第八話-探し物
「あー、やっと着いた〜」
ディーザが疲れたとばかりに言った。辺りはすっかり暗くなり、点々とした星々を眺めることが出来た。
「やっとだねー。こんなに遅くなるなんて思ってなかったよ」
肩の力が抜けた二人の目の前には、窓から光を漏らす建物、集会所があった。その姿は、まるで二人を出迎えてくれているように見えた。
自動ドアの前に立つと、ウィーン、という機会音を出しながら扉が開いた。中に入ると、あの受付の空間が広がる。
「お疲れ様です。あっ、リンさん!」
聞き覚えのあるその声の主は、受付のレディアンだった。
「遅かったですね〜。薬草は取って来れたんですか?」
「うん、バッチリ! アリアドスに攻撃された時は正直焦ったけど、このヒトカゲのディーザが助けてくれたおかげでなんとかなったよ」
リンが笑顔で話す。それを横で聞くディーザは照れ臭く感じた。
「あっ、昼間の。ディーザさんって言うんですね。お疲れ様です」
「えっ? あっ、どうも」
レディアンはその紹介を聞いてディーザを見る。こっちに話が来るとは思っていなかったディーザは少し驚いていた。
………………………………………
しばらくの間、リンとレディアンのいわゆるガールズトークが盛り上がり、その間ディーザはベンチに腰掛けて長い時間待たされた。
「そうそう、そうなの! でさぁ・・・」
「もう遅いし、晩ご飯食べて休もうよ」
その会話の長さに痺れを切らしたディーザが一言、口を挟んだ。それに少しビクッとしてから、リンが時間を確認する。
「あ〜本当だ。じゃあまた明日ね、おやすみ〜」
「はーい、おやすみなさい」
と、話を切り上げたリンは、ディーザの所へと向かってきた。
「なんか待たせたみたいでゴメンね。今日手伝ってくれたお礼に晩ご飯もどう?」
「えっ、本当に? いや〜悪いなー、そうゆうつもりで言ったんじゃないのに〜」
「なんかわざとらしい気もするけど。まぁいいや、行こ!」
「ごちそうさまでーす」
そうして二人は、受付を抜けて右に曲がった所にある食堂へ行き、昼間のように食券を買った。またしても、リンのご飯の量は多く、定食におかずを三品もつけている。それを横目に、ディーザは味噌ラーメンの食券を一枚買った。
「あんたはよく食べるね〜」
少し離れた所から、呆れたような口調の声がした。
「おばちゃ〜ん、そんなことないよー。わたしはこれで普通だよ」
リンが返答した相手、呆れた口調の声の主は、食堂担当のライチュウだった。
「ん? 隣のヒトカゲは誰かな? あっ、分かった、彼氏でしょ?」
ディーザは少し顔を赤らめて困った顔をする。いくらなんでもこの組み合わせはないと、心の中で思っていた。
「ちっ、違うよ! まったくも〜。冗談でもそんな可能性ないでしょ?」
「確かに、あはは!」
「(自分で言い出しといて…。)なんか楽しそうに話してますけど、早くしてくれます?」」
その会話にイラっときたディーザは、なるべく無愛想に言った。
「こんなのただジョークだって。男が一々気にしないの」
イラつきを察したライチュウがあしらうように言うと、ディーザの顔はムッとした。
「かぁちゃん、出来たよ! ラーメンと定食!」
後ろから男の子の声がした。その声にライチュウが後ろを向いて、今行くよ、と返して厨房だと思われる所へと向かった。
「今の声はね、おばちゃんの子供。フーカって言うんだって」
今はそんなことに興味のないディーザは、ふーん、という感じに聞いていた。
「はい、お待ちどうさま! 残さず食べてね」
厨房から戻ってきたライチュウが、食券で買った品物を目の前に並べた。
「おばちゃんありがと!」
リンはそう言って、料理を乗せたお盆を持って空いているテーブルに向かった。ディーザも、どうも、という感じに会釈してリンに付いていった。
席に就いた二人は、いただきます、と声を揃えて言った。そして、ある程度食べ終わった頃、リンはディーザに質問をした。
「明日以降、何か予定あるの?」
食べ始めてからは、何を話せばいいかお互いにわからなかったため無言だった。その中での質問は、どんな内容でも藪から棒な質問になる。ディーザは突然の質問の答えに少し悩んでいた。
「特にはない。というか全くない」
「そうなんだ…」
それに少しの間を置いて、リンが続けた。
「じゃあさ、しばらく一緒に行動しない?」
その提案を聞いて、ディーザは飲んでいたラーメンのスープを喉に詰まらせる。
「げほっげほっ! 気管に入ったっ!」
慌てて水をゴクゴクと音を立てて飲むディーザ。そして落ち着いてから、なんで?、と聞き返すと、リンは少しだけケチャップが残る食器を眺めながら少し考える。
「何と無く、かな?」
「何と無くって…」
ディーザはその答えに何と返すべきか困った。リンはそのまま続ける。
「わたしね、探してるものがあるんだ。そのために旅をしてるの」
「その探してるものって何?」
改まってするリンの話に、ディーザは興味を示す。
「それは内緒かな?」
少しおふざけのつもりでリンが言うと、ディーザはそれを真に受けて強めに返した。
「真面目に聞いてるのに内緒っておかしいだろ。旅に誘ってるのに目的も言わn…」
「冗談冗談! わかったから…。あたしが探してるのはこれ」
いつまでも続きそうなディーザの苦言に、リンが割って入って止める。不満そうな顔をするディーザに、カバンから一枚の写真を出して見せた。
「これ…宝石?」
その中には、キラキラと輝くものが写っていた。
「宝石と言えば宝石かな。これはどこかにあるダンジョンに祀られていると言われる首飾り」
「何でそんなものを探してるの?」
間を開けずに聞くディーザに対し、リンは少しの間を開けてから説明を始めた。
「これは元々、おばあちゃんが昔探していたものなの。おばあちゃんはわたしに旅の話とかをよくしてくれたんだけど、結局これは見つけることが出来なかったって言ってた」
ディーザはただ頷いた。
「だからわたし、おばちゃんに内緒で探してるの。おばちゃんが見つけられなかったこれを、誕生日のプレゼントしたいから」
「そうなんだ。でも、リンの家族は旅に出ることを心配しなかったの?」
「実は家族にも内緒なんだ。遠くの友達の所に遊びに行って、しばらく泊まってくるって言って出てきたの」
ディーザはまた、そうなんだ、とだけ言った。そこで会話が途切れたが、少ししてからディーザがその沈黙を解く。
「分かったよ。おばちゃんへのプレゼント探し、手伝うよ」
ディーザの反応が鈍く見えていたリンにはいきなりの事で、少し驚いた表情を見せた。それを特に何も思わなかったディーザはそのまま続ける。
「まぁどうせ暇なんだし、俺でよかったら付いていくよ」
「…ありがとう」
リンがディーザの手をとってお礼を言う。手を握られたディーザの顔は赤かった………