4話
〜1〜
青い空と白い雲の下。俺とラピスは各地を回って旅をしていた。今回は、東州からじゃなくて、西州から。時間もそんなにかからなかった。今回は思い切って馬車を使ったからな。
「ふぅ。やっとここまでこれた…」
俺達が来ているところは、初めて旅に出てついた村。そして、俺の元故郷だった村だ。今は、懐かしいって言う感情はどこにもないけど、でも、この地の空気が好きなのは今も変わっていなかった。
「やっとってもなぁ。一週間しかたってねぇだろう?」
「まぁ、歩ってた頃よりはまだ楽だったけど。でも、やっぱり長く感じるのは当たり前だよ。旅行でも一週間なんて滅多に無いのに…」
まぁ、そうだな。俺たちが歩いてきた道のりを考えてもかなり長いけど。普通に考えたら馬車を使う旅も十分長いんだもんな。
「今度こそ。この村の宿に泊まろうね?」
「そうだな。そう言う約束だし、このトロフィーも早く置きたいし…」
「置きたいって…もう置いてるじゃん。地面に」
「置いてねぇし!地面ギリギリで浮いてるから!」
トロフィーと言うのは、俺が初めてバトルをしたバトル大会の優勝トロフィー。どうやら、村が壊滅する直前に避難したときに、宿主が抱えて逃げてくれたらしい。こんなに重いのによく走って逃げれたよ…。
「あっそ。なら良いけど。ほら!早くいこ!」
「おいこら!走るなって!俺走れねぇんだから!」
ラピスは勢いよく宿のドアを開けると、宿の中はなんだか賑やかだった。みんなが笑顔って言うか…明るい。そんな感じ。
「いらっしゃいませー!って!あの時の姉ちゃん達!」
「ライト君久しぶり!約束通り泊まりに来たよ!」
“ピチュー”のライトが俺たちを向かい入れてくれた。奥から、ライトのお父さんとお母さんが顔をだした。二人とも元気そうで何よりだ。
「その節は、息子を助けていただきありがとうございました」
「いいえ。俺たちも役に立てて良かったです!」
丁寧にお礼を言われると、なんだかむず痒かった。そこまで大したことは…してないと思ってるから。みんなに、胸をはれ!とか言われるけど、俺だけじゃ何も出来ないのが分かってるからこそ、素直に喜べない。本当の英雄は、俺じゃなくて、みんななんだ。
「ソルト?」
「うん?なんか言ったか?」
変な考え事をしてたせいで、どうやら聞き流した…みたいだ。とくに何か話してたのかもしれないし、俺の顔をみて…なのかもしれない。
「特に何も話してないけど。なんか…変にしかめっ面だったから」
「考えごとしてたら、こうなっちまってな。わりぃ」
「大丈夫!私、隣の部屋だから。何かあったら声かけて?特にご飯!」
はいはい。っと返事を返して、部屋の中に入った。ベットっと、机に、その上に乗ってる花瓶。泊まるには十分。あっ、壁に絵が立て掛けられてる。作者は…シュトュルム・ラヴェイツ。シュトュルムかよ!色んなところに絵を見かける。
「まぁ、今は全然拒絶反応が起きないけど…」
そんなことを呟いて、もし届いてたら。きっと怒られるなと思いながらトロフィーを置いて、ベットに寝っ転がる。他にすることもないし…な。
