2話
〜1〜
どこまでも続く空の下。レイン、ヒカミ、シャナの3匹は、レインの家で修行の生活をしていた。
「「“火炎放射”!」」
2階建ての山小屋の前で、レインとヒカミの“火炎放射”がぶつかり合う。昔…と言っても、多分今も師弟関係にある2匹の実力はかなりあった。ただし、レインの方がバトル慣れしているのは確かだ。
元々、メラニウムス帝国の大佐として戦場にも出たことがある。その時は、まだレインが19の時だった。
「そこまで!」
レインの声が山彦のように響く。体からにじみ出る汗が、太陽の光でキラキラと輝いていた。
ヒカミの耳元にある小型のトランシーバーから音が聞こえ、ヒカミがそれにたいして言葉を返す。
「師匠。シャナがお昼だって」
「そうか。じゃあ、お昼休みにするか」
山小屋の中に入ると、美味しそうな匂いが充満していた。テーブルの上に料理が置かれていて、シャナがキッチンから新たな料理をもって出てきた。
「お帰りなさい。ご飯出来てるから、手をあら…」
「「もう洗ってきた…!」」
そう言って、2匹同時にシャナの前に手を見せた。よっぽどお腹がすいているのだろう。と言っても、いつものことだけど…。
「そ、そう?ならご飯にしましょう?」
「「「いただきます!」」」
ガツガツと勢いよく食べ始める。レインにしては珍しい…訳でもなく。ここ最近はこんな感じだ。
礼儀ただしくともお腹はすく。それに、修行をもっとしたいと言う気持ちがそうさせているのかもしれない。
「も、もうすこし落ち着いて食べたら?」
「時間は…!限られ…!てるからな…!今のうちに…!力を…!つけるんだ…!」
「食べるか喋るかどっちかにしなさい!」
ごくっと飲み干して、ようやく落ち着いた。
シャナの料理は、ユーリにも負けないぐらい美味しい。だからもっと食欲がわく。
「そう言えば…これから2人はどうするんだい?」
「私達は、西州に戻って警護の仕事をすることになったんです。これからは、まっとうな仕事をして生活していきます」
「そうか…それは良かったな。私も影なから応援しているよ」
「師匠は…?これからどうするの?」
ヒカミが不意にしたこの質問で、レインは難しい顔つきになってしまった。ヒカミの為に今は修行を手伝っているが、1カ月後にはヒカミもいなくなる。そのあとどうするか、未だに決められていなかった。
「さぁ…な?気ままにゆっくりと時間を過ごすのも悪くないが…。まだ、旅をしたいと言う気持ちもある。その辺は、後々考えていくとするよ」
「そっか…。ねぇ師匠!また組み手お願いします!」
「いいぞ?少し本気を出してやろう。いつもより激しいからな?」
「うん!」
2匹はドアから飛び出して、山の中に消えていった。
シャナとヒカミの出会いも、倒れていたヒカミを助けたところから始まった。そう思えば、ヒカミとの付き合いも、大分長くなる…。これからも、ヒカミは私と一緒に…いていれるのかしら?
そんなことが、シャナの頭を過った。そこに、ヒカミが戻ってくる。
「シャナ!」
「なにヒカミ?忘れ物でもしたの?」
「あのね!……あたし、これからもずっとシャナのパートナーだから!」
「…っ!?」
「だから、これからもあたしと一緒にいて!一緒に仕事して、一緒にご飯食べて、一緒にお話ししよ!?あたし、シャナが側にいてほしい!と言うことでいってきます!」
それだけ言って、ヒカミは山の中に消える。
…と思ったら、レインと共に帰ってきた。
「え!?いったんじゃなかったの!?」
「師匠が忘れ物したの…だから、帰ってきたんだよね」
「…そう」
シャナは、思いきってさっきの事について話すことにした。私の答えは決まってるから…。
「ねぇヒカミ?」
「うん?どうしたの?」
「これからも…私の側に居てくれる…?」
その一言は、ヒカミの顔を笑顔にさせるのに、十分なものだった。
「もちろん!これからもよろしく!」
「えぇ!」
「すまない!遅れてしまったな!」
ちょうど良いタイミングで、レインが瓦を担いで戻ってきた。
瓦を使うらしいが、どうしてなのかはつっこまないで置こう。うん。そうしよう。と、シャナとヒカミは同時に思ったことを、レインは知るよしもない。
「おーーい!!レーさーん!ヒカミーン!シャナねぇさぁーん!」
「あ、マームとシュトュルムだ」
マームとシュトュルムが、山を登って3匹の元にやってきた。前に遊びにいくから、家を教えてほしいと、マームが言っていたのをレインは思い出した。
「久しぶりー!遊びに来ちゃった!」
「みんな元気そうで良かったよ。でも…ちょっとお邪魔だったかな?」
シュトュルムは、レインが背負ってる瓦を見ながらそう言った。
レインはい急いで瓦を後ろに隠して、苦笑いを浮かべる。
「だ、大丈夫だ。気にすることはないさ」
「…そうかい?無理することはないと思うけど…まぁいいか」
「マーム達は、今までどこを回ってたの?」
「今までよったとこ!あ、ソル君たちにあいさつも兼ねていってきたんだけど…サーファンとユリユリが見つからなくて…」
「まだ帰ってきてないのかな?でも大丈夫だよ!あの2匹なら!」
「だよね!」
そう───多分仲間たち全員がそう思っていたと思う。
でも…そうじゃなかったんだ…。現実が確実にユーリを追い詰めて…苦しめていたんだ…。それは、僕とユーリの間に隙間が生じるぐらい…。
いや、隙間と言うよりも分厚い壁が…隔たれていた。
「ユーリ…」
「悪いサファイア…しばらく一人にさせてくれ」
ユーリはそう言って自分の部屋にこもった…。
強い雨が降りしきるなか…僕は何も言えなくて…。何も出来ないまま───
バタン!───ユーリを見送った。