ポケモン不思議のダンジョン〜約束の風〜









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第四章-家族のかたち、仲間のかたち
第三十三話-脱走バトル
 


 白く光る十三夜の月の下で、その戦いはたった今、始まろうとしていた。

「俺が先陣を切る!」

 四対多数の睨み合いは、フレットが敵陣に切り込んでいくことで終わり、ヨープの手下達も反射的に動きだす。その手下の内訳は、イトマルが十匹強、ヤミラミが十五匹前後といったもの。

「どうやらあちらから来てくれるようです。遠慮なくお相手してあげなさい」

 ヨープがフレットに向けて手をかざすと、ヤミラミ達は駆け出し、イトマル達は糸を吐いた。
 しかし、フレットは難なくそれらを躱し、着実に相手との距離を詰めていく。

「イトマル達は俺が相手するよ! "ひのこ"!」

 フレットに続いて、ディーザも走りだすと共に技を繰り出した。相手が大勢とあって、"かえんほうしゃ"よりも広範囲に攻撃出来る"ひのこ"を選択した。それはフレットの真横を通り越し、ほとんどのイトマルに命中した。

「技の威力はともかく、少しは頭が使えるようですね」
「よそ見は危ないぞ!」

 ヨープの目がイトマル達に向いていたその一瞬の内に、ヤミラミ達も難なく躱していたフレットは本陣の目の前に到達していた。

「"ふいうち"!」
「ぐぬ!」

 それまでの加速も加わった攻撃は、ヨープを後方へと突き飛ばした。しかし、余裕の表れなのか、態勢はそれほど崩れなかった。

「"サイコキネシス"」

 そのヨープが目を青く光らせると、フレットは宙に浮かされた。

「くそ、身体の自由が効かないっ!」
「そうですね。あなた方の現実を体現しているようですね」
「うわっ!」

 嫌味ったらしい言葉を添えて、ヨープはフレットをスタート位置へと跳ね飛ばした。そして、その場で胡座をかき、数センチだけ宙に浮いて意識を高めるような雰囲気を醸し出し始めた。

「ぐっ…」
「フレット、お帰り…」
「笑えないぞ…」

 受け身を取れずに落下したフレットを、リンがフォローするように言ったが、間髪入れずにグラドがツッコんだ。
 今の立ち位置の状況は、ヨープとグラド達の間は三十メートル程の間隔があり、ディーザが少しだけ前方にいる。イトマル達全体の約半分は"ひのこ"のダメージで動けず、ヤミラミ達は一番近場にいるディーザへと向かっていた。

「"かえんほうしゃ"!」
「「"パワージェム"!」」

 縦に整列気味のヤミラミ達を見て、ディーザは"かえんほうしゃ"を放つ。それに呼応して、ヤミラミ達は一糸乱れず、光の塊は発生させ、それを鋭い岩と化した"パワージェム"を一斉に飛ばした。その互いの技が激しく衝突し、優勢劣勢を交互に繰り返しながら押し合った。しかし、数的なものもそうだが、技のタイプ相性が悪いことが加わり、次第にディーザが押されていった。

「わたしが行く! "チャージビーム"」

 このままだと押し切られてしまいそうな様子を見て、リンが援護をする。相手が群れているのこの場合、本来は"ほうでん"が有効だが、それでディーザを巻き込んでしまう可能性を考え、"チャージビーム"を紫の集団へと放った。
 それに気づいた一部の注意がリンに向く。すると、連射されていたパワージェムの量が少し減った。そのおかげで、ディーザの"かえんほうしゃ"が再び互角にまで持ち直した。
 そして、そのままリンの攻撃が数匹のヤミラミに命中すると、攻撃がさらに弱まり、ディーザが完全な優勢に立った。

「(おぉ!!)」

 炎の威力が勝り始めたそのタイミングを逃さず、一気に力を込めると、そのまま一気にその場を制した。

「「うぎゃー!」」

 ディーザの炎が数匹のヤミラミ達をそのまま包み込み、大きなダメージを与えた。

「あの二人、中々やるな」
「確かにな」

 その様子を見ていたフレットが言うと、グラドを共感の意を示した。

「はぁはぁ…」
「ディーザ、大丈夫?」

 一瞬の攻防ではあったが、一息で"かえんほうしゃ"を出し続けたことにより、ディーザは疲労していた。その乱れた息を整えている間に、ヨープはダメージを負っていない残りのイトマルとヤミラミを引き連れて、ゆっくり間合いを詰めてきていた。

「意外にやりますね。しかし、今のであなたはしばらく戦力にならないと見ました」

 ディーザとヨープの距離は約五メートル程。それはお互いの技の射程距離でもあった。

「おっと、仕返しせずに大人しくはならないぞ」

 遅れをとるまいと、フレットもディーザの元へ駆け寄った。そのあとに続いてグラドも駆け寄る。

「これで牽制のし合いは終わりだな」

 フレットが抑えた口調で呟くと、ヨープが反応を示す。

「フレット、あなたの相手は私がしましょうか?」
「当たり前だ。お前には借りがあるからな」
「そうでしょうね。残った者は他の皆さんをしっかり相手しなさい!」
「「承知っ!」」

