第一話-出逢い
「なんか、寒いな……」
そう感じて目を覚ます。
辺りは薄暗く、ひんやりとした風が肌を撫でるように吹いている。その風で揺れる草木の音がする。恐らくここは、広い森の中。
いつからこんな所にいるのだろう? 覚えていない。思い出せない……。
何故、自分がこの場所にいるのかわからないことが解ると、なんとなく不安な気持ちに駆られた。
どうしたらいいのか、わからない。
気持ちの整理ができず、人見知りのようにキョロキョロと辺りを見回す。
すると、一本の細い木の枝が視界に入った。何かに促されるようにその棒を手にとり、地面に立てた。そして、それは風向きの方向へゆっくりと渇いた音を立てながら倒れた。
「……よし」
そう呟き、その倒れた枝の指す方向へと歩き出した。
薄暗い木々の中で目を覚まし、そこから歩き出した。すでに体感では一時間は経過したように感じている。一向に変わらない景色に気が遠くなりそうな思いを抱く。そして何より、先行きがわからないという不安感があった。しかし同時に、道は間違っていない、きっとこの先に何かがあるような、不思議とそんな気持ちも内包していた。
ただそれよりも、気になっていることがある。ムズ痒さのような違和感が全身を覆っている。全然進んでいる感じがしない。何というか、いつも通り歩いているはずなのに、いつもより歩幅が短い。そんな違和感がしていた。
それから数分間、そのまま歩を進めていると、左手の方角から朝日が差してきた。目が覚めてから注ぐ初めての光で目の奥に嬉しい痛みを感じた。右手で目を庇い、細めた目が光に慣れてくると、遠方に建物が見えた。
きっと誰かいるはず。
そんな期待を持って、足を早めた。
そして森の中に立つその建物まで辿りついた。そこは正面ではなく側面であり窓枠がいくつか確認できた。中の様子を伺うべく、目の前の窓から中を覗いた。窓が朝日を反射してよく見えなかったが、それでも中に誰もいないのはわかった。よく考えれば、夜明けからまだ何分も経ってない。人がいたとして、まだ寝ていてもそれは普通のことだった。それを肯定するように、入口に回ってみたが、案の定閉まっていて中には入れない状態だった。
「しょうがない、ここで少し待とう」
そうして、ゆっくりと地面に座った。歩き疲れたせいでウトウトしてしまい、そのまま浅い眠りに就いた。
「…………?」
今、何か聞こえた……かな?
「……てんの?」
「うーん……、あっ!」
しまった、寝てしまった、とばかりに飛び起きた。
「何でこんな所で寝ているの? というか、知らない顔だけど、誰?」
まだぼんやりしていて前がよく見えないが、声はしっかりと聞こえている。この声の主は女の子。自分よりは年上に感じるが、少し幼さも感じる。
「俺は……(あれ、誰だっけ?)」
「"俺は……"、何?」
「えっと、だからその……」
頭の中が真っ白で思考が働かない、今の状況についても、わからないことだらけ。
「あなた……、大丈夫?」
一旦落ち着こうとして、一度深呼吸して目を擦る。そして、声の聞こえる方に目を向けた。そこに見えたのは、黄色い生き物だった。
「(デンリュウ? そ、そんなまさか……)」
と、思ったのも束の間、
「とりあえず、中に入る?」
デンリュウの口に合わせて声が聞こえてきた。信じられないが、どうやらそうらしい。このデンリュウは人の言葉で話している。もはや驚きを超えて、不思議な気持ちになった。
「ほら、ボーとしてないで」
そのデンリュウに手を取られて立ち上がる。
「(あれ? デンリュウの方がでかい……。普通の大きさなら俺と変わらないか少し小さいぐらいなのに……)」
その時、デンリュウに掴まれている自分の手が視野に入る。
「はっ!?」
咄嗟に掴まれている手を振り解いて確認した。それは間違いなく自分の手のはずだったが、人の手ではなかった。
「いきなり何!?」
手を強く振り解かれたデンリュウは怒っていた。けれど、今はそれどころではなかった。確認しなければ、その一点でさっきの窓に自分を写した。その窓の奥には、ポケモンが数匹いるのが見えた。そして、自分の正面には、薄っすらと映る、唖然とした表情でこちらを見るヒトカゲの顔があった。
「そんなことって……」
自分でも聞き取れるかどうかわからないぐらい、小さな声が漏れた。
「さっきから何なの!? わけがわかんない。とにかく中へ行くよ!」
頭の中がごちゃ混ぜなヒトカゲは、その強気な命令口調に流されるように、デンリュウに付いて建物の中へ入っていった………