないだろ?」
「それもそうだ。それにこれ以上遅くなるのもまずいしな」
「よし、じゃあ行くぞ」
………………………………………
リーフと別れた後、二人はゆっくりと街を歩いて見物し、しばらくして、二人は例の図書館の前にいた。その大きさと厳かな雰囲気は、半端な者を寄せ付けないものだった。
「あれ、何かな?」
その図書館の入口では、警備員と思われるポケモンが検問らしきことをしていた。
「とりあえず行ってみよう」
「うん」
そうして二人が図書館の入口へ近づくと、案の定、警備員のグラエナ二人に話しかけられた。
「図書館をご利用ですか?」
「はい」
グラエナの問いにリンが答え、ディーザはその横で軽く首を縦に振る。
「そうですか。昨夜この図書館に侵入者が入ったことを受け、しばらくの間、検問をすることになっています。ですので、これから少しチェックをさせてもらいますが、よろしいですか?」
「そういうことならしょうがないな」
失礼します、と一言断りを入れると、バックや水筒の中身、足の裏などを確認した。その間、図書館の厳かな雰囲気を裏切らない警備員の紳士的な対応に、少し感心を覚える二人だった。
そして、まもなくチェックは終了した。
「あなたは問題なさそうですね。これを持って入館して、出る時も見せてください」
そう言うと、グラエナは一枚のカードをリンに手渡した。
「あのー、俺は?」
「すみません。あなた自身に問題はないのですが、万が一火事になってしまうといけないので」
ディーザを確認したグラエナは、火の点いた尻尾を見ながら言った。
「そんなの気をつけるよ。入らせてよ」
「事故を未然防ぐためですので、申し訳ありません」
これ以上の抵抗は無駄と判断したディーザは、不満そうな顔をグラエナ達に見せながら、外で待っている、とだけリンに言った。リンは、早めに戻るね、とだけ返して、大きな扉を通って入館していった。
図書館は四階建てで、各階毎にジャンルの違う書物が置かれている。
一階には漫画・小説・童話などの一般的な図書館と変わらない品揃えだか、漫画や童話などは外見からは想像出来ないため、これらの利用者はほとんどいないかもしれない。事実、一階フロアには人が少なかった。
二階には資料などがズラリと並ぶ。この場合の資料とは、持ち運べるサイズで然程珍しくない標本や、今までに発刊された新聞など様々。
三階には学問系の参考書や資料集。そして、四階には古い文献などを扱うレベルの高い資料や歴史の本がある。
リンは入口付近にあるフロア毎のジャンルを記載したリストを確認し、目的に合いそうな四階に、三・四人が並んで歩ける程の幅のある階段で向かった。
その頃ディーザは、仕方なく図書館の周りを散策することにしていた。辺りにはデパートや美容院があって、いかにも都会という感じがしていた。その傍にはフラワーショップや雑貨屋などもある。人も多くいるので活気もあり、とても雰囲気は良かった。しかし、その中にはディーザが気になるものはなかった。
それから少しして、ある店の前を通った時に目に止まった看板があった。
[炎タイプは必見! 寝るとき火事にならないために!]
「これだ!」
それは、睡眠不足のディーザに助け船が出た瞬間だった。心の中で軽くガッツポーズをすると、ディーザはそのお店の中へと入っていった。
一方リンは、遺跡関係の本の題名を片っ端から見ていた。自分の目的に合いそうな本を見つけては引っ張り出し、中身を確認しては戻すの繰り返し。ここまで三列を見終わって、擦りもしなかった。
「何かお探しですか?」
熱心に本を探すリンの後ろから声がした。
「えっ…はっ、はい」
「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。私はこの図書館の館長で、ゴーゼルといいます。」
声の主、ゴチルゼルが自分の胸に手を添えて自己紹介する。
「館長さんなんですか。それじゃあひとつ聞きたいことがあるんですけど、この首飾りについて書いてある本をご存知ないですか?」
そう言って、あの写真をゴーゼルに見せた。
「これは、アミュレットですね。待っていて下さい。それに関する本は表に出していないんですよ」
「これ、アミュレットって言うんだ…」
それと同じ頃、ディーザがさっきのお店から出てきた。
「これで横になって寝れるよ!」
どうやら何かを買っていたらしい。その商品は、[燃えないテント(四人用)]だ。ヒトカゲなどの身体の一部に炎が出ているポケモンは、配慮を怠れば火事の元。それを解消するのがこのテント。
「ちょっと高かった気もするけど、これならリンも許してくれるだろうな」
と、上機嫌なディーザが図書館に向かって歩いていると、屋根から屋根へ飛び移る怪しい影が視界に入った。それは図書館の方へ向かっていた。
「何だろう?」
気になったディーザは、買ったテントを背負い、リンのいる図書館に向かって走った………