 ヨープの指示で、まだ戦えるヤミラミとイトマル達は、それぞれディーザ、リン、グラドに当たっていった。それに応戦するために間合いをとっていくと、四人は少し離れた場所で別々にされてしまった。

「あくまで連携を取らせないつもりか…」
「安心しなさい。後で皆さん全員とお相手しますから」
「どこまでも上からでイライラするよ」

 二人は戦いに備えて同時に構えた。そして、フレットとヨープの一対一のバトルが始まった。

 その間、グラドは複数のイトマルと、リンとディーザはその両方と対峙していた。幸いにもヤミラミに狙われなかったグラドは、"メガトンパンチ"に"ずつき"で応戦していた。リンは気兼ねなく広範囲に攻撃出来る"ほうでん"を使い、ディーザは溜めの要らない"メタルクロー"と"ひのこ"を上手に使い分けて攻撃していった。
 そして、ディーザが一番に相手を倒し終えた。

「数多いよ…」

 息を切らして愚痴を零す。辺りを確認すると、リンもグラドもあと少しまできていた。
 しかし、フレットの方はそうとはいっていなかった。

「ぐ…くっ…」

 ディーザの目には、腹に蹴りを入れられて蹲るフレットの姿と、それを見下ろすヨープが映った。

「"ヨガのポーズ"をした後の私に接近戦を挑んだのが、あなたの敗因ですね」
「くそ…」
「フレット!」

 ディーザがフレットに駆け寄る。

「つ、次は俺の番だ!」
「いいですよ」

 言葉が詰まってしまったことにより、ディーザの動揺がヨープに伝わってしまった。その因果か、ヨープは余裕そのものだった。

「一発目からいくぞ! "かえんほうしゃ"!」

 息を吸い込んだディーザは、今出せる一杯いっぱいの火をヨープ向かって吹いた。

「エスパータイプに遠距離攻撃は効かないですよ」

 ヨープは目を光らせると、その念力で難なく炎の道筋を変えてしまった。行き先を失った"かえんほうしゃ"は、刑務所の壁を再び壊した。

「なら、物理技でどうだ!」

 休む間もなく、ディーザ"メタルクロー"を構えてヨープに突っ込んでいく。

「残念ながら、私は接近戦には少々自信があるのですよ」

 そう言うと、ヨープは姿を一瞬眩ませた。

「消えた!?」
「こっちです」
「えっ!? んぐっ!」

 ヨープは"テレポート"を駆使してディーザの後ろに回り込み、"ヨガのポーズ"で高めた攻撃力を活かした"しねんのずつき"を命中させた。それを受けたディーザはそのまま前方へと倒れこんだ。

「まだまだっ、くそ、動かない…!」

 ヨープの技の怯み効果が発動してしまい、ディーザの身体は言うことを聞かなかった。

「そーれ!!」
「ぐっ!」

 その動けないディーザに、ヨープは"まわしげり"で畳み掛け、

「今のは効きましたでしょう?」
「んなこと、ない…!」

 ディーザはすぐに身体を起こして言い返した。しかし、それは精一杯の強がりでしかなかった。

「そんなフラフラな状態でどうするんですか?」

 ヨープの言う通り、しっかりと立ち上がったのはいいものの、ディーザの足はガクガクとしていて余力の少なさを表していた。これは、それまでの消耗が追い討ちを掛けていることを象徴していた。

「頑張っているご褒美です。最大パワーで立てなくしてあげましょう」

 そう言うと、再び"ヨガのポーズ"で攻撃力を高め始めた。

「今だ…!」

 目を閉じたのを確認したディーザは、残りの力を振り絞ってダッシュした。その時の距離は約十メートル。この時のディーザ気力は、その間を詰める間、ヨープが気づかないことを小さな希望としていた。
 しかし、それはすぐに打ち砕かれた。

「私の間合いに入っても無駄だということがまだ解っていないようですね。いや、解っていながらもそうすることしか出来ない、といったところでしょうか?」

 もうあと一、二メートル圏内まできて、ヨープは目をカッと開き、突き出してきた片腕によってディーザは静止した。今、エスパー技は何も使われていない。あと少しの所まできて、向けられた手のひらによってその手前数センチで静止せざるおえなかった。

「遠距離も近距離も、私は対応出来ますからね。あなたには勝ち目はありません」
「くそ…」

 いつ、何らかの攻撃をされてもおかしくない状況だった。
 その時、ディーザの頭を何かが過った。

「行きますよ」

 万策尽きたかのように二メートル程後ずさりしたディーザに、ヨープが猶予を与えまいと突っ込んできた。

「予定通りだ!」

 二人の間が二メートルあるかないかの時、ディーザは瞬時に"ひのこ"を放った。

「しまっ!」

 "ひのこ"は、今まで平然としていたヨープの顔に命中した。そして、今度はディーザが間合いを詰めた。

「"かえんほうしゃ"!」

 ふところに飛び込んだディーザが、残った力を結集するように炎を放った。
 もちろん、それはヨープに余すことなく命中し、その身体は夜を照らす火と共に後方に飛ばされた。

「上手く、いったぞ」

 飛ばされたヨープを見て、ディーザは手応えを感じていた。
 そして、地面にヨープが落ちた際に巻き上がった土煙が収まっていくと、ヨープはうつ伏せで顔を挙げてディーザを見ていた。

「狙っていたな…?」
「遠距離、近距離がダメなら中間距離って思ったんだ。その反応出来ないギリギリをね」

 力尽きたかに見えたヨープに、ディーザは勝ち誇った。

「なるほど。勉強になりました」

 しかし、ヨープは少しフラつきながらも立ち上がった。その表情には、怒りの情が見て取れた。今度こそ技を出す体力が尽きたディーザには、悲壮の情が見て取れた。

「こっちに来なさい」
「は? うっ…!」

 ヨープは"サイコキネシス"で、ディーザを自分の目の前三十センチまで引き寄せた。

「これは私からあなたへの勉強料です。受け取りなさい!」
「っ…!」

 次の瞬間、力一杯のヨープの拳がディーザの腹に食い込んだ。口を含めた身体全体を拘束されたディーザは、痛みと衝撃を外に逃がすことすらままならず、それは身体よ幹までズシンと響いた。
 そこから数発、怒りに任せたパンチが浴びせられた。ディーザの意識は、外に逃げることのない痛みによって朦朧としてきていた。

「ディーザ!」
「ヨープ、ディーザを離せ!」

 ディーザとヨープの手合わせの開始から遅れること三分、リンとグラドがイトマルとヤミラミを倒し、ディーザの元へ加勢にきた。

「いいでしょう」

 ヨープは一言そう言う、ディーザを"サイコキネシス"から解放した。地に着いたディーザは、そのまま膝から倒れこんだ。

「次はあなた方とやってあげましょう」
「最初っから最後まで舐めやがって!」

 頭に血が登ったグラドは、無防備に突っ込んだ。

「愚かですね」

 グラドの攻撃を何事もなかったかのようにスッと躱し、ディーザの時と同じように、一発の拳を入れられた。

「グラドさん!」
「次はあなたです」
「くっ…身体が重く…」

 グラドが悶絶して倒れていくのと並行して、そのまま無言でリンを"サイコキネシス"で地面に押さえつけた。

「やめなさい…」
「はい?」

 その時、少し離れた場所から制止を求める声がした。

「やめろと、言った」

 その声の主は、市長ブルドだった。

「何故です? こうやって邪魔者を排除しようとしていることの何が気に食わないのですか?」
「お前のやっていることは、統治でも政治でもない。ただの暴力でしかない」

 ブルドは、一息飲んだ。

「それにお前は、私の息子に手を出した。それが一番気に食わない!」

 檄を飛ばしたブルドは三メートルほど飛び上がり、着地の時に全身の力を込めて大地を揺らし、激しい"じしん"を繰り出した。それは丘を揺らし、森を揺らし、街をも揺らした。
 その揺れに足を取られたヨープは、バランスを崩して膝を突いた。
 そして、"いかり"のボルテージが上がったブルドは、渾身の力で"ばくれつパンチ"を繰り出す。
 ヨープは避けることが出来ず、それをもらって顔を歪ませた。それは、効果はいまひとつながらも大きなダメージを与えていることを暗示していた。

「終わらないぞ! 一発では!」

 そのフラつくヨープを、ブルドは"げきりん"を発動させて畳み掛けた。そこに理性などなく、ただひたすらに、怒りに任せてヨープを攻撃した。

「もうやめろ!」

 ヨープはもう気絶寸前だった。
 "げきりん"で我を失ったブルドを、腹を抑えながらグラドが止めに入った。
 しかし、その声はブルドに聞こえてはいなかった。

「やめろよ!」

 "メガトンパンチ"で止めようと、ブルドに拳を当てたが、その威力はもはや技と呼べる程の力はなかった。
 しかし、それには見た目の威力以上の効果があった。
 ブルドは手を止め、光のない目を向けていた。そしてグラドの姿を見ると、ようやく殺気が静まっていき、目の光を取り戻し、理性が戻った。
 ブルドは、深呼吸をした。

「もう、大丈夫だ…」

 こうして、述べ十数分間のバトルは終わりを告げた。
 辺りは疲れ果てたポケモン達が散り散りに倒れて寝ていて、激しさを物語っていた………


■筆者メッセージ
バトルのみの構成。今回は距離感を大事にしてみました。


投稿日、2014.7.18
アース ( 2014/07/18(金) 18:51 )