第六話-目的は?
「ごめん、お待たせ」
「はい、じゃあ行きましょう」
薄い桃色の肩掛けバックを肩に掛けたリンは小走りでディーザの元にやってきた。それを見て、ディーザは棒読み気味に応答した。
「なんか、イライラしてる?」
「別にそんなことはないけど…(いや、イライラしてる。一体何十分待ったか。何で引き出すだけでこんなに時間が掛かるんだ?)」
「そっか。はいこれ、あなたの分」
リンは自分と同じタイプの赤い肩掛けバックをディーザに手渡す。
「どうも」
「じゃあ行きましょ!」
リンは入口の自動ドアに向かい、先に外に出て、ディーザもそれに続いた。
「あー、気持ちーな〜」
リンが背伸びをしながら言った。
外には涼しいそよ風が吹いていて、上を見れば緑が広がり、葉の間からは優しい光が降り注ぐ。ちょうど昼寝がしたくなる、そんな陽気だった。
「そういえばここ、森の中だったな。それで、その用事ってどこに行くの?」
「ん? あっち」
リンが指を差したその方角は、かなり森が深いように見えた。
まぁそれは良いとして…。
この場合、リンが方向を差すのに使ったのは、果たして指と言うべきなのか、手と言うべきなのか。それがディーザには分からなかった。
「へぇ、あっち。何しに?」
「それは行ってからのお楽しみ」
どさくさ紛れに聞き出せると思ったが、そういうところはきっちりしている。抜け目がないな、と思うディーザだった。
………………………………………
「結構奥まで来たと思うけど、まだ?」
「うーん、この辺って聞いたんだけどな〜」
リンは困った顔をして呟いた。今の言葉も、ディーザへの返事なのか、それとも独り言なのかは分からない。
「あのさ、迷ったなら迷ったでいいから、一人で悩まないで用事ってやつ教えてよ。もしかしたら何か思いつくかもしれないし」
ディーザの言葉に、一拍おいてリンが答える。
「…そうね。これ見て」
そう言うと、自分の肩掛けバックから一枚の紙を取り出す。ほぼ探すことなく取り出したのを見ると、中身が綺麗に整理されているのが伺えた。
「これ、集会所にあった掲示板に貼られてた紙に似てるけど…」
「その通り。わたしの用事はこの依頼のこと」
「依頼? じゃあ俺はその手伝いで連れてこられたの? それなら別に隠さなくても、お詫び的なことはしなきゃいけないわけだから、手伝いなら嫌がらずにするのに」
「そうなんだけど、この依頼でダンジョンに行くから…。ダンジョンだと敵から攻撃されることもあるし、きっと断ると思ったから…」
少し申し訳ないように説明するリンの言葉の中に、ディーザは少し疑問を持った。
「攻撃されるって何で? というより、前から知りたかったんだけど、ダンジョンって何? アトラクションか何か?」
「違う違う。こういう森とか洞窟とかには、不思議のダンジョンって呼ばれる場所が存在するの。ダンジョンっていうのはそれのこと。そこは入る度に中の構造が変わって、一度として同じ道にはならないと言われてるの。それと、攻撃されるっていうのは、その場所に住むポケモンは外部のポケモンに敵対心を持っているから、攻撃を仕掛けてくるってこと」
「ふーん。まぁなんとなくは解った。それで、俺にどうして欲しいの?」
すると、リンは開き直ったようにニコッとして、
「だってここ、草タイプのポケモンが多くてあたしの攻撃があんまり効かないんだも〜ん。だから炎タイプのディーザを連れてきたってわけ」
と言うから、ディーザは呆れた。
「つまり、俺は面倒な役割を押し付けられたわけだ。別に怒る気もないけど」
「そう? 良かった。あはは!」
その言葉に、リンはホッとしたのか笑いだした。
「もうどうでもいいや。早くそのダンジョンを探して、用事を済まして早く戻ろうよ」
「うん、そうだね」
そうして、雰囲気の良い会話を終えた二人は、再び歩き出した。
………………………………………
「見つけた!」
リンはすぐ目の前に出現した、先の見えない林道を手…、指で差した。
「あそこがダンジョンの入口? 周りに比べて随分暗くない?」
「確かに暗いけど、ディーザの尻尾には火が点いてるわけだし、大丈夫だよ」
「褒められてる気がしないんだけど…」
「気にしない気にしない。行こ?」
「うん…(はぁ〜あ、疲れる)」
そうして、二人は林道の中へ入っていった………