12話
〜1〜
少しずつではあるが、アファールに確実に近づいてはいた。
後ろで、トルネロス達がギラン達を食い止めてくれている。この努力を無駄にするわけにはいかない。なんとしてでも、この穴から引きずり出す。そう思っていた。少なくともアファールの前に行くまでは。
着実に近づくにつれて、ものすごい恐怖が襲ってくる。目の前のものに圧倒される…。そんな感じだった。こんなの相手に、本当に勝てるのか?ギラン達を相手にしても歯も立たないのに…。俺が、こんなのを動かせる訳がない。
「…怖いですか?」
「っ!?」
スミラルが不意に話しかけてきて、驚いてしまった。
北風のように美しいポケモンは、背中に乗せている勇敢な未来あるものに話しかけた。その一言は、少しだけ安心感をもたらし、気分を楽にする。
「わ、分かります?」
「えぇ。顔が強ばっていましたから…。きっと、そうではないかと」
やっぱり顔が強ばっていたのか…。不安からか、ものすごく怖い顔をしていたに違いない。誰が見てもきっと分かっただろう。以上なぐらい空気の読めない奴でない限り。
スミラルは、優しく俺に話続けてきた。
「無理もありません。相手は、全てを産み出した創造神。正直に申し上げますと、私も勝てるかどうか心配なのです」
「そう…なんですか?そんな風には見えなくて…」
「誰にだって恐怖と言う物は存在します。しかし、その恐怖はけして悪いものではありません。自分の弱さを知るためにあるものです。そして、その弱さを知ったとき、どんな者であったとしても、強くも優しくもなれます。弱さを見つけたら、強さと優しさに変えればいいのです」
説得力のある言葉に、また少し安心した。1秒ごとに、恐怖が勇気に変わっていっている気がする。
俺は…みんなのために頑張らないといけない。今思えば、この旅も自分のための旅だった。半分復讐の為の…。みんなに散々迷惑かけて、いっぱい大切なものを貰ったから…。この恩は返しきれる物では無いけれど、ひとつひとつ返していこう。その為には…今を生きる必要がある!こんなところで死んでたまるか!
「ありがとうございました。少し、いや。大分変われたような気がします」
「貴方は変わっていますよ。それに、あの言葉は自分に言い聞かせるためでもありますから…。さぁ、行きますよ!覚悟は良いですね!?」
「はい!お願いします!」
スミラルはスピードをあげてアファールに近づく。敵を見つけたからなのか、アファール自身も攻撃してきた。
上から降ってくる流星群のようなものを避けながら、アファールの後ろをとった。
「よし!“ハイドロカノン”!!」
後ろからの“ハイドロカノン”で、この穴から無理くり追い出そうと言う計画だ。下手したら自分が危険だが、これしか方法がない。
すると、下の方から陰がいきなり攻撃してきた。スミラルは体勢を崩してしまい、思いっきり振り落とされる。
「しまった!」
スミラルのその声が聞こえたときには、かなり離れてしまっていた。
あの影を操っているのはギランに違いない。このまま、一体どこに行ってしまうんだろうか?どこまででも続いていく空間に、ひとり投げ出されながら考えていた。
〜2〜
一方、究極技を修得しようとしているラピス達は、ソルト達が頑張っている間、必死に修得しようとしていた。
その時に、ラピスはどこか胸騒ぎがしていて、どうも落ち着かない。修行になんか集中できる状態ではなかった。
「ラピス?大丈夫…?」
ヒカミがそっと話しかけてきた。レインもそれに気が付いたのか、側に近づいてきてくれる。ラピスは、この胸騒ぎを2匹に話すことにした。
「うん…。なんかね?胸騒ぎがするの…。全然落ちつかなくて…」
「あまり、最悪な事は考えない方がいい。今は、ソルト達を信じるのが、もっもじゃないかな?」
「分かってる。それは…分かってるんだけど…」
ソルト達を信じてない訳じゃない。それでも、嫌な予感が頭を過ってしまって…。不安な気持ちがどうやっても離れない。
早く究極技を修得しないといけないのに…これじゃあ、なんのためにソルトが私に任せてくれたのかが、分からないじゃん…。
「ソルトなら大丈夫だよ。私達が、信じないと…ソルトも頑張れないじゃん。だから…信じよう?」
