5話
〜1〜
あの事件から1か月後。俺達は、この世界の中心と言われてる“星の丘”に到着した。今の時刻は夜の8時。まだみんな来てないみたいだ。
「ねぇソルト。なんで“星の丘”なの?」
「それはすぐに分かるさ。とりあえず、皆が来るのを待とうぜ?」
丘の頂上は、少しだけ肌寒かった。上には満天の星空。無数の星々が光輝いている。
この前、ユーリから手紙が来た。内容は自分の電気技が使えなくなってしまったことについてだ。読んだときにはびっくりしたよ。“ボルテッカー”をフルパワーで使ったから…と言うことみたいで、少し申し訳なく感じた。それでも、今は前を見てしっかり進んでいる。だから、俺はもう大丈夫。と言うのも書いてあった。
「みんな…目標を決めてるよね」
「そうだな。これから、俺達は別れて、それぞれの道を進むことになる。だから、それをどう行くのか…今のうちに決めておかないと」
そう。みんなで集まるのは、もしかしたらこれで最後になるかもしれない。みんなが前を見て進めるように、それぞれに目標を決めさせる。曖昧なものは、意味がないから。
「ソーールーーくーーん!!ラッピーーーーン!!!」
「あっ!マーム!それにみんなも!」
マームとその他のメンバーが一斉にやって来た。サファイアとアルファが手をつないで一緒に歩いてる。どうやら、みんな合流してそのまま来たって感じだな。
マームはいつものすごいスピードでラピスにタックル…いや、抱きついてきた。
「ラッピン!」
「グェっ!!ま、マーム…そんなキャラだったけ?」
「私はいつでもどこでも明るいマームだよ!?」
更に明るさが増してるようなマームは、なにか吹っ切れてるような笑顔を振り撒いていた。
他のみんなだって、どこか一回りカワが向けたような…そんな雰囲気が漂ってる。
「よっ!久しぶりだな」
「おう。ユーリも元気そうだな。その刀…」
ユーリの右手に握られていた刀。技が使えなくなった代わりに、戦うものとして手に入れたのかもしれない。
「これか?いいだろ。俺の新しい相棒だ」
そう言ってユーリは刀を抜いた。刀には星が反射し綺麗に輝いている。後に聞いた話だけど、ユーリの愛刀の名前は“紫星天”。星の石と言う石を使って磨きあげたその刀は、天をも切り裂く切れ味だそうだ。
今のユーリには、ちょうどいい相棒…だと思う。
「それより…ここで何が起こるんだ?」
「それはお楽しみ。とりあえず、座ろうぜ?」
みんなで円になって草むらに寝っ転がる。上には雲ひとつない星空。邪魔をするものもないし、喧騒をも忘れる。
「うわぁ〜。綺麗だね」
「うん。この風景を、今でも描きたいぐらいだ」
「お兄ちゃん!お星さまがいっぱいだね!」
「そうだね。本当に綺麗だよ」
お兄ちゃん…か。サファイアとアルファは本当の兄弟なんだな…。会話を聞いてるとそう思える。俺の右隣にはレインが、左にはラピスがいる。
「…綺麗だね」
「そうね。今のうちに目に焼き付けておきましょ?」
ヒカミとシャナはラピスの隣、そのとなりにマームとシュトュルムがいて、サファイア、アルファ、ユーリと並ぶ。
俺の予想だと、もうそろそろ…だと思うんだけどな。
「来るぞ…!」
「え!?何が…?」
星が中心から一気に全方角に流れる。これでもかと言うほどの流星群が、俺たちの目に映った。
「ラピスライト現象…!」
「そっか…今日だったんだね」
ラピスライト現象が、どうして起こるのかは分かっていない。しかも、いつ流れるのかも分かっていない。周期その物がなくて、分かっているのはこの星の丘を中心にして星が流れると言うことだけだ。
「さぁ…てと!みんなこれからの目標を決めてきたよな?」
「あぁ、1ヶ月の間。十分に考える時間があったからな」
「ソル君とラッピンの目標は?」
マームが俺たちにいきなりふってきた。まぁ、ちゃんと考え抜いて出てきた答えだから、自信を持って言える。
「私は小説家になって、みんなとの旅を本にする!大変なことだけど、絶体諦めないよ!」
「俺はラピスの手伝いをしようと思ってる。だから、出版社に入ろうと思ってる」
ラピスの手伝いをするなら、きっとこれが一番正解に近いと思う。出版社ならいろんな本に触れられる。それで、ラピスにもアドバイス出来れば、これからの小説書きにもサポート出来ると思う。
「シュトュルムは?」
「僕はまた放浪の絵描きの旅に戻るよ。世界中を回って、僕の記憶を増やすさ」
シュトュルムは絵描きか…。元々、それで食ってきたんだし…これからもそれで、生きていくんだろうな。
そう言えば…シュトュルムの絵の価値は、物によるらしいが1億ポケするものもあるらしい。
「ヒカミンとシャナ姉は?」
「私達は、西州に戻って傭兵の仕事をするわ」
「お城の警護の仕事が来たの…。これからは、暗殺家業はやめにしようって思ってる」
暗殺は止めて、真っ当な仕事をするのか。大きな一歩を踏み出せたんだな。良かった…。しっかりと自分達の未来を決められてる。
「そう言うマームはどうするんだ?」
「私はね!?これから旅をしようと思ってるんだ!だから、ユリユリとレーさんと旅に出るよ!」
「何も無い、気ままな旅をして、本当にしたいことを見つけようと思うんだ」
「確実な物じゃない…。それでも、私達はなにかつかめる気がするんだ」
ユーリにレイン、マームは自由な旅か…。それも良いかもしれない。新しい出会いに、新しい発見。それが楽しくて仕方ない。俺もそうだからよくわかる。
「サファイアはどうするの?」
「僕は、アルファの為に空気の綺麗の所を探すよ。そこに住もうと思ってるんだ。だから、見付けるまではユーリ達と一緒かな」
サファイアはアルファの為に、空気が美味しいところを探す旅か…。優しいサファイアっぽい考えだ。大切な家族のためだから、自分の努力を惜しまない。
「そっか…みんな、それぞれの道を決めてるんだね」
「これからは、それぞれの道を歩んでいくんだな」
「でも、僕。なんだかまた会えるって思えるんだ。根拠なんか無いけど…また会える気がして」
俺もそんな気がする。今は離ればなれになるけれど、この思いでは一生消えない…。その思い出を糧にして、俺達は新しい足跡をつけていく。これからの未来は…自分自身で決めるんだ…!
いつまでも流れ続ける流れ星に、俺は願いをかけた。みんなの未来が…明るいものになりますように…。そう心のなかで呟いて。心地のいい風が俺達の背中を押してくれる。俺達は…心で繋がってる。そう思えた。
「ソルト…ありがとう…!」
ラピスのその声が、風の中に消えていく。最後の時まで…俺達は笑顔で見守っていた。