…………そう言えば、初めてここに来たときによれなかったあの教会に行ってみるか。あの教会は、唯一壊滅しなかった、俺の懐かしい物だ。…よっていこう。父さんと母さんに、挨拶しないとな。無くなったとは言え、ここは…俺の故郷だ。
「ラピスには…まぁ、良いか」
ラピスに黙って、教会に行くことにした。俺たちの部屋は2階にあるお陰で、窓から教会が見える。
一階下りてライトに、散歩にいってくるよと言って外に出た。やっぱり、ここの空気は美味しい。
まだお昼過ぎだから、みんな畑仕事で忙しそうだった。お茶の葉のいい香りが漂ってくる。ここの紅茶は美味しいって聞いたことがある。東州の首都“メラニウムス”で高値で売られてるらしい。
「姿形は違くても…どこか懐かしい感じがするのは、ここの空気が変わらないから…なんだろうな」
そんなことを呟いて、少しだけぶらりと散歩したら、教会に辿り着いた。俺の父さんや母さんたちは、森の中に埋められている。お墓は存在しないけど、石碑は教会の中に作られたらしい。
中に入ると、ステンドグラスがキラキラと輝いていた。
「中も変わってないな…」
サーナイトの象が祈りを捧げるように佇んでる。この村での結婚式は、この教会でやる。きっと神秘的なんだろう。父さんと母さんは、ここで結婚式をあげたんだろうか?今では、それさえも確かめられない。
石碑に近づいて、少しだけ触れた。冷たい…。まぁ、石だから当たり前か。
「ただいま。父さん。母さん。やっと…終わったよ」
今まで起こったこと全てを報告した。いくら話して足りないくらいで、時間なんてあっという間に過ぎる。俺の目標は尽きてしまった。だから、これから次の目標を達成することを決めたんだ。目標はもう決まってる。
「俺…うまく伝えられるかな?父さんの息子だから、カッコいいこと言えないし…。それでも…俺に勇気を分けて。最後の…お願いだから」
時間帯的に夕方だ。もう、ご飯の時間。それでも、帰る気になれなかった。いや、待っていたかったんだ。きっと、来てくれるって分かっていたから。
教会の扉が開く音が聞こえて、後ろを振り返った。そこには、いつものラピスの顔があって。こっちに近づいてくる。
「ソルト。もうご飯の時間だよ?」
「分かってるよ」
「私、教会って初めて入ったけど、すっごく綺麗だね」
「うん」
本当は、もっと綺麗な物がすぐそばにあるんだけどな?でもそんなこと、口が裂けても言えない。ハズいだろ。
「なぁ。この前、お前さ。作家になりたいって言ってたよな?」
「うん。皆にこの事を…世界のことを知ってほしいから」
「それがお前の目標なら、俺にその手伝いをさせてくれないか?」
え!?とラピスは驚きの表情をした。そう、これが俺の新しい目標。ラピスの手助けをすること。やっと…気づいたから。
「い、良いの!?」
「お前だけに任せたら、飛んでもないものが出来そうで怖いからな」
「それは言わないで!」
「それと…さ」
「なに?」
……そこからの沈黙が長かった。切り出せても、言えないなら意味がない。そんなの分かってる。でも、口から出てこないんだ。こう言うときって、そういうもんだろ?
「一回しか言わねぇから、ちゃんと聞いとけよ!!?」
「うん…?」
「俺!!!……………俺!………お前の事が好きだ!だから、これからも、お前の側に…俺をいさせろ!」
言い切った後には息切れをしていて、何気に大仕事だった。でも、ラピスは方針状態でピクリとも動かない。すると、次の瞬間に大号泣し始めた。
「え!?な、なんで泣くんだよ!?」
「だってぇ……うっぐ!ひっぐ!」
「え!?えぇ!?」
俺が戸惑ってると、ラピスは自力で泣き止んだ。ちょっとだけ涙目だけど…。そして、笑顔でこう言ってれた。
「…ありがとう。これからも、私の側にいてね?」
「…っ!」
ラピスが見せてくれた笑顔が、どんなものよりも綺麗で…涙も、何もかもすべてが…愛おしくて仕方ない。
「当たり前だろ!?」
「フフッ!ソルト。顔赤いよ?」
「うるせぇ!!」
紅く染まる空は…ラピスの炎と同じ色だった。沈む太陽は、また明日昇ってくる。例え明日には太陽が無かったとしても、俺はラピスとなら生きていけると思った。そう…思えた。
〜2〜
次の日。俺たちは“ミトライル”。俺達の町に帰ってきた。そう言えば言ってなかったけど、あの事件からすぐに障壁は取り壊された。俺たちの世界にあった邪魔な壁はどこにも無くなったんだ。
「ただいまーー!」
「お帰りなさい。ラピス。ソルト君」
真っ直ぐ家に帰ると、ママさんとパパさんが向かい入れてくれた。そうそう。あの事件が終わってから、家に帰えったとたんにママさんのお説教が始まった。でも、その時にママさんは泣いていて。ラピスも同時に泣いていた。…え?俺?俺は男だから泣かねぇよ。
「旅はどうだったかい?」
「充実してましたよ?今回は馬車だったんで、この前よりも時間は短かったですけどね?」
「そう。あっ、そうそう!市長が後でいつものところに来てくれっていってたわよ?」
「じゃあ行ってみるね!?ソルト、行こ!?」
「こら!先走るなって!あっ!いってきます!」
「「いってらっしゃい」」
さっき帰ってきたばっかりなのに、またすぐに出ていって…忙しい日々だ。もう少しゆっくりしたいんだけどな。
ラピスと俺は、表参道を抜けて路地裏にある遊び場までやってきた。相変わらずここはジメジメしている。
「あっ!ソルにぃとラピねぇ!」
「思ってたのよりも、3分遅れだな」
「ラピス!お帰りなさい!」
「あら。なんか…大人の女性に近づいたんじゃない?」
「いい香りもするしね」
「えへへ。そうかな?」
“シャワーズ”のミサキ。“ブラッキー”のヨル。“エーフィ”のアメラ。“グレイシア”のレイラ。“リーフィア”のサマル。
「俺には無いのな…」
「大丈夫さ。俺たちはお前の味方だよ」
「………おかえり」
“ブースター”のヒビキ。“サンダース”のワタル。7匹で俺達はイーブイセブンと呼んでいる。俺が旅に出る前に、この7匹と…主にヨルと少し事件があったが、それも今になっては良いことだったと思ってる。
ヨルはこの町の市長になり、ヒビキは副村長になった。俺やヒビキの言葉で、ヨルは市長になることを決めたらしい。ヒビキはヨルを支えるために、今ものすごく頑張ってる。
「ソルト。改めてお礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
「いいよ。お礼なんて!俺たち友達だろ?そんな堅苦しい礼なんて、いらねぇよ」
「そうだな。ありがとう」
「ねぇラピス。あんた…ソルトとはどうなったの?」
「ど、どうって?」
「それは…あれよ」
女子メンバーから、なんか…いや感じがする。オーラって言うか…何て言うか…怖い。いいや。どうなっても。本当のことなんだから。
「ミサキ…少し大きくなったか?」
「ソルにぃそんな短期間に大きくならないよ…」
「会わないとそんなもんさ」
「……うん」
あぁ。楽しいな。この会話。この雰囲気。気楽になれる。何も心配する必要がない。毎日が…楽しいってこう言うことを言うんだな。6歳の頃の俺からしてみれば、絶対にあり得ないことだ。あの頃は、何もなもに絶望し、誰も信じられなくて、希望も無かった。気楽になんて、夢のまた夢だ。それが今は笑顔でいられる。
「よし。じゃあ、今日もパーっと遊ぼうぜ!?」
「仕事ないのか?」
「全部終ってるから大丈夫さ!さぁ、いこうぜ!?」
ヒビキが先頭にて走る。俺たちの未来は、これからも明るいものに…なる…かもしれない。でも、みんなで乗り越えられないことなんて、この世にはなに一つ無いって、思ってる。みんなで、力を合わせて、どんな困難だって乗り越えていこう。
うん。それで、いこう。
太陽はいつも俺たちを見守ってくれてる。これからも…ずっと。