暗くなっていた私の心を明るくするように、ヒカミが優しく言ってくれた。その言葉が、少しだけ落ち込みから救ってくれたように感じる。
「そう…だね。私達は、私達の出来ることをしよっか。ソルトを信じて…」
「よし。そうと決まれば、究極技の特訓といこう。時間も限られている事だしな」
「「うん!!」」
技マシンで覚えられたとはいえ、使えなければ意味がない。みんなそれぞれで準備をしていた。
ユーリとサファイアは、それぞれの技を一緒に特訓している。マリルが究極技を覚えるのは、この中で一番困難なことだ。元々、これは特別なポケモンでしかできない技。特別なポケモンと言うのが、一体なんなのかは分からないが、取り合えず、困難だ…と言うことだけ伝えておこう。すると、レインがユーリに呼ばれて行ってしまった。アドバイスを貰うためだろう。
マームとシュトゥルム、そしてシャナか一緒に特訓していた。見ている側としてはものすごく異様に感じるが、これが事実だ。珍しいコンビと考えてもいい。
マームは“ハードプラント”を修得しようとしている。元々器用な性格なので、すぐにコツを掴んだようだ。
シュトゥルムは、マームを“ハードプラント”を見て、必死に“ものまね”をしようとしている。容易に出来るようなものではないが、シュトゥルムもマームと同じぐらい器用なので、もう少し…と言った所だろうか。
シャナは、一番先に出来ていた。これまでの仲間との絆がシャナを“メガサーナイト”に進化させる。もしもの時の為と取っておいた新しい技、“ムーンフォース”。これを使うときが、今以上に相応しい時はない。
「みんな頑張ってる。私も必死にならないとね」
「でも、ラピスが戦う所…もしかしたら始めてみるかも」
「え!?そ、そうかな?」
ヒカミから飛んできた言葉に少し驚くが、よく考えてみれば…確かにそうなのかもしれない。
私は、どちらかと言えば、戦うって言う感じじゃないからね…。ヒカミの言いたいことも分かるような気がする。イメージ的にないって感じなんだよ。きっと。
「ちゃんとよく見るとね?ラピスは、結構バトルに向いてるかもしれない」
「そうなの?私、バトルとか苦手だから…。よく分かんないや」
「ソルトと一緒にいるからこそなのかもね。見てるだけでも、かなりの効果があるから」
ソルトと一緒に…。まぁ、確かに私とソルトは家族だけど…。たまに、ソルトの修行についていったりとかもしていたから…なのかな?きっと、私が戦ったところなんて、指で数えられるぐらいしかないと思うな。
そんなことを、少しヒカミと話していたら、レインがユーリ達の所から帰ってきた。
「待たせてしまったな」
「ううん。大丈夫だよ。さ、練習しよう!」
「うん。究極技を完成させないと、ソルトに怒られそうだもんね」
「全くだ」
少しだけ笑って、スゥーっと気持ちが楽になったように感じた。
不安が完全に取れたわけじゃないけど、ソルトの事を信じる気持ちの方が大きくなっているのは、確実に感じていた。
……大丈夫、だよね?ソルト。
〜3〜
………ここは、どこだ?
……俺は…誰?
…分からない。ここがどこで、俺が誰なのかなんて、もうどうでもいい。このまま、楽になれたら…どれだけ良いんだろう?このまま、楽になりたい。もう、なにも考えられない。
俺は、暗闇の中をずっと、何もない音も光も何もない世界に悠々と漂っていた。
「
…ト」
誰だ?誰かが…何か言ってる…。
「
ソルト…」
ラピ…ス?俺の…家族。
「ソルト。諦めるの?」
「諦める…?何を…?俺にはもう…何もない。目標も尽きた。家族も、友達も、親戚も…みんな俺の前から消えてった。俺は…1人なんだ。俺には…何も」
「今の家族は?友達は?仲間は?まだ消えてないよ。みんな頑張ってる」
仲…間。ユーリ。サファイア。レイン。シュトゥルム。ヒカミ。シャナ。マーム。俺の…仲間。
「そうだよ。みんな待ってる。ソルト、大丈夫。怖じけずいたら…私達が背中を押すから。一緒に…行こう!」
……そうか。
俺は…皆の為にって。俺がなんとかしなきゃって。俺が守るんだって。ずっと思ってた。でも…いつも守られてたのは…俺の方じゃないか!
暗闇に差したひとつの光に手を一生懸命に伸ばして、俺は意識を取り戻した。
目の前に、トルネロス達が戦っているのを確認して、やっと自分がスミラルの背中の上に乗っている事が分かった。
「大丈夫ですか?」
「すみません。意識が完全に飛んでたみたいで…。もう大丈夫です!もう1回お願いします!」
「…分かりました。行きます!」
スミラルは、また勢いよくアファールの後ろに周る。
今の俺にはもう、迷うものなんて無い…!目標も、家族も友達も親戚も…俺は失なった。でも、今がある!今の仲間が、家族がみんなが待ってるんだ!
「“冷凍ビーム”!」
アファールの背中に“冷凍ビーム”を当てる。凍りつくが、直ぐに割れてこちらをみた。
やっぱりそんな簡単にはいかないか…。
そこに、バルアが攻撃してきた。今のは…“亜空切断”。空間を引き裂きながら、技が消えていった。
「おいお前ら…!そろそろいい加減にしないと…マジでぶった切るぞ!!」
「バルア…。殺るなら一思いに殺れ」
「わぁってるよディザン。俺をここまで本気で怒らせたんだ…!冥土の土産に良いもの見せてやるよ!」
バルアがこちらに向かってやって来る。良いものって…なんだ?まだなにか残ってるって事だよな…。なら。
「使わせる前に終わらせる!“ハイドロカノン”!!」
俺が放った“ハイドロカノン”を綺麗に避けながら近づいてくる。俺が“ハイドロカノン”を使えるのにも限度って物が存在する。使えてあと…3回だな…。全力でいくなら、後1回しか使えない。
どうする?考えろ俺…!何か策が…何か…!
「避けんじゃねぇぞ…!避けて痛い目を見るのはお前らだからな!“ドラゴンクロス”!!」
バルアの放った技がこっちに向かって来る。ここまで近づいてきてるんだ。避ける事は出来ない。
どうする…!?このままじゃ…なんのために俺がここまで来たか…分からないじゃないか!ダメだ…!あいつが泣くところなんて…俺はもう2度と見たくない!!
「こんなところで…負けてられるかぁぁぁぁぁ!!!!」
「っ!?これは!」
無我夢中で放った技が、バルアの技とぶつかり合い、一気に相殺した。
…?なんだったんだ…?今の技…。
「何…!?」
「
“絶対零度”…」
「え…?」
スミラルがボソッと呟いたその一言に、俺はビックリした。“絶対零度”なんて技、俺は持ってないし、そもそも使えない…。なんで…俺が?……父さん?
父さんは、確か…使えてたような気がする。もしそうなら、俺に力を貸してくれたのか?……ありがとう。
心の中でそう呟いて、前を向いた。今の俺には、後ろを振り返る余裕なんてない…!
「こんの……クソガキがぁぁぁ!!!消す…!空間の塵にしてやらぁぁ!」
またバルアが近づいてきたかと思ったら、バルアの影から手の用な物が出てきて、バルアを捕まえた。
影を操るって事は…ギランの仕業だよな?
「いい加減にしろバルア…!これ以上この空間を壊すなら、いくらお前でも容赦はしないぞ…!」
「離せギラン!俺は、あのガキを消さないと気が収まらないんだよ!」
「良いから落ち着け…。これ以上壊したら、この空間そのものが消えて、それこそ私達が空間の塵になるぞ。それともお前は、私に空間の塵にしてほしいのか?」
「…っ!わ、わぁったよ…」
ギランは強烈な睨みで、あんなに暴れていたバルアを大人しくさせてしまった。ディザンは、ボルトロスと戦いながらその様子をしっかり見ている。
バルアを大人しくしてくれたって事は…これはチャンスじゃないか!
「スミラルさん!お願いします!」
「はいっ!」
スミラルがまたアファールに近づこうとしたときに、いきなり止まった。いや、止まったと言うよりも止められたの方が正しい。スミラルの影から伸びる手の用な物が、スミラルを影の中に引きずりこもうとしている。
「っく!」
「私がお前たちを見逃す訳がないだろう…。邪魔なゴミは、早々に掃除しておかなければな。そのまま闇に飲み込まれて、一生闇の中でもがき苦しめ…!」
少しずつスミラルの体が闇の中に引きずり込まれていく。暴れれば暴れるほど影の中に飲み込まれて、このままじゃ動く事も出来ない。
「…ソルトさん」
「は、はい」
「私を踏み台にして行ってください…!」
スミラルのその一言が何よりも一番驚いた。つまり…それって、俺にスミラルを見捨てろって言ってる事だろ!?
「な、何いってるんですか!?そんなこと、出来るわけが──」
「このままだと!2人とも闇の中に引きずり込まれてしまう!そうなったら…一体誰がやるって言うんですか!!貴方には…守らなければならないポケモン達がいるでしょう!行ってください!!!!」
「っ!!」
「早く!!!」
スミラルに言葉を返さないといけない…。きっと…その一声で運命が変わると思う…。でも、俺は…俺の答えは変わらない!
「…分かりました」
スミラルはゆっくり俺に微笑みをかけてくれた。そして…俺は──────
スミラルの体を思いっきり引っ張る。
「っ!?そ、ソルトさん…?」
「すみません。俺…!やっぱり誰かを見捨てるとか出来ないです。守らなければならないポケモン達がいるって、言いましたよね?それは…俺にとって、貴方も入ってます…!だから…!俺は…貴方を見捨てる事は…出来ない!!」
そう。これが俺の選択…。俺は…自分にとって大切なものを、誰一人として失いたくなんかないから…!だから…みんな守って見せる!
すると、ギランがこっちに向かって来るのが見えた。良いじゃねぇか!これは好都合!
「来いよ…!俺の怒りを全部ぶつけてやる!“冷凍ビーム”!」
「“竜の息吹”!!」
“冷凍ビーム”と“竜の息吹”がぶつかり合う。やっぱり伝説のポケモンのだけの事はある。力はけた外れだ…!でも、俺はなにがあっても…絶体に諦めない!!
すると、そこにもうひとつの“冷凍ビーム”が俺の“冷凍ビーム”に合わさって、ギランの技を押し返した。ギランに“冷凍ビーム”が当たり、体が少しだけ凍りついた。
「全く…貴方はいつもこうなのですか?」
もうひとつの“冷凍ビーム”を放ったのは、他でもなくスミラルだった。スミラルのの影から伸びていた手の用な物も無くなり、スミラルは陰から解放されて、俺にそう問いかけてきた。
「…それが俺ですから!」
俺もそう問いかけに笑顔で答える。これが…俺のやり方…!よし!こうなったらとことん行くぞ!
「行きますよ!しっかり捕まっててくださいね!」
「はい!」
スミラルはアファールの背中に更に近づいた。さぁ…最後の戦いだ!
自分自身に気合いをいれて、アファールに向かい合う。
「“ハイドロカノン”!!!」
勢いよく“ハイドロカノン”がアファールに直撃し、そのまま穴の外に追い出して、地面に叩きつける。
そのままスミラルと共にみんなと頃に戻ってきた。みんなの方を見て、一番驚いたのはシャナの姿が変わっているところだ。あれがメガサーナイト…。
「ソルト!」
「待たせて悪かった!みんな準備は出来てるか!?」
「もちのろんさ!」
ラピスの元気なかけ声で、みんな自信満々な顔つきになった。なんとかみんな間に合ったみたいだ。
後ろの方でアファールがムクッと起き上がり、こちらの方を見つめていた。上の方でも、トルネロス達とギラン達がこちらに戻ってくる。トルネロス達の手にはしっかりとあの石盤にはめ込むための石が握られていた。そして、それを石盤にはめ込み、封印の扉が開く。
「よし!準備完了だな!じゃあ…行くぞ!!」
「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」
ギラン達がアファールの前に行き、完全防備でこちらを睨んでいる。真っ向勝負で行ってやるよ!俺達の思い…全部ぶつけてやる!
「「“ダブルハイドロカノン”!!」」
「「“ダブルハードプラント”!!」」
「「「“トリプルブラストバーン”!!!」」」
「“ムーンフォース”!!」
「“ボルテッカー”!!!」
放ったすべての技が合わさって、ユーリと共に真っ直ぐ向かっていく。完全防備のギラン達に当たり、少しずつ押していく。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
「っく!?」
ユーリの勢いがある攻撃で、ギランが少し体勢を崩すのを見かねて、俺達の攻撃も勢いを上げた。
それがかなり効いたのか、一気に扉の中に押し込み、扉の中の不思議な空間の奥にどんどん遠ざかっていった。
「ソルト・カーテリアスーーーー!!!!!!!」
ギランの最後の悪あがきなのか、影が俺に一直線に向かってきた。押し込んだと同時にトルネロス達が石盤から石を外してくれていたおかげで、影は俺の目と鼻の先辺りで止まり、そのまま消えた。
…この時に少しビビった事を、きっと誰にも言うことはないと思う。
静まり返った空間に、ラピス、マーム、そしてサファイアの歓喜の声が響く。
「「「やったーーーーーーーーー!!!!!!」」」
ものすごく大きな歓声が、空に響き渡る。みんなの笑顔が溢れんばかりとこぼした。空にあった大きな穴も小さくなっていく。
…これで、終わったんだ。やっと…俺のやるべきことも終わった…。これで…良かったんだ。
─────そう。思ったんだ。この時の俺は…。まだ、やるべきことがあることを…いや、やるべきことが起こることを、分かってなかった。
晴れ間が見えない曇天が、俺を見下ろしている。
〜4〜
ラピスがみんなに抱き着いて、喜びを表現していた。主に、女子メンバーだけどな?やっぱり、みんなが笑顔だと、俺も嬉しくなる。良かった…。
「ソールト!!」
「うわっ!?い、いきなり抱きついてくるなよ!ビックリするだろ!?」
「だって嬉しいんだもん!」
ラピスが俺に抱き付いてきて対応に困っていたとき、ユーリは確実に自分の異変に気がついていた。
(なんだ…?電気の出が悪いな…。“ボルテッカー”を使ったからか?)
「ユーリ…?どうしたの?」
ユーリが暗い顔をしているのに気がついたサファイアが、ユーリに話しかけてきた。
「うん?大丈夫さ。気にするなって」
「そう…?なんか…深刻そうな顔してたから…。なんかあったら言ってね?」
「あぁ。ありがとな?」
サファイアに笑顔で返したユーリだったが、やはり電気の出が悪いことが気になっていた。その事がユーリを変えることなんて、誰も思ってなかったが、この話は、もう少し後の話になる。
俺の所にスイミルがやって来て、話しかけてきた。
「あなた方のおかげで、この世界の危機も去りました。本当にありがとうございました」
「そ、そんなに改まらないでください!大統領のおかげでもあるんです!ありがとうございました!」
「貴方は…本当に…」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
ハニカムような笑顔で返してくれたが、すこしだけ何が言いたかったのか気になった。まぁ、今はそんなことよりも、もう少しだけ喜びに酔いしれていたい気分だ。
すると、そんな事をも邪魔するように、ズドン!と言う音ともに大きな揺れが起きた。
「ふぇ!?な、何!?」
「多分、アファールを封印去れたから、神殿が浮遊することが出来なくなったんだね」
「シュートュー!なんでそんなに冷静に分析してるの!?」
「慌てても仕方ないからね…。流石に、僕だけでも冷静じゃないと、後々大変だろうし」
「流石って言いたいけど、そんなことよりもなんとかしよーよ!シュートュー!」
浮遊できなくなったって事は、落ちるってことだよな!?この下って…確か…中央州のど真ん中じゃないか!!!
「うわぁぁぁ!!!どうしよ!どうしよーー!!このまま落ちたら、私達も、中央州もペチャンコだよー!」
「まぁ、間違いなく中央州は壊滅だろうね」
「ヘラってそんなこと言わないでーー!!」
シュトュウルムとマームの言い合いも、よくよく聞いてみればかなり色んな事を言ってるんだな。
って、なんで俺こんなに冷静なんだ?
「ねぇシャナ!シャナの“テレポート”でなんとかならない!?」
「流石の私でも、こんなに大きな建物を移動するのは不可能よ」
「えー!?じゃあ、どうするの!?」
「そんなことを言われても…」
ラピスの甲高い声が、マームの声と共に反響する。て言うかうるせぇ。
まぁ。確かに、今の俺たちに出来ることなんて何一つとしてない。でも、ここでなにもしないわけには行かないんだ。でも…どうやって?
「……あそこ。誰かいるよ?」
「え?あ、本当だ。ピンク色の…ポケモン?だよね」
空にポケモンと思われるピンク色の物体が浮いていた。遠くてよく分からないが、神秘的な雰囲気を感じる。
───ソルト。
え?誰かが俺の心に話しかけてくる。もしかして…あのピンク色のポケモン?
───世界を守ってくれてありがとう。これは、僕からのお礼だよ?君はまだ、生きていないといけないポケモンだから…。これからも、この世界をお願い!
すると、ピンク色のポケモンから光が放ち始めた。ここから見ても眩い光に、目が眩む。
でも、落ちている感覚はやっぱり残ってる。お礼って何とかしてくれることじゃないのかよ!
「もうダメーー!!!」
確実に落ちた。でも、落ちたのは…地面ではないのは確かだ。ザッパーンと言う音がそれを証明している。え?ザッパーン?
俺は起きあがって、周りの状況を見渡した。周りのものとかは、崩れて壊れていた。瓦礫が上から落ちてきたからなのか、あの扉も崩れて瓦礫と混ざってる。
崩れた壁の向こう側から、青い空と、青い海が見えた。
「海…」
そうか…俺たち…海に着地したのか?…ってどうやって!?もしかして…あのピンク色のポケモンが…俺達を助けてくれたのか?
すると、他のみんなも起き出した。
「う…うん?私…生きてる?」
「ラピス!大丈夫か?ケガは?」
「大丈夫…。それにしても…ここどこ?」
「どこかも分からない海の上さ。でも、助かったんだよ。俺たち…」
そう…助かったんだ…。俺たちは今生きてる。それにはかわりない。
スミラルが、船をこっちに向かわせた。と言う報告を聞いて、とりあえず一段落した。みんな、思いもいに話している。
「あ、晴れてたんだね。太陽が眩しいよ」
そう言えば…いつの間にか曇天が晴れに変わっていた。ものすごく暖かい太陽の光が、俺達を包み込んでくれる。
…この時、俺は初めて青空が綺麗だと感じたのかもしれない。いつもある青空が、俺の目にうつっていた。
すると、ラピスが落ち着いた声で俺に話しかけてきた。
「終わったんだね…なにもかも」
「そうだな…。…帰るか」
「え?」
「“ミストライル”。俺達の街にさ」
「うん!!!一緒に帰ろう!?」
スミラルが呼んだ船がこっちに近付いてきた。この旅も…これで終わる。でも、またみんなに会いたい。いや、きっとまた会えるよ。俺達がここに生きている限り…。
海の上に浮かんでいる要塞に別れをつげながら、俺たちは後にした。そう言えば…もう少ししたら、あの時期だな。あ、みんなにまた会える事が出来る方法があるじゃないか。
「なぁ、みんな」
「うん?どうかしたのかい?」
「1ヶ月後、“星の丘”に夜8時にまた集まってくれないか?」
「え?なんで?」
「それは1ヶ月後のお楽しみ。あ、後さ。この旅が終わってからの目標を必ず立ててから来ることな?」
みんなの頭の上に?が浮かんでいるのは気にしないで、これから起こる事に期待を持ちながら…俺は海をただ眺めていた。
そして────そんな姿を見ているポケモンが3匹。
「これで良かったんだな?ミュウ」
「うん。ラティオス。彼らは、この世界を救った英雄だよ?これからも…こんなことを2度と繰り返さないために…必要なんだ」
「そうね。きっと彼らなら…受けついでいってくれるわ。さぁ、ラティオス。私達も行きましょう?」
「そうだなラティアス。俺達にはまだやらないといけない事があるからな。じゃあな。ミュウ」
「うん。またね」
そう言って、2匹はどこかへ飛び去ってしまった。
ミュウと呼ばれたピンク色のポケモンだけがそこに残る。
「……ありがとう」
そう呟いて、ミュウもどこかに行ってしまう。
俺達の頭上にある太陽が、俺達を祝福してくれるようだ。まるで、誰かに感謝の言葉を言われたように感じた。