アンノーンに愛を込めて
僕の飼い主であるコータくんの元に、幼なじみのなっちゃんがやって来た。
「今日の放課後、体育館裏! 来なかったら怒るんだからね!」
と言って、去って行ってしまった。
「なんだよう、体育館裏って……子供じゃあるまいし。ま、行くか」
優しくていい子なんだけど、ちょっとばかりボンヤリしてておとぼけで鈍感なコータくんは、そう言って鞄を持って教室から出て行った。放課後だから。
そういう君も僕から見れば子供だけどね。
コータくんとなっちゃんは、皆が認める仲良し幼なじみ。
でも最近は、なっちゃんが何だかコータくんに冷たくって、コータくんは密かにヤキモキしてたのだ。そんなこと、他の人には言わないけどね。バレバレだけどね。
でもって今は、呼び出しを受けてちょっぴりドキドキしてるのだ。多分ね。
「おれ、なんか気に障ることしたかなあ? 今からその理由を話してくれるのかなあ?」
なんだかズレてる気がするよ。でも、まあ、いいや。体育館裏に着けば分かると思うしね。はい、着いた。
「なんだよ、急に呼び出して」
精一杯背伸びして言ったコータくんに、なっちゃんはひと言、「バトルしよっ!」と告げた。
「えーっ、バトル? そんなの毎日してるじゃんか」
「今日のは特別なバトルなの!」
そう言ってなっちゃんがボールから出したのは、アンノーンの I 。最近アルファベットとの対応が解明されたポケモンなのだ。
「もう、面倒だなあ。ゲンブ、悪の波導」
アンノーンのめざめるパワーをかわして、僕は十八番の技を叩き込む。
どうでもいいんだけど、コータくんが僕の名前を呼ぶと、周りの人がなぜか笑うんだよね。ヘルガーにゲンブってそんなにおかしいのかな。どうなんだろ?
「ああっ、アイノーン!」
「もういいだろ」と言うコータくんに、
「ううん、まだまだよ!」となっちゃんが二匹目のポケモンを出した。
次のポケモンもアンノーンだけど、L の形をしてる。何を隠そう、なっちゃんはファーストポケモンもアンノーンという、生粋のアンノーンマニアなのだ。
「ゲンブ、悪の波導」
「エルノーン!」
なっちゃんは倒れたアンノーンをボールに収め、次のポケモンを出す。アンノーンのO。
「ゲンブ、もっかい」
「うう、まだまだ!」
続けてなっちゃんはアンノーンのV と、E と、U を出した。けれど、僕が悪の波導で全部やっつけてしまった。
「もう、いいだろ。で、話って何?」
コータくんはなっちゃんにテクテクと歩み寄って、今にも泣き出しそうななっちゃんの背中をさすってあげた。いや、なっちゃんは話をするとはひと言も言ってなかったけど。
なっちゃんは顔を真っ赤にして、涙を必死に堪えて、プルプル震えてた。
かと思うと、急にコータくんを睨みつけて、
「コータのばかっ!」
泣きながら走って逃げちゃった。
コータくんはすっかり困った様子で、家に帰ってからもウンウン唸って悩んでた。
けれど、悩んでたら何かに気付いたみたいで、部屋を飛び出して、徒歩五分で行けるなっちゃんの家まで走っていった。
なっちゃんの家のピンポンを押す。
「はーい」
なっちゃんが出た。
「あ、ばかコータ。もう知らないもん」
「待って」
頬を膨らませて家に戻ろうとしたなっちゃんの腕を掴んで、コータくんはなっちゃんを引き寄せた。
そして、なっちゃんの耳元に何か囁いたんだ。
「……ばか」
なっちゃんはそう言って、コータくんの背に腕を回した。コータくんもなっちゃんを抱きしめ返した。
二人とも顔、真っ赤だよ。
―― I、LOVE、U。君のことが好き。
あ〜はいはい、見せ物じゃないからね。そこの見てる人、火炎放射するよ。