デスマス
デスマスは人の魂なんだって。あの仮面は、生前の姿なんだって。
遺跡の中でランタンを揺らす女性に、思わず声を掛けた。喪服のような黒を纏った彼女が、異様だったから。
「何か、困ったことでも?」
「あなたは、デスマスに変じた知り人に会ったことがありますか?」
逆に聞かれた。
「いいえ、幸いにして、ありません」
「そうですか」
ランタンが揺れる。彼女の顔に陰りを作る。
彼女は静かに口を開く。
「私もありません。不幸にして、まだありません」
彼女はそう言うと、ランタンを、遺跡の暗闇の奥を突くように掲げ上げた。深い深い闇の奥は、やはり暗く深かった。そして、彼女はその暗闇の底へ、デスマスが数多蠢くであろう淵の底へ、行ってしまった。
そしてそれっきり、彼女が求むデスマスに会えたかどうか、知ることもない。