第四話-集会所
ヤドキングとの話を終えて、元の入口近くに戻ってきたヒトカゲ。お昼前のこの時間帯、その待合所のような場所にはポケモン達が多く見られた。
「あっ、お話し終わりました?」
話し掛けてきたのは、先程部屋の様子を見に来ていたレディアン。
「まぁだいだい。いい話も聞けました」
「そうですか。それはよかったです」
レディアンは笑みを浮かべながら言った。
「そういえば、ここって何の建物なんですか?」
「あれ知らなかったの? ここはポケモンの集会所。旅の途中のポケモン達の、宿泊施設っていうのが主な役割。それにここだけじゃなくて、いろんな場所や地域にあるの」
そうなんだ、と言うつもりが、レディアンにその間を与えて貰えず、そのまま話が続いた。
「集会所の運営委員会があって、基本的にはそこが管理しているけど、許可を貰って自営業としてやっている場所もあるの。ちなみに、ここは運営の管理下でやっている所で・・・」
レディアンの口からは次々と言葉が出てきた。しばらくは話が止まりそうになかった。
数分して、ヒトカゲが切りのいい所を見つけてやっと言葉を挟んだ。
「つまり言ってみれば、宿泊業のチェーン店みたいなものってことですか?」
「うーん、チェーン店って所は合ってないこともないかな? 五十点ってところだね」
区切りをつけるために言葉を挟んだつもりが、熱心な生徒のような質問を挟んでしまった。そして、期待を裏切ることなく、レディアンの回答が再開した。
「ほら、あそこの掲示板。いろいろ紙が貼ってあるけど、この近くで困っていたりするポケモン達の依頼が書かれている紙なんです」
「何で依頼なんかが、こうゆう所に来るんです?」
レディアンが入口近くに設置された掲示板の方を指差す。長すぎる話を切り上げたいと思う気持ちはあるが、依頼がどうとか気になることを言うので、つい質問をしてしまった。
「それが集会所と呼ばれる理由。ただ泊まるだけならそこら辺の宿舎と一緒。うちは情報交換の場でもあるの。あそこの二人を見て」
もう仕方がないと割り切り、掲示板のすぐ隣にいたリングマとストライクに目を向けた。
「あの二人はこれからダンジョンに探険に行くの。宝物の噂が最近あるから、探しに行くんですって。それで・・・」
話が少し脱線し始めている…。そこでヒトカゲは、依頼の質問に答えてよとばかりに切り返した。
「それで、何で掲示板に依頼が来るんですか?」
レディアンは両手を合わせて、そうだったね、と少し笑ってそれに返答する。
「ここはあんな感じでポケモンが集まるでしょ? だからお願いを聞けるポケモンが見てくれれば、それを熟してもらえる。もちろんお礼も付いてるよ。依頼主と冒険者の両方が得するってわけね」
ヒトカゲは、なるほどなー、と納得し、社交辞令のお礼をしてやっと話にけりを付けることが出来た。ここまで来て、このレディアンは相当なお喋り好きであることは十分に解った。
「どういたしまして。他に聞いておきたいこととかある?」
また長話が始まるかと思うとぞっとするので、特にないです、と答えようとした時、あることを思い出した。
「あーえっと、一つだけ。管理人さんだっけ? あの人が今日は空いてる部屋に泊まって行っていいよと言ってくれたので。えっと、三百九号室の鍵を下さい」
「そうなの? わかった、三百九号室ね?」
確認を取ると、レディアンは後ろの扉を開けて奥に入っていった。危うく鍵を貰い損ねるところだったと思いながら、そういえばダンジョンって何だろう、とまた疑問符が浮かんだ。が、これ以上質問をして長くなるのは正直御免だ、とも思うヒトカゲだった。
そんなことを考えている間に、レディアンは鍵を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらです」
と言って、その鍵をヒトカゲに手渡した。その鍵の形は、人間が使う物とほとんど変わりはなかった。
その後、レディアンにお礼をして受付を後にした。近くにあったベンチに座ると何と無く脱力感が出てきたが、レディアンからまだ見える位置にいるので態度に出さないように気をつけた。
ふと右を向くと、柱に貼られた館内図を見つけた。部屋の番号などが書いてあるので、自分の泊まる場所を確認した。それによると、三百九号室はすぐそこの通路を、真っ直ぐ行った所の階段で三階、上がってすぐの通路の一番奥にあった。
「(とりあえず見に行くか)」
館内図を見終えて、真っ直ぐ階段に向かった。その階段を登る際、小走りで登った。
二階から三階に掛けての折り返しに差し掛かった所で、ドン! と勢いよく何かにぶつかってしまい、その反動で後ろによろけて壁に思い切り頭を打った。ジンジンとする患部を両手で抑えると、立ちくらみのような軽いが目眩がした。
(………ん…!)
「(今、何かに聞こえたような…